「幸せになりたい」という気持ちは、
世界中の人々に
共通する願いではないでしょうか。
けれども実際には、
「自分は幸せだ」
と感じられないこともあります。
その背景には、幸せに対する
誤った思い込みや勘違いが
潜んでいるのかもしれません。
この記事では、
ポジティブ心理学の視点から
「幸せを妨げる3つの要因」
について、お話しします。
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幸せになることに対する罪悪感
最初の誤解は
「幸せになることに対する
罪悪感」です。
あなたもこんなふうに
感じたことはないでしょうか?
「世の中には
苦しんでいる人がたくさんいるのに、
自分だけが幸せになるなんて
申し訳ない」と。
特に日本人は、
他者への思いやりを
大切にする文化的背景もあり、
自分の幸福を追い求めることに
後ろめたさを覚える人が
少なくありません。
けれども、これは幸せに関する
大きな誤解の一つです。
ポジティブ心理学の研究によれば、
幸福は決して
利己的なものではありません。
なぜなら、
周囲の人々の幸せに寄与し、
社会に貢献するためには、
まず自分自身が幸せであることが
欠かせないからです。
このことは「幸福の波及効果」として
科学的にも裏づけられています。
幸せな人は幸せオーラに包まれ、
自然と周囲にも
前向きな影響を与えるものです。
家族や友人、同僚、さらには
地域社会にまで
その効果は及ぶでしょう。
笑顔は人から人へと伝わり、
前向きな態度は相手を勇気づけ、
心が安定している人は
意欲的になって建設的な行動を
取りやすくなるからです。
逆に考えてみてください。
自分が不幸で
心に余裕がないときに、
本当に誰かを支えたり、
幸せにしたりできるでしょうか?
飛行機の安全説明でも
「まず自分自身に
酸素マスクをつけてから
他の人を助けてください」
と指示があるように、
まず自分自身が幸せで
安定していることが、
他者を助けるための
前提となるのです。
幸福な人は
創造性や生産性が高まり、
より良い発想や解決策を
生み出しやすくなります。
これは個人の成長にとどまらず、
組織や社会全体にも
プラスの効果をもたらします。
つまり、
あなたが幸せになることは
決して自己中心的な行為ではなく、
社会への大切な
貢献でもあるのです。
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成功が幸せを生むのではなく、幸せが成功を生む
幸せを妨げる二つ目の要因は、
「成功すれば幸せになれる」
という思い込みです。
あなたも一度は
考えたことがあるかもしれません。
「大きなことを
成し遂げられたら幸せになれる」と。
たとえば、
「年収が2000万円になったら
幸せになれる」
「結婚相手が見つかったら
人生が変わって幸せになれる」
「あの会社に転職できれば
幸せになれる」といった具合です。
ここに共通しているのは、
「外的な条件が満たされることで
初めて幸福が得られる」という点です。
この考え方は
一見もっともらしく思えますが、
ポジティブ心理学の研究から見ると
正しいとは言えません。
実際には、
外的条件と幸福度との相関関係は、
私たちが想像するほど強くないのです。
プリンストン大学の研究によれば、
年収が7万5千ドル(約800万円)までは
収入の増加とともに
幸福度も高まりますが、
それ以上になると
その効果は頭打ちになると示されています。
日本の内閣府の調査でも
同じ傾向が見られ、
年収700万〜1000万円未満と
1000万〜2000万円未満の幸福度には
大きな差がなく、
収入が増えても
幸福度はあまり変わらないことが
報告されています。
ポジティブ心理学には
「幸福優位性」(ハピネス・アドバンテージ)
という概念があります。
これは
「成功するから幸せになる」のではなく、
「幸せだからこそ成功しやすくなる」
という考え方です。
幸福な状態にある人は、
そうでない人と比べて
多くの面で優位に立ちます。
免疫機能が高まり、
平均寿命が延びる傾向にありますし、
仕事ではパフォーマンスが向上し、
創造的な解決策を
見出しやすくなります。
人間関係においても、
良好なコミュニケーションを築き、
安定した関係を
長く維持しやすいのです。
つまり、外的な豊かさや成功は
幸福の原因ではなく、
結果なのです。
内なる幸福感こそが、
外の世界に豊かさを生み出す
原動力となるといえるでしょう。
それでは、なぜ私たちは
「成功すると幸せになれる」
と思い込んでしまうのでしょうか?
その背景には、
消費社会の影響や、
目に見える成果を重視する
文化があるのでしょう。
広告は常に
「これを手に入れれば
幸せになれる」と訴え続け、
私たちは無意識のうちに
その価値観を受け入れてしまいます。
また、成果主義の社会では
成功者が称賛されやすいため、
成果を上げることこそが
幸せの条件だと思い込んでしまう人も
少なくありません。
「成功が幸せを生むのではなく、
幸せが成功を生む」
という視点を理解できれば、
ただがむしゃらに
成果を追い求めるよりも、
まず自分の内面を整えて
幸せを感じられる状態になることが
大切だと納得できるでしょう。
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「ポジティブ至上主義」は幸せをもたらさない
幸せを妨げる三つ目の要因は、
「ポジティブ至上主義への崇拝」です。
つまり「幸せになるためには、
常に前向きでいなければならない」
と必死に努力する姿勢が問題なのです。
「いつも笑顔で!」
「ネガティブな気持ちは悪だから
排除しよう!」といった考え方で、
自分を無理やりポジティブな状態に
保とうとすることは、
かえって逆効果になるからです。
一見すると健全で
理想的に思えるかもしれませんが、
実際にはその姿勢こそが
私たちを真の幸福から
遠ざけてしまうのです。
ウェルビーイング研究者である
タル・ベン・シャハー博士は、
この「ポジティブ神話」から
離れることを強く推奨しています。
彼の研究によれば、
幸せになるためには、逆説的ですが、
つらい感情をありのまま認めることが
欠かせないのだそうです。
特に困難な状況に
直面しているときに、
無理やり前向きになろうと
すればするほど、
心は苦しくなるでしょう。
「こんなことで落ち込んではいけない」
「もっと前向きに考えなくては」
と自分を責めることで、
もともとのネガティブな感情に加え、
自己批判という二重の苦しみを
背負ってしまうからです。
人間は感情の生き物です。
喜びや誇り、安心感、楽しさ
といったポジティブな感情もあれば、
悲しみや怒り、不安、恐れ、失望
といったネガティブな感情もあります。
これらの感情は
心の中で生まれては消え、
その循環を繰り返します。
それは人間にとって
自然な営みであり、
否定したり押さえ込んだりするよりも、
感じるままに
受け入れたほうがよいのです。
ネガティブな感情も、
その存在を認めてあげることで、
やがてやわらいでいくものです。
ありのままを受け止める姿勢は、
自己受容を深め、
心の健康や成熟を
育むことにもつながります。
ネガティブな感情を
受け入れられる人は、
心の器が広がり、
自分に対しても他者に対しても
寛容になれるものです。
その結果、人間関係も豊かになり、
そこから新たな幸せを
感じ取れるようになるでしょう。
つまり、
ポジティブ神話を崇拝して
苦しいときに
笑顔を取り繕うのではなく、
辛さを辛さのまま
受け止めることこそが、
真の幸福に近づくための
大切な道なのです。
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心の状態を整えるマインドフルネスの勧め
では、心を幸せな状態にするためには、
どうすればよいのでしょうか?
その答えのひとつが、
自分の心を整えることです。
そして、そのために
有効とされている方法の一つが
「マインドフルネス」です。
マインドフルネスとは、
「今この瞬間」に意識を向け、
評価や判断を加えずに、
自分の感情・思考・身体感覚を
そのまま観察する実践のことです。
たとえば、
怒りが込み上げてきたときに
「ああ、今私は怒りを感じているのだな」
と気づき、
その感情を否定せず受け止めます。
練習を重ねることで、
感情に振り回されることが減り、
落ち着いて適切に対応できる力が
高まっていくでしょう。
これは心の安定や平穏に
大きく役立つものです。
実践方法は、日常の中に
無理なく取り入れられるものが
多くあります。
たとえば、
朝起きたときに数分間、
静かに座って
呼吸に意識を向ける瞑想を
行うのもよいでしょう。
食事の際に味や香り、
食感にしっかり注意を向ける
「マインドフル・イーティング」
も効果的です。
歩いているときに
足の感覚や
周囲の音に耳を傾けたり、
日常的な作業の中で
手の動きや身体の感覚を
意識したりすることも方法の一つです。
大切なのは、ほんの数分であっても、
毎日繰り返し「今この瞬間」に
意識を戻す練習を続けることです。
科学的研究によれば、
マインドフルネスを継続的に実践することで、
感情の調整に関わる脳の働きに
変化が見られること、
ストレスホルモン(コルチゾール)
の分泌が減少する傾向、
さらに免疫機能の改善も確認されています。
また、集中力や記憶力の向上、
創造性の高まりといった効果も
報告されています。
もちろん効果の表れ方には
個人差がありますが、
少しずつ積み重ねていくことで、
自分の心を穏やかに整える
手助けになるでしょう。
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感謝日記を始めてみよう
心を整え、幸福感を育む方法として、
マインドフルネスと並んで
効果的だとされるのが
「感謝の実践」です。
その代表的な方法のひとつが
「感謝日記」です。
これは、毎晩眠る前に
その日に感謝できることを
三つ書き出すという、
シンプルな習慣です。
たとえば、「友人から
優しい言葉をかけてもらった」
「天気がよくて気持ちよく散歩できた」
「仕事を予定通りに終えられた」など、
小さなことでもかまいません。
大切なのは、
その出来事に意識を向け、
「ありがたい」と感じる気持ちを
しっかり味わうことです。
心理学の研究によれば、
この習慣を数週間続けるだけで
幸福度が高まり、
ストレスが軽減される効果が
報告されています。
さらに、感謝できることを
日常的に意識することで、
人間関係がより良くなり、
人生全体への満足感も
高まる傾向があるとされています。
忙しい毎日の中でも、ほんの数分を
「感謝できることを振り返る時間」
にあてることで、
心が穏やかになり、前向きな気持ちを
少しずつ育てていけるでしょう。
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おわりに
この記事では、
ポジティブ心理学の視点から
「幸せを妨げる三つの要因」
についてお話ししました。
ここでもう一度、そのポイントを
おさらいしましょう。
第一に、自分が幸せになることに
罪悪感を抱く必要はありません。
なぜなら、
自分が幸せであるからこそ、
その安心感や喜びは
自然と周囲へと広がっていき、
周りの人々を幸せにできるからです。
あなたの幸せは
決してあなただけのものではなく、
周囲の人々をも明るく照らす力を
持っているのです。
だからこそ、ためらわずに
幸せを追い求めてよいのです。
第二に、
幸せをもたらすのは成功ではなく、
幸せな心の状態こそが
成功を引き寄せる
という視点を持つことです。
この順序を理解するだけで、
人生の歩み方は
大きく変わっていくでしょう。
そして第三に、
「常にポジティブでいなければならない」
という思い込みは、
かえって自分を苦しめてしまいます。
大切なのは、どんな感情も否定せず、
そのまま受け入れること。
ありのままの自分を認めることで、
自己受容が深まり、
自己肯定感が育まれ、
真の幸福へとつながっていくでしょう。
さらに、
幸せを外に探すのではなく、
自分の内面を整えることの大切さ
についても触れました。
その実践法として紹介した
マインドフルネスや感謝日記は、
いつでもどこでも
気軽に取り入れられるものです。
幸せとは、特別な条件を
満たしたときに
訪れるものではありません。
「今、この瞬間」にある
小さな喜びや感謝に気づくことから、
少しずつ育まれていくものです。
どうか今日から、
日々のささやかな喜びを大切にしながら、
自分らしい幸せを
育んでいってください。
あなたの未来が
明るいものになりますように。