思いどおりにならない
人間関係に悩むのは、
多くの人が経験することでしょう。
そんなとき、私たちはつい
相手を自分の期待どおりに
動かそうとしてしまいます。
しかし、それはうまく行かず、
かえって関係を
こじらせてしまうでしょう。
この記事では
人間関係を悪化させる
「7つの致命的な習慣」を紹介し、
良好な関係を築くためのヒントを
考えます。
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人間関係の悩みを解決する鍵は「主体性」にある
私たちは日々、
さまざまな人との関わりの中で
生きています。
家族や友人、近所の人々、
職場の上司、同僚、ママ友、恋人など、
関係の種類は異なりますが、
共通して言えることがあります。
それは、
相手とうまくいかないときでも、
自分の期待どおりに
相手を変えることはできない、
ということです。
「過去と他人は変えられないけれど、
自分と未来は変えられる」
という有名な言葉があります。
この言葉の真意は、
よりよい人間関係を築くためには、
自分と未来に意識を向け、
「主体性」を持って、
今の自分にできることを
実践していくことが
大切だということです。
主体性とは、
コントロールできないことに執着せず、
自分がコントロールできることに
意識と行動を集中する姿勢を指します。
世界的ベストセラー
『7つの習慣』の著者、
スティーブン・R・コヴィー博士も、
永続的な幸せを実現するための
第一の習慣として
「主体的であること」を挙げています。
ただし、
ここで誤解しないでください。
「他者を変えることはできない」
というのは、決して
「他者に対して
何も要求してはいけない」
という意味ではありません。
むしろ、自分の要望を適切に伝え、
相手の気持ちにも耳を傾けながら、
お互いが満足できる解決策を
探っていくことこそが、
真の主体的なコミュニケーションなのです。
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人間関係を破壊する「7つの致命的習慣」
米国の精神科医
ウィリアム・グラッサー博士は、
私たちが相手を自分の思いどおりに
変えようとするときに使いがちな
(つまり、「主体的ではない」)
7つの破壊的なコミュニケーション方法を
「7つの致命的習慣」と名づけました。
なぜ「致命的」なのかというと、
これらの方法は明らかに逆効果であり、
長期的には必ず
人間関係を悪化させるからです。
第1の習慣は「批判すること」です。
相手の人格や行動を否定的に評価し、
変えようとする方法です。
第2は「責めること」。
問題の原因が相手にあるとして
攻撃することです。
第3は「文句を言うこと」で、
一方的に不満をぶつける行為です。
第4の「説教すること」は、
正論を振りかざし
相手を説得しようとする態度です。
第5の「脅すこと」は、
「〜しないと困ることになる」
といった言い方で、脅しにより
相手を動かそうとすること。
第6の「罰すること」は、
思いどおりにならない相手に対して、
口をきかない、意地悪をするなどの
対抗手段を取ることです。
そして第7の「報酬で釣ること」は、
自分の言うことに従えば
褒美を与えるという形で、
相手を操作しようとするやり方です。
これらの方法に共通しているのは、
いずれも「外的コントロール」
であるという点です。
相手を自分の期待どおりに
動かそうとするあまり、
一方的に不当な圧力をかけてしまいます。
立場的に相手が弱ければ、
一時的に従わせることは
できるかもしれませんが、
長い目で見れば
相手の心には不満が蓄積していき、
関係は破綻の一途を
たどることになるでしょう。
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外的コントロールが関係を破綻させる理由
なぜ「7つの致命的習慣」のような
外的コントロールが
逆効果になるのでしょうか?
その理由を心理学的な観点から
考えてみましょう。
人間は本能的に
自由を求める生き物です。
批判や脅しなどの
外的コントロールを受けると、
まず防衛反応が働きます。
この防衛反応は、
相手との間に心理的な壁を作り、
本音でのコミュニケーションを
阻害してしまいます。
また、外的コントロールは
短期的には
服従を生み出すかもしれませんが、
それは表面的なものにすぎません。
相手の内面では
不満やストレスが蓄積し、
やがて爆発的な反発として
表れることが多いのです。
さらに、コントロールできない相手を
変えようとすることで、
コントロールする側にも
感情的な悪循環が生まれます。
思いどおりにならないことへの
苛立ちや怒り、失望感が積み重なり、
相手への不満も増していきます。
結果として、
信頼関係を得られるどころか、
人間関係は悪化してしまうでしょう。
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Win-Winのアプローチ
では、「7つの致命的習慣」に代わる
建設的なコミュニケーション方法とは、
どのようなものでしょうか?
それは、自分の気持ちも
相手の気持ちも大切にする
「Win-Winのアプローチ」です。
まず重要なのは、
自分の気持ちを率直に伝えることです。
そのためには、
「Iメッセージ」が効果的です。
たとえば、
「あなたが〜するからいけない」
「あなたがこうするから迷惑だ」
といったように
「あなた」を主語にするのではなく、
「私は〜と感じている」
「私は〜してもらえたら助かる」といった形で、
「私」を主語にして
自分の感情や要望を
素直に表現する方法です。
これにより、相手を責めることなく、
自分の状況をより正確に
伝えやすくなるでしょう。
次に大切なのは、相手の気持ちにも
真摯に耳を傾けることです。
相手にも必ず、何らかの
事情や理由があるのでしょう。
それを理解しようとする姿勢が、
建設的な対話の土台となるのです。
そして最も重要なのは、
お互いが満足できる解決策を
見つけるために、
協力して問題の解決を目指す姿勢です。
「どうすればお互いが納得できるか」
という視点を持ち、
共にさまざまな選択肢を
検討していくとよいでしょう。
このアプローチの本質は、
問題を「自分と相手の共通の課題」と捉え、
それを一緒に解決していこうとする
姿勢にあります。
これこそが、真の
主体的コミュニケーション
と言えるでしょう。
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ユミさんの夫婦関係改善ストーリー
ここでは、具体的な事例を通して、
主体的コミュニケーションの効果を
見てみましょう。
専業主婦のユミさんは、
3歳と1歳の二人の子どもを育てながら、
家事のほとんどを一人で担っていました。
毎日が育児と家事の連続で、
自分の自由時間はほとんどなく、
疲労とストレスが蓄積し、
気分がふさぎがちになっていました。
ユミさんの心の中には、
「自分だけが
こんなに苦労するのは不公平だ」
という不満がありました。
そして夫に対して、
「あなたは何も手伝ってくれないのね。
夫婦って協力しあう関係でしょ。
~さんのご主人は、
子どもの面倒をよく見てくれるのよ」と、
他人の例を引き合いに出して正論を振りかざし、
夫を非難することもよくありました。
しかし、夫の反応は
「僕だって仕事で疲れているんだから、
専業主婦のお前が
子育てや家事をするのは
当たり前だろう!」というもので、
話し合いは平行線をたどっていました。
転機が訪れたのは、
ユミさんが主体的コミュニケーションを
学び始めてからでした。
まず、自分の感情を
素直に認めることから始めました。
「疲れている」「助けがほしい」
「限界を感じている」
といった気持ちを受け止め、
Iメッセージを使って
率直に夫に伝えるようにしたのです。
「私は毎日の家事と育児で
くたくたです。
少しでも手伝ってもらえると
助かるのだけれど」と、
批判することなく
自分の状況を説明しました。
最初、夫は戸惑い、
「僕も仕事で疲れているんだ」
と拒否的な反応を示しましたが、
ユミさんは感情的にならずに
こう伝えました。
「あなたの仕事が大変なのは
よく分かっています。だから、
疲れていることも理解しています。
でも、私も限界なんです。
どうか少しでも協力してもらえたら、
私は本当に助かるの」と、
落ち着いた態度で要望を伝え続けました。
数週間後、
夫婦は一つの合意に至ります。
夫は週末に2時間だけ
子どもの面倒を見ること、そして
ユミさんはその間に
自由時間を確保する
という取り決めでした。
たったこれだけのことですが、
ユミさんの心の状態は
劇的に改善しました。
「少しだけでも
休息できるようになってから、
心にゆとりが出て、
冷めかけていた夫への愛情も
戻ってきました。
夫も子どもとの時間を楽しむようになり、
家族全体がよい雰囲気になりました」と、
ユミさんは語っています。
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円滑なコミュニケーションに必要なこと
では、私たちが日常生活で
円滑なコミュニケーションを行うためには、
どうすればよいのでしょうか?
まず最初に取り組むべきことは、
自分の感情を
素直に受け入れることです。
多くの人は、
「悲しい」「悔しい」「妬ましい」
といったネガティブな感情を持つことを
悪いことと捉え、
それを抑え込もうとしがちです。
しかし、感情を抑圧しても、
なくなるわけではありません。
心の奥に蓄積され、
モヤモヤの原因になったり、
やがて望ましくない形で
外にあふれ出てしまうことも
あるでしょう。
そうなると、相手との
良好なコミュニケーションの妨げに
なってしまいます。
自分の中に湧き上がる感情を
「そう感じているんだな」
と素直に認めることが、
円滑なコミュニケーションへの第一歩です。
毎日数分間、静かに
自分の内面と向き合う時間を
持ちましょう。
「今日はどんな気持ちになったか」
「何にストレスを感じたか」と問いかけ、
どのような感情が湧いても、
良い・悪いと判断せずに
そのまま受け入れることが大切です。
次に、相手と対話をするときには、
「1. 批判する」「2. 責める」「3. 文句を言う」
「4. 説教する(言って聞かせる)」
「5. 脅す」「6. 罰する」「7. 褒美で釣る」
といった「7つの致命的な習慣」を
意識して避けることが大切です。
また、「あなたが~したから」
といったように「あなた」
を主語にして話すのではなく、
「私はこう感じている」と、
自分を主語としたIメッセージで
気持ちを伝えると、
相手を責めずに
対話を進めやすくなるでしょう。
同時に、
相手の話にも真摯に耳を傾け、
相手の立場を理解しようとする姿勢を
忘れないことも重要です。
「自分の気持ちを素直に認め、
その気持ちを正直に相手に伝える」
「相手の立場も理解しようと努める」
そして、「この問題は
自分と相手、両者に関わる課題であり、
一緒に協力して
Win-Winの解決策を探していく」――
このような姿勢で
関わっていくことが求められます。
つまり、
相手と対立するのではなく、
共に問題を解決しようとする気持ちで
コミュニケーションを取ることが、
何よりも大切なのです。
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完璧を目指さず、一歩ずつ進んでいこう!
最後に、お伝えしておきたい
大切なことがあります。
それは、
「完璧を目指す必要はない」
ということです。
実は、『7つの習慣』の著者である
コヴィー博士自身も、
著書の最後でこう語っています。
「私は、この本の中で取り上げた
多くのことに関して、
今もなお奮闘努力を続けている」と。
人間関係の専門家でさえ、
日々学び、成長し続けているのです。
この言葉は、私たちに
大きな希望を
与えてくれるのではないでしょうか?
私たち一般の人間が、
すぐに完璧なコミュニケーションを
身につけるのは現実的ではありません。
大切なのは、自分のペースで、
無理なく少しずつ改善していくことです。
「7つの致命的習慣」を完全に避けるのは、
難しいかもしれません。
ときには感情的になって
相手を批判してしまったり、
思いどおりにいかないことに
苛立ちを覚えたりすることもあるでしょう。
それは人間として自然なことです。
重要なのは、
そんな自分を責めるのではなく、
「今回はうまくいかなかったけれど、
次はもう少し上手に対応してみよう」
と前向きな気持ちでいることです。
失敗を学びの機会と捉え、
一歩ずつ前に進んでいけばよいのです。
主体的コミュニケーションは、
一夜にして身につくものではありません。
しかし、継続的な練習と
自己受容を通じて、
必ず自分のものにできるでしょう。
そして、その過程で得られる
人間関係の質的向上は、
私たちの人生を
確実に豊かにしてくれるでしょう。
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おわりに
この記事では、
「人間関係を悪化させる
7つのNG行為」をテーマに、
人間関係をこじれさせる
7つの致命的な習慣——
批判する・責める・文句を言う・
説教する・脅す・罰する・報酬で釣る
を紹介しました。
こうしたアプローチを続けていれば、
長期的には、人間関係は
悪化の一途をたどってしまうでしょう。
それを避けるために大切なのが、
「主体的コミュニケーション」
を目指すことです。
相手を無理に
自分の思いどおりに
変えようとするのではなく、
自分にできることに
意識と行動を集中させ、
自分のほうから働きかけていく姿勢が
求められます。
具体的には、
自分の感情を素直に受け止め、
それを冷静に伝える力を養うこと。
そして、
相手の話にも丁寧に耳を傾け、
お互いが納得できる解決策を
一緒に探っていくことが大切です。
相手と対立するのではなく、
共に問題に向き合い、協力して
乗り越えていこうとする姿勢が、
信頼と安心感を育んでくれるのです。
もちろん、こうした考え方や方法を
完璧に実践するのは
簡単ではありません。
私たちは人間ですから、
感情的になってしまうこともあれば、
つい批判的な言葉が
口をついて出てしまうこともあるでしょう。
でも、それでもかまいません。
大切なのは、
そうしたときにも自分を責めず、
「次はもう少し上手にやってみよう」
と前向きな気持ちで試し続けることです。
たとえ小さな変化であっても、
続けていくうちに、
あなたのまわりの人間関係は少しずつ、
でも確実に
穏やかで心地よいものへと
変わっていくでしょう。
その歩みが、あなたにとって
実りあるものとなりますように。