言葉で伝えるって、こんなに大事だったんだ!

他者に不満や怒りを感じたとき、
本当は素直に「嫌だ」「困る」
と伝えられればよいのに、
つい遠回しな態度で
不満を示してしまう――
そんな経験はありませんか?

この記事では、
人間関係を複雑にし、
悪化させてしまう
「受動的攻撃行動」について、
その背景や
もたらす影響を解説しながら、
関係をよりよくするためのヒントを
探っていきます。

====

受動的攻撃行動とは?

受動的攻撃行動とは、
その概念の発祥地であるアメリカでは
「パッシブ・アグレッシブ・ビヘイビア」
とも呼ばれ、文字どおり
「受け身」でありながら
「攻撃的」なコミュニケーションの形を
指します。

たとえば、
相手に「困る」とはっきり言わず、
不機嫌そうな態度をとったり、
あからさまにため息をついたり、
無視したりするような行動。

また、本来なら褒めるべき場面で
あえて何も言わなかったり、
返信すべきメールを放置し続けて
相手を困らせるような行為も
よい例です。

不満を抱いていながら、
それを言葉にせず、
不快感やダメージを与えるような態度で、
遠回しに相手を攻撃しようとする――
これが受動的攻撃行動の本質です。

一見すると、正面からの衝突を
避けているようにも見えますが、
実際には相手を傷つけたり
困らせたりすることを意図しており、
その点で“攻撃的”だと言えます。

しかも本人には
「ただ黙っているだけ」
「怒るわけにもいかないから仕方なく」
といった言い訳が通りやすく、
自分の行動が攻撃的であることに
気づきにくいのです。

嫌な表情やため息といった些細な行動でも、
積み重なることで相手をいら立たせ、
コミュニケーションを
うまくいかなくしてしまいます。

これは、健全な人間関係を築くうえで、
望ましいものではありません。

====

受動的攻撃行動の概念が生まれた背景

受動的攻撃行動
(パッシブ・アグレッシブ・ビヘイビア)
という言葉の起源は、
アメリカの軍隊にあるといわれています。

軍隊の上下関係は非常に厳しく、
上官に逆らうことは許されません。

しかし、
兵士も感情を持つ人間ですから、
上官に対して不満や怒りを
抱くことも当然あります。

けれど、それを
正面から訴えることはできません。

その結果として取られたのが、
仕事をわざと遅らせたり、
できないふりをして
上官を困らせるといった
間接的な嫌がらせでした。

これは、正面衝突を避けながらも、
相手への怒りや反発を
発散する方法だったのです。

こうした行動パターンが
「パッシブ・アグレッシブ・ビヘイビア」
として注目され、
心理学の分野で
研究されるようになりました。

直接言葉で伝えることを避け、
遠回しに相手に嫌がらせをする――
それが受動的攻撃行動です。

本人は「何も言っていない」
「指示どおりに動いているだけ」
と主張できますが、
実際には相手を攻撃しているのです。

このような状況は、軍隊のような
厳格な縦社会で特に起こりやすく、
やがてひとつの概念として
定着していきました。

====

受動的攻撃行動は日本人にも多い

受動的攻撃行動は、日本でも
比較的よく見られる傾向があります。

その背景には、日本特有の文化が
影響していると考えられます。

日本人は
「和を大切にする」文化の中で育っており、
相手を正面から否定したり、
強く言い返したりすることは
「よくない」とされる
暗黙のルールがあります。

そのため、
不満をストレートに伝えることに
強い抵抗を感じる人が
少なくないのです。

「本当は怒っているけれど、
波風を立てたくない」
と思う人が多いのも、
そうした価値観によるものです。

とはいえ、気持ちは収まらず、
受け身の姿勢を保ちながらも、
相手に不快感を与えるような行動に
出てしまうことがあります。

また、日本の学校や家庭では、
「大人しくしていなさい」
「余計なことは言わないほうがいい」
といった教育を受けることもあり、
自分の不満や違和感を率直に伝えるよりも、
態度や遠回しな表現で示すほうが
安全だと感じてしまうのです。

さらに、「察する文化」も、
受動的攻撃行動を
助長している可能性があります。

言葉にしなくても
気持ちを汲み取ってもらうことが
美徳とされる環境では、
怒りの表情などを通じて
「察してほしい」と思う場面が
少なくありません。

こうした文化的背景により、
受動的攻撃行動は
日本で比較的多く見られる現象と
なっているのでしょう。

====

歪んだコミュニケーションがもたらす悪影響

受動的攻撃行動を続けていると、
コミュニケーションは
次第に歪んでいきます。

本来なら率直に話し合うことで
解決できるはずの問題が、
遠回しな攻撃の応酬となり、
事態をさらにこじらせてしまうからです。

相手を困らせることで
溜飲を下げたつもりが、
逆に怒りや嫌悪感を強めてしまい、
関係が悪化するという
負の連鎖を生み出しかねません。

受動的攻撃行動を受ける側は、
相手の真意がわからず
不愉快な思いをしながら、
どう対応すればよいのかもわからず、
ストレスをためてしまいます。

また、こうした行動が多い人は、
周囲から「意地悪な人」「嫌味な人」
と受け取られ、
人間関係がぎくしゃくしていきます。

やがて孤立し、本人自身も
つらい思いをすることになるでしょう。

言いたいことを伝えられないだけでなく、
相手に嫌われてしまい、
関係がうまくいかず、
不満も解消されない――
その積み重ねは、
やがて大きなストレスとなります。

このような状態が
職場や家庭で続けば、
コミュニケーションの断絶が
組織や家族全体に広がり、
居心地の悪い空気を
生み出してしまうでしょう。

====

直接的なコミュニケーションの勇気

もしあなたが、誰かから
受動的攻撃行動を受けていると感じたなら、
まずはその相手との距離を
見直してみてもよいでしょう。

自分にとって
特に重要ではない相手であれば、
無理に不快な関係を
続ける必要はありません。

できるだけ距離を取り、
関わりを減らすことで、
受動的攻撃行動によるストレスから
自分を守ることができるでしょう。

とはいえ、仕事仲間や家族など、
簡単には距離を置けない相手もいます。

そうした場合には、
できるだけ直接言葉を交わす努力が
求められます。

たとえば、
ため息をつかれたときには
「そのため息には
どんな意味があるの? 
何か気になることがあるなら
話してほしいな」と問いかけてみる。

無視され続けているときには
「返事をいただいていない件が
あるのだけど、
どう対応すればいいかな?」
と丁寧に聞いてみるのです。

大切なのは、
相手がごまかそうとしている「何か」を、
具体的な言葉に変換させるような質問を
投げかけることです。

受動的攻撃行動をとる人は、
面と向かったやり取りを
苦手としていることが多く、
こちらが穏やかな態度で
明確に問いかけることで、
相手が受け身のまま攻撃する余地を
減らすことができます。

感情的になることなく、
「何を考えているのか」
「どこに不満を抱えているのか」を
質問という形で引き出すことが、
良好な関係を築く第一歩になるでしょう。

====

自分の本音に向き合い、伝える勇気を持つ

この記事を読んで、
ドキッとした方もいるかもしれません。

「もしかして、自分も
受動的攻撃行動をしていたかも…」
と思い当たる節があるなら、
そこから抜け出すことを
考えてみてはいかがでしょうか?

というのも、
遠回しに嫌がらせをするような態度を
続けていれば、「陰険な人」
という印象を持たれてしまい、
人間関係がこじれるだけでなく、
やがて自分自身が
つらい思いをすることになるからです。

だからこそ、
自分の本音にしっかり向き合い、
勇気を出して
伝える練習をすることが大切です。

実践の第一歩として、
「アサーティブ・コミュニケーション」
を意識してみましょう!

これは、
自分の気持ちや意見を率直に、
かつ相手を尊重しながら
伝えるコミュニケーションの方法です。

自分の考えを押しつけるわけでも、
我慢して飲み込むのでもなく、
対等な立場で
対話することを目指します。

「そう思いません」「困っています」
といった表現を、静かでも
はっきりと伝えることがポイントです。

相手の意見にも耳を傾けながら、
自分の気持ちもきちんと伝えることで、
よりよい関係を築くきっかけになるでしょう。

もちろん、最初はうまくいかないことも
あるかもしれません。

でも、少しずつ練習していけば、
「遠回しに攻撃するよりも、
率直に伝えたほうがずっとよかった」
と実感できる場面が、
きっと増えていくはずです。

====

おわりに:健全な人間関係への第一歩

この記事では、
「受動的攻撃行動」に焦点を当て、
それがもたらす悪影響や
改善のヒントについて
お話ししてきました。

受動的攻撃行動は、
本人も気づかないうちに
人間関係を
じわじわとむしばんでいきます。

周囲にも負の感情を広げ、
相互理解の機会を
奪ってしまうという点で、
けっして見過ごしてよい問題ではありません。

たとえ小さなため息ひとつであっても、
それが積み重なることで、
コミュニケーションは複雑になり、
不健全な方向へと進んでしまうでしょう。

文化的な背景や、これまでの経験など、
さまざまな理由で
受動的攻撃行動が習慣化していることも
あるかもしれません。

しかし、だからといって
変えられないわけではありません。

気づいたときこそが、
見直しのタイミングです。

不満や違和感があるなら、
丁寧に言葉で
伝えてみることを意識してみましょう。

小さな一歩でも、それが
人間関係に大きな変化を
もたらすきっかけになります。

直接伝えることには勇気がいりますが、
その勇気が、相手の気持ちを知り、
自分の思いも伝え合える関係への
第一歩となるのです。

そして少しずつ、お互いが
気持ちよく過ごせるような関係へと
変わっていくでしょう。

そのためにも、
「お互いを理解し合おうとする、
率直なコミュニケーション」を
心がけましょう!