どこからすれ違いが起きる? 関係を深めるためにできること

「愛されたい」と願っているのに、
どうしても心が満たされない。

大切な人がそばにいるはずなのに、
愛情を感じられず苦しくなる。

そんな経験はありませんか? 

もしかすると、その原因は
“あること”に気づいていない
からかもしれません。

この記事では、
その“あること”に焦点を当て、
愛を感じやすくなるためのヒントを
探っていきます。

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あなたは何を求めている?

「愛されていない」
と感じて苦しむ人には、
多くの場合
ある共通点があります。

それは、自分がどんなときに、
どんな形の優しさや好意を受けたときに
「愛されている」と感じるのか──
その基準をはっきりと
意識できていないことです。

あなたは、
自分が相手に何を求めているのか、
どんなことを望んでいるのかを
明確にできていないのかもしれません。

そのため、ただ漠然と
「愛されていない」
と感じてしまうのです。

心の奥にある本当の願いが何なのかを
自分でもつかめないまま、
満たされない思いだけが
胸に残っている状態です。

けれども、これは
珍しいことではありません。

たとえば、ある女性は夫から
高価なアクセサリーを贈られました。

ところが彼女は、
「夫の気持ちはありがたいけれど、
プレゼントをもらっても
あまりうれしくない」と感じていました。

彼女が本当に欲しかったのは、
夫と二人で穏やかに過ごす時間や、
何気ない会話のひととき
だったのかもしれません。

しかし、自分でもその思いに
気づけなかったため、
理由の分からない満たされなさを
抱え続けていたのでしょう。

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「私の愛」と「あなたの愛」は違う

やっかいなのは、自分が
「相手がこうしてくれたら愛を感じられる」
とわかっていたとしても、
相手にとって同じことが
「愛の表現」になるとは
限らないという点です。

なぜなら、「愛されている」
と感じる瞬間や関わり方は、
人によってまったく異なるからです。

つまり、誰もが
それぞれ違う愛の形を
求めているのです。

ある男性は、
パートナーが疲れて帰ってきたときに
マッサージをしてあげることこそ、
最高の愛情表現だと信じていました。

彼自身がマッサージをしてもらうときに
「愛されている」と強く感じるからです。

ところが、
彼のパートナーにとっては、
マッサージよりも
「今日はどんな一日だった?」
と話を聞いてもらう時間のほうが、
ずっと愛情を感じられるふれあいでした。

彼は毎晩のように
一生懸命マッサージをしていましたが、
パートナーは「私の話を聞いてくれない」
と不満を募らせていったのです。

愛を感じる形には、
実にさまざまなものがあります。

たとえば、
しっかり抱きしめてもらうこと。

じっくり話を聞いてもらうこと。

一緒に旅行へ行き、
同じ時間をゆっくり共有すること。

「大好きだよ」「大切に思っている」
と言葉で伝えてもらうこと。

プレゼントをもらうこと。

家事を手伝ってもらうこと。

褒めてもらうこと。

スキンシップをとること。

一緒に笑い合うこと。

挙げればきりがないほど、
愛の形は多様です。

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夫婦のすれ違い――愛しているのに伝わらない悲劇

このことを知らないままでいると、
お互いが望まない形で愛を与え続け、
どちらも満たされないまま
関係がぎくしゃくしてしまうことも
あるでしょう。

ここでは、いくつかの夫婦の例を
見てみましょう。

ある妻は、夫と一緒に
ゆっくり過ごす時間を強く求めていました。

二人でソファに座り、テレビを見ながら
他愛のない会話を交わす。

そんな穏やかなひとときを、
彼女は心から望んでいたのです。

ところが夫にとっての愛の形は
プレゼントでした。

彼は毎月のように妻へ贈り物をし、
記念日には高価なジュエリーを
用意していました。

しかし妻は、夫が仕事やゴルフに忙しく、
一緒に過ごす時間がほとんどないことに
寂しさを感じていたのです。

夫は「これだけ贈り物をしているのに、
なぜ喜んでくれないのか」と戸惑い、
妻は「物よりも、あなたと過ごす時間が欲しい」
と心の中で訴えていたのです。

別の夫婦では、妻は夫に
話を真剣に聞いてもらいたい
と切実に願っていました。

仕事での悩みや友人との出来事を、
ただ静かに聞いて
共感してほしかったのです。

けれども夫は、妻を助けたい一心で
「それはこうすればいい」
「こう考えたほうが解決できる」
とアドバイスを返してしまいます。

夫は愛情をもって接していたのですが、
妻にとっては
「気持ちを分かってもらえない」
と感じる関わり方でした。

やがて妻は悩みを話さなくなり、
二人の間には見えない壁が
できていきました。

さらに別の夫婦では、妻にとって
夫と一緒に旅行へ行くことが
最高の喜びでした。

新しい場所を訪れ、
非日常を共有する時間。
それが彼女の求める愛の形だったのです。

一方、夫にとっての愛の形は、
妻からの気配りでした。

仕事から帰ったときに
冷えたビールが待っていることや、
夕食が温かい状態で用意されていること──
そんな日常の思いやりを、
彼は強く望んでいました。

けれども妻は仕事で多忙で、
そうした細やかな気遣いをする余裕が
ありませんでした。

この夫婦の場合、
夫が身の回りの世話をすることで
愛情を伝えようとしても、
妻にはそれが愛情として響きませんでした。

妻が求めていたのは、
「今度の週末、一緒に温泉旅行へ行こう」
という誘いだったからです。

ところが夫は、
「疲れているだろうから
家でゆっくり休んで。
僕が掃除も洗濯もしておくよ」と言います。

夫は思いやりからそう言ったのですが、
妻は「私が欲しいのはそれじゃない」
と心の中でつぶやいていたのです。

また別の夫婦は、結婚して五年が経った頃、
深刻な危機を迎えました。

夫は毎日早朝から深夜まで働き、
家族のために必死に稼いでいました。

彼にとって、
家族を経済的に支えることが
最大の愛情表現だったのです。

一方、妻は
夫が家にいる時間がほとんどないことに
寂しさを感じ、
「私は愛されていない」と思い込んでいました。

彼女が求めていたのは、
夫と一緒に夕食を食べたり、
子どもと遊ぶ時間を共有することでした。

夫は「こんなに家族のために
働いているのに、
なぜ感謝されないのか」と傷つき、
妻は「お金よりも、
あなたがそばにいてほしい」と涙を流しました。

二人とも心から相手を愛していたのに、
その愛の形が噛み合わなかったのです。

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愛の形を相手にリクエストする勇気

このような状況で、どうすれば
関係の悪化を防げるのでしょうか?

まず大切なのは、
自分がどんな形で
愛を感じるのかを明確にし、
その思いを「リクエスト」として
相手に伝えてみることです。

そうしなければ、自分の望みは
いつまでも相手に伝わらないままに
なってしまうでしょう。

「愛の形をリクエストする」というのは、
決してわがままでも甘えでもありません。

それは、二人の関係を
よりよく育てていくための、
勇気ある一歩なのです。

多くの人は、「もし相手が
本当に私を愛しているなら、
言わなくても分かってくれるはず」
と信じたいと思うでしょう。

けれども、それは幻想です。

どんなに愛し合っていても、
相手の心の中を
完全に理解することはできません。

だからこそ、言葉にして
伝えることが大切なのです。

先ほど紹介した、プレゼントを贈る夫と、
一緒の時間を求める妻のケースでは、
ある日、妻が思い切って本音を語りました。

「あなたがプレゼントをくれる気持ちは
ありがたい。でも、私がいちばん幸せを感じるのは、
あなたと一緒にソファに座って、
他愛のない話をしているときなの。
週末の二時間だけでもいいから、
ゆっくり過ごす時間を作ってもらえないかな」
と伝えたのです。

夫は驚きながらも、「そうだったのか。
僕はずっと、高価なプレゼントを贈ることが
君を幸せにすると思っていた」と気づきました。

それから彼は、毎週日曜の午後を
“二人の時間”として確保するようになり、
妻の表情は
以前よりずっと明るくなったのです。

また、アドバイスをしたい夫と、
話を聞いてほしい妻の夫婦も、
対話によって関係が変わりました。

妻はこう伝えました。
「あなたのアドバイスは確かに的確で、
理にかなっていると思う。でも、
私が欲しいのは解決策じゃなくて、
ただ『それは大変だったね』って
共感してもらうことなの。
私が『今日こんなことがあってね』と話し始めたら、
まずは聞いてもらえないかな」。

夫は少し考えてから、「分かった。
じゃあ君が解決策を求めているときは、
『どうすればいいと思う?』
って聞いてくれる?」と応えました。

この小さな約束が、
二人のコミュニケーションを驚くほどスムーズにし、
心の距離をぐっと近づけたのです。

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相手の愛の形を知ることも、同じくらい大切

自分の望む愛の形を伝えることと
同じように大切なのが、
相手の愛の形を理解することです。

「あなたはどんなときに、
愛されていると感じる?」と、
ぜひ尋ねてみてください。

その答えは、あなたの想像とは
まったく違うものかもしれません。

ある妻は、夫に「どうしてほしい?」
と聞いてみました。

すると夫は、
「君が僕の仕事の話を
ちゃんと聞いてくれると、
すごく愛されていると感じる」
と答えたのです。

彼女はこれまで、家事をしながら
何となく夫の話を聞いていました。

しかし、それが夫にとって
大切な愛の形だったと知ってからは、
意識して手を止め、夫の目の前に座って
しっかり耳を傾けるようになりました。

それ以来、夫は以前より
ずっと穏やかに、笑顔で
家に帰ってくるようになったのです。

別の夫婦のケースでは、夫が妻に
「どんなときに幸せを感じる?」と尋ねました。

妻は「あなたが私の作った料理を
『美味しい』って言って、
おかわりしてくれるときがいちばんうれしい」
と答えました。

夫はそれまで
無言で食事をしていましたが、
その言葉をきっかけに、意識して
「美味しいね」と言葉にするようになりました。

すると妻はますます
料理を楽しむようになり、
食卓には自然と笑顔が増えていったのです。

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伝え方にも工夫を

愛の形をリクエストするときには、
「どう伝えるか」もとても大切です。

言い方ひとつで、相手の受け取り方は
まったく変わってしまうからです。

相手を責めるような言葉は避けて、
自分の気持ちを穏やかに、丁寧に
伝えることを意識しましょう。

たとえば、「あなたは全然
私の気持ちを分かってくれない」
と言われたら、
誰でも身構えてしまうものです。

責められていると感じると、心が閉ざされ、
そのあとの言葉が
届かなくなってしまうでしょう。

けれども、「私は~してもらえると、
とても嬉しく感じるんだ」
と言い方を変えるだけで、
相手の心の反応は大きく変わるものです。

このように、自分の気持ちを
主語にして伝える“アイ・メッセージ”を使うと、
相手は否定されたと感じず、
素直に受け止めやすくなるでしょう。

伝える内容を
「過去や現状への不満」ではなく、
「これからこうしてもらえたら嬉しい」という
未来に向けた提案に変えることが大切なのです。

「あなたは私の話を全然聞いてくれない」
と言われると、相手は「そんなことはない」
と反論したくなるものです。

一方で、「これから、夜寝る前の十五分だけ、
今日あったことを話す時間を作れたら嬉しいな」
と伝えれば、相手も「それならできそうだ」
と前向きに受け止めてくれるでしょう。

伝え方をほんの少し変えるだけで、
同じ思いでも、
相手の心に届く温度がぐっと変わります。

このことを心に留めて、
リクエストを伝えてみましょう。

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求めるものも、変わっていくもの

人が求める愛の形は、
人生の流れとともに
少しずつ変化していくものです。

結婚当初は「一緒に出かけること」
が何よりの喜びだった人が、
子育てに追われる時期には
「少し一人の時間がほしい」
と感じることもあります。

若い頃は言葉で
愛を確かめたいと思っていた人が、
年齢を重ねるにつれて
「静かにそばにいてくれること」に
深い愛を感じるようになることも
あるでしょう。

だからこそ、愛の形のリクエストは
一度きりではなく、
人生のさまざまな段階で
繰り返し行うことが大切です。

「今のあなたは、
どんなことをされると幸せを感じる?」と、
定期的に尋ね合うことで、
二人の関係はいつまでも新鮮で、
深い信頼に満ちたものになるでしょう。

ある夫婦は、結婚三十年を迎えたときに
「今、一番してほしいこと」
をお互いに伝え合いました。

夫は「君が僕の隣で本を読んでいる姿を
見ているだけで幸せだ」と言い、
妻は「あなたが私の手を握ってくれるだけで
安心する」と答えました。

若い頃とはまったく違う愛の形でしたが、
お互いにその思いを分かち合うことで、
二人の絆はさらに深まっていったのです。

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おわりに

この記事では、
「愛されていない」と感じて
苦しんでいる人に向けて、
人それぞれの「愛の形」が
異なることをお伝えしました。

まず、愛されていないと感じるとき、
多くの人は自分が本当は
何を求めているのかを
はっきり分かっていません。

だからこそ、
「自分はどんなときに愛を感じるのか」
「どんなことをしてもらえると嬉しいのか」
を意識して明確にすることが大切です。

次に、その気づきを相手に素直に
リクエストとして伝えてみましょう。

その際には、
伝え方にも工夫が欠かせません。

責めるような言い方ではなく、
「私は〜してもらえると嬉しい」というように、
自分の気持ちを主語にして伝えることで、
相手の心により優しく届くでしょう。

また、自分だけでなく、相手が
どんなことで愛を感じるのかを聞き出し、
それに応えようとする姿勢も大切です。

お互いの「愛の形」を理解し合い、
無理のない範囲でそれに応え合えば、
関係はより深まり、
思いやりの循環が生まれていくでしょう。

望む愛の形は
時間とともに変化していくものです。

だからこそ、人生の折々で
「今のあなたは、どんなときに幸せを感じる?」
と確認し合うことが、
関係を長く温かく保つ秘訣になります。

もし今、心のすれ違いを感じているなら、
この記事でお伝えしたことを思い出しながら、
お互いの「愛の形」を理解し合うための対話を
始めてみてください。

その一歩が、二人の関係を
優しく変えていく助けになるでしょう。