「できれば関わりたくないけれど、
どうしても避けられない人がいる」
そんな悩みを
抱えたことはありませんか?
そうした人間関係の中で
自分の心を守るために大切なのは、
「心理的な距離」を確保することです。
この記事では、
相手と同じ空間にいながらも、
自分の心の平穏を保つための
具体的な方法をご紹介します。
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物理的に離れられない関係がもたらす息苦しさ
嫌いな相手や、
どうしても気が合わない人が
身近にいることで、
心が疲れてしまう経験は、
多くの人に覚えがあるでしょう。
できれば、
ストレスの原因となる相手から
物理的に距離を取れればよいですが
現実の人間関係は
そう単純ではありません。
分かりやすい例のひとつが、
家族との関係です。
過干渉な親と
距離を取りたいと思っても、
相手はためらいなく
生活の中に入り込んできます。
「やめてほしい」と伝えても、
「あなたのため」という言い分で、
自分の考えを
押しつけてくることもあるでしょう。
本当は別々に暮らすことが
できればよいのですが、
経済的な理由や
さまざまな事情が重なり、
それがかなわない場合もあります。
そうなると、
会いたくなくても、
顔を合わせ続けることになります。
職場の人間関係も、
同じように複雑です。
理不尽な要求をする上司がいても、
正面から意見をぶつければ
評価に影響が出たり、
その後の仕事に支障が出たりする
可能性もあるでしょう。
日常的に
高圧的な態度を取られたり、
人前で叱られたり、
無理な要求を受けたりする中で、
「それはおかしいです」と言い返すことは、
現実的には困難です。
周囲にあれこれと指示や意見を
重ねてくる同僚との関係も、
悩ましいものです。
仕事上の連携が欠かせないため、
物理的な距離を置くことはできず、
かといって相手の考えを
受け入れてばかりでは、
自分の中に
不満が積み重なってしまいます。
さらに、
取引先やクライアントのように、
立場上どうしても
円滑な関係を保つ必要がある相手が、
心の負担になっている場合も
あるかもしれません。
このような職場の人間関係では、
退職や異動といった選択が、
いつでも現実的とは限りません。
だからこそ、
その場に身を置いたまま、
自分の心をどう守るのかを
考えることが大切なのです。
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観察者の視点――カメラ越しに相手を見るという工夫
では、避けたいと思っていても、
現実には物理的な距離を
取れない相手がいる場合、
私たちはどのようにして
自分の心を守ればよいのでしょうか?
方法はいくつかありますが、
まずお伝えしたいのは、
相手を「観察対象」として
捉え直すという考え方です。
私たちが深く傷ついたり、
強い怒りや落ち込みを
感じたりする背景には、
相手に対して
期待を抱いてしまうことがあります。
分かってほしい、理解してほしい、
できればうまくやっていきたい。
そうした気持ちがあるからこそ、
期待とは違う反応をされたり、
否定的な言葉を向けられたりしたとき、
心は大きく揺さぶられてしまうのです。
そこで、
少し視点をずらしてみましょう。
相手を近しい関係の人としてではなく、
カメラのレンズや望遠鏡越しに
眺める存在として見るのです。
まるで舞台の上で
人間模様を演じている俳優を観るように、
一歩引いたところから、
静かに様子を眺めます。
たとえば、親がいつもと同じ
自己中心的な考えを
押し付けるような発言をしたとき、
それを「何度も繰り返されるお決まりの台詞」
だと受け止めてみてください。
「ああ、また始まったな。
今日も変わらぬ流れだな」と、
心の中で実況するのです。
感情の渦に巻き込まれる代わりに、
ドキュメンタリー番組の
ナレーターになったつもりで、
淡々と実況中継してみましょう。
こうした視点を持つことで、
心が大きくかき乱される感覚は
軽減されるでしょう。
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心の中で役割を入れ替える――変装の技術
次にご紹介するのは、
心理的な「変装」を用いた方法です。
この方法では、
今ここにいる自分は
本当のあなたではなく、
あなたの姿を借りた別の誰かだ
と想像します。
たとえば、あなたのことを
心から応援してくれている友人が、
状況を正しく理解するために、
いっときあなたと入れ替わっている
と想像してみましょう。
その第三者の視点に立ち、
目の前で繰り広げられる
相手の態度や言葉遣いを、
静かに観察してみるのです。
「外ではあんなに
感じよく振る舞っているのに、
本人にはこの扱いなのか」
「もっともらしい正論を並べて、
良い親を
演じているつもりなのだろうな」
「なるほど、
これでは確かに息が詰まる」
といったように、
心の中で淡々とコメントしていきます。
それと同時に、
分析が可能な場合には、
相手の言動を自分なりに分析してみます。
たとえば、会議で、部下の意見を
頭ごなしに否定する上司を見たら、
「自分の立場を守るために、
強く出ているのだろう」と捉えます。
人前で叱責してくる場合には、
「周囲に権威を示したいのかもしれない。
内心では不安を抱えているのだろう」
と分析します。
無理な締め切りを
押し付けてくるときには、
「現場の状況が見えていないのか、
それとも上からの圧を
そのまま流しているのか」
と考えてみるのです。
こうした心の中での分析を通して、
上司の言動を
その人の立場や心理の表れとして
捉え直すことができれば、
心の傷も最小限に抑えられるでしょう。
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言葉の力を使う――内なる対話を味方にする
さらに取り入れやすく、
効果を感じやすい方法として、
自分自身との対話を
意識的に使う方法があります。
相手の否定的な
言葉や態度に直面したとき、
心の中で
自分に優しく語りかけてみましょう。
「これは
私の価値を決めるものではない」
「この人の考えは、
数ある見方の一つに過ぎない」
「私は私のペースで進めばよい」。
あらかじめ、自分を支える言葉を
用意しておくとよいでしょう。
また、相手の発言を
心の中で翻訳し直すのも、
役立ちます。
たとえば、親が
「あなたのためを思って言っている」
と口にしたとき、
それをそのまま受け取るのではなく、
「自分の不安を和らげたいから、
こう言っているのだな」
と置き換えてみます。
そうすることで、必要以上に
相手に反応しなくて済むでしょう。
自分を支える言葉を、
繰り返し自分自身に
語りかけてあげることで、
外から投げかけられる声に
影響を受けにくくなり、
心も落ち着きを取り戻していくでしょう。
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最後の切り札を用意しておくことも
嫌な人間関係に
心身ともに疲れ果て、
もう何も対処できない
と感じてしまうときも
あるかもしれません。
そんなときのための
緊急避難的な方法として、
「体調不良を装う」
という選択肢があります。
最初から
この方法に頼るのではなく、
どうにもならなくなった場合の
最後の切り札として
心に留めておくことで、
気持ちはずいぶん楽になるでしょう。
相手が何を言ってきても、
ぼんやりとした表情で
「ごめんなさい、体調が優れなくて」
とだけ伝えます。
これはあくまで最終手段ですが、
「どうしようもなくなったら、
こうやって逃げてもよい」
という逃げ道を
心の中に用意しておくことには、
大きな意味があります。
この安全弁があることで、
限界を超えて
精神的に追い詰められたり、
感情が爆発してしまったりする事態を
防ぎやすくなるからです。
「もう逃げ場がない」
「このまま耐え続けるしかない」
という感覚こそが、
心を最も消耗させる要因になります。
しかし、
実際に使うかどうかは別として、
「いざとなったら
体調不良を理由に身を引ける」
という選択肢が心の中にあるだけで、
受け止め方は大きく変わるでしょう。
これは心理学でいう
「コントロール感」に関わるものです。
自分には選べる道があり、
状況に対応する手段を持っている
と感じられることは、
ストレスへの耐性を
大きく支えてくれます。
たとえその手段を実行しなくても、
「使おうと思えば使える」
という安心感が、
心に余白をもたらしてくれるのです。
その余白があるからこそ、
もう少し踏ん張ってみよう、
別のやり方を試してみよう
という気持ちも生まれてくるでしょう。
反対に、
「何があっても耐えなければならない」
「逃げることは許されない」
と自分を追い込んでしまうと、
心は疲れてしまいます。
緊急脱出口がある
と知っているだけで、
人は驚くほど多くの重圧を
受け止められるようになるのです。
ただし、これは
本当に追い詰められたときのための
非常手段です。
日常的な基本の対処としては、
これまでにお伝えしてきた
ほかの方法に頼っていくことが
望ましいでしょう。
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おわりに
この記事では、
嫌だと感じながらも
避けられない相手と
向き合わなければならないとき、
物理的に距離を取らずに
心を守るための考え方や工夫について
お伝えしました。
ここでご紹介した方法は、
一度試しただけで
すぐに身につくものではありません。
日々の生活の中で
少しずつ取り入れながら、
自分にとって無理のない形を
見つけていくことが大切です。
まずは、
比較的ストレスの少ない場面で
練習してみてください。
普段のやり取りの中で
観察者の視点を意識してみる。
小さな場面で
変装の技術を試してみる。
そうした積み重ねが、
本当に必要になったとき、
自然に使える力へと
つながっていくでしょう。
また、
自分を支える言葉についても、
日頃から
「どんな言葉をかけると
心が落ち着くのか」を考えておき、
必要なときには意識して
自分に語りかけてあげてください。
それだけでも、心の状態は
少しずつ変わっていくでしょう。
さらに、
どうにもならなくなったときには
最後の手段がある
と知っているだけで、
追い詰められて
心が苦しくなる状況を
避けやすくなります。
こうした心理的な距離を取る
技術を身につけていくことで、
相手の言動に
心をかき乱される場面は減り、
より穏やかな気持ちで
日々を過ごせるようになるでしょう。