私たちには、親や祖父母から
無意識のうちに受け継いできた
「家族のパターン」が
存在していることがよくあります。
そして、それが
自分らしく生きることの妨げに
なっていることも珍しくありません。
この記事では、
家族にひそむパターンを読み解き、
望ましくない関係や習慣の連鎖から
抜け出すためのヒントを
お伝えします。
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繰り返される家族のパターン:無意識の世代間連鎖とは
家族の歴史を振り返ってみて、
「あれ、自分も
親と同じような道を歩んでいるかも?」
と感じたことはありませんか?
それは「世代間連鎖」と呼ばれる現象で、
親から子へと
行動様式や価値観が
繰り返されていくものです。
その背景には、
育った環境で目にしてきた
コミュニケーションのあり方や、
家族特有のルールが深く関わっています。
たとえば、子どもに
厳しいしつけをしていた家庭では、
その子が親になったときにも、
同じように自分の子どもにも
厳しく接する傾向が見られます。
毒親に育てられた人が、
知らず知らずのうちに
自らも同じような親になることも
少なくありません。
また、祖父母の代から続く
商売を営む家では、
「家を継ぐのが当たり前」
といった暗黙の了解が、
次の世代にも引き継がれていきます。
このように、
私たちは無意識のうちに
家族のパターンを受け継ぎ、
それを疑うことなく
「これが普通」と思い込んでしまう
傾向があります。
人は成長の過程で、
一緒に暮らす家族から
多くの影響を受けるものです。
子どもは親の言動を通して、
「常識とはこういうものだ」と学び、
やがて自分が親になったとき、
その振る舞いを
無意識に繰り返すようになるのです。
さらに日本の文化には、
「親を否定してはいけない」
「親の言うことには従うべき」
といった価値観が根強く残っており、
親世代への遠慮から、
受け継いだパターンに
疑問を抱くことさえ
はばかられる空気があります。
そのため、
家族から受け継いだ生き方を
当然のこととして受け入れ、
結果として、自分も親と同じ歴史を
なぞってしまうことも
珍しくありません。
それでも、もしその家族のパターンが、
自分らしく生きることの
妨げになっていると感じたなら、
無意識の連鎖に目を向け、
そこから自分自身を
解き放ってあげることが大切です。
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ジェノグラムで見える家族の歴史とパターン
家族に繰り返されるパターンに
気づくための有効な手法のひとつに、
「ジェノグラム」というツールがあります。
ジェノグラムとは、家族の構成や関係性、
出来事などを図式化した、
家系図に似た図です。
一般的な家系図と異なり、
ジェノグラムでは
結婚・離婚・同居・死別
といった出来事に加え、
感情的な関係(たとえば仲がよい、
対立しているなど)も記号で表現されます。
これにより、家族内で繰り返されている
行動パターンや重要な出来事が、
一目でわかる見取り図として
可視化されるのです。
実際にジェノグラムを描いてみると、
「世代を超えて似たような出来事が
繰り返されている」ことに
気づくことがあります。
たとえば、ある家系では
「父親と娘の不仲」が
何世代にもわたって続いていたり、
別の家系では
「母親と息子の過度な密着」が
繰り返されていたりします。
さらに、「兄弟間の対立」が
何世代にもわたって
見られる家族もあります。
また、
薬物依存症のある男性のケースでは、
父方の家系をたどると、
曾祖父がアルコール依存症、
祖父が女性関係への依存、
父親がギャンブル依存症と、
代々何らかの依存症を
抱えていたことがわかりました。
これらはほんの一例ですが、
ジェノグラムによって
こうした繰り返しのパターンが
可視化されると、
家族の歴史に潜むテーマが
浮かび上がり、
自分自身の在り方を
より望ましい方向へと
見直していくことが
可能になります。
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「家族神話」が作る思い込みとその影響
家族には、代々受け継がれてきた
価値観や信念のようなものが
存在することがあります。
こうした家族全体で
共有される信念体系は、
「家族神話」と呼ばれます。
家族神話とは、その家族の中では
当たり前とされている
暗黙のルールや価値観のことで、
世代を超えて
家族全体を縛る力をもっています。
一見すると
微笑ましい「わが家の教え」
のようにも思えますが、実際には、
個人の選択肢を狭め、
自分らしい生き方を
困難にしてしまうことも
少なくありません。
たとえば、
「家族は常に一緒にいるべきだ」
という家族神話があります。
「家族は助け合うものだから、
離れて暮らすなんてとんでもない」
「子どもは結婚後も
親のそばに住むべきだ」といった価値観が、
親から子へと
繰り返し刷り込まれていくのです。
こうした信念が強い家庭では、
たとえ子どもが
遠方で挑戦したい仕事を見つけても、
「親元を離れるなんて親不孝だ」
という無言の圧力により、
地元に残る選択をしてしまうことも
珍しくありません。
職業に関する
家族神話もあります。
たとえば医師の家系では、
「男の子は医師に、
女の子は医師の妻になるべき」
といった考えが当たり前のように
受け継がれていることがあります。
こうした家族内の
無言の期待や暗黙のルールは、
本人も気づかないうちに
プレッシャーとなり、
進路や人生の選択に
大きな影響を及ぼします。
また、「長男は家を継ぎ、
親の面倒を見るものだ」
という信念が強い家庭では、
長男自身がやりたいことをあきらめ、
家の使命を優先せざるを得ない
雰囲気が生まれます。
一方で、「次男は自由にしてよい」
という神話が
セットになっていることもあり、
弟はあまり期待されず、
放任される傾向にある――
そんな構図が当たり前のように
根づいている場合もあります。
このような家族神話のもとでは、
長男は重圧に苦しみ、
次男は逆に居場所のなさを感じるなど、
兄弟それぞれが
生きづらさを抱えることに
なるのです。
「うちの家族は、いつも
よい人でいなければならない」
という神話もあります。
一見すると
美徳のように思えますが、
これは「家族はみんな優しくあるべき」
「わがままを言ってはいけない」
「人前で弱音を吐くのはよくない」
といった自己犠牲的な価値観
となって受け継がれます。
こうした信念をもつ家族では、
たとえつらいときでも
「愚痴を言ってはならない」
と感情を押し殺し、助けが必要でも
「自分でがんばるのが当然」
と援助を求めることができません。
その結果、
一人ひとりが限界まで抱え込み、
心が疲弊してしまうことも
あるのです。
これらの家族神話は、
あまりにも当然のように
語り継がれてきたため、
疑うこと自体が
難しくなっている場合が
ほとんどです。
しかし、その影響で、
本当に望んでいた進路を
あきらめてしまったり、
必要な助けを
求められなかったりと、
人生の選択肢を狭め、
自分自身を苦しめてしまうことも
あるのです。
しかも厄介なのは、
こうした家族神話が
無意識に信じ込まれている点です。
そのため、
自分がその影響下にあること自体に
気づきにくいのです。
「それが当たり前でしょ?」
という思い込みの陰に、実は
家族から植えつけられた神話が潜んでいる――
そんなことも
決して珍しくありません。
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自己分化:家族の影響から心理的に自立する
代々受け継がれてきた
家族のパターンや家族神話が、
自分らしく生きることを
妨げていると感じたとき、
どうすればそこから抜け出し、
自分自身の人生を
歩めるのでしょうか?
その鍵となるのが、
「自己分化」という概念です。
自己分化とは、「自分の心」と
「家族の心」を区別し、
心理的に自立する力のことを
指します。
家族療法の第一人者であるボーエンは、
子どもが育った家族(原家族)からの
情緒的な影響を手放し、
自分の意志で
行動できるようになるプロセスを
「自己分化」と名づけました。
「自己分化」は、
家族の期待や感情に
過度に振り回されることなく、
自分の考えや価値観に基づいて
選択できる状態を意味します。
自己分化が進んだ人は、
たとえ親や周囲から
「こうするべきだ」と言われても、
自分の気持ちを
見失わずにいられます。
たとえば、
家族全員が公務員という家庭で
「安定した職が一番」
と期待されたとしても、
本人に別の夢があるならば、
穏やかに、しかしはっきりと
「自分はこの道に進みたい」
と意思を示すことができるのです。
それは家族を
否定することではなく、
「自分は自分、家族は家族」
と健全な境界線を引き、
互いを尊重する姿勢にほかなりません。
一方で、自己分化が低い人は、
生育環境の影響から
心理的な自立が難しく、
何をするにも
家族の顔色をうかがったり、
自分の判断よりも
家族の意見に頼りがちです。
そのため、自分の選択に
しっくりできないまま
日々を過ごしていたり、
人生の満足度が
低かったりすることも多いです。
人によっては、中年期に
ミッドライフクライシスを迎え、
「これまでの人生は
本当にこれでよかったのだろうか?」
と疑問を抱くこともあるのです。
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自己分化を高めるアプローチ
まず最初のステップは、
「自分の家族を
客観的に振り返ること」です。
前述したジェノグラムを
実際に描いてみたり、
家族の歴史について
親や親戚に話を聞くことで、
「うちの家族には
こんなテーマがあるのかもしれない」
と気づけるかもしれません。
公認心理師の信田さよ子氏は、
「過去の生育歴を振り返ることは、
前向きに生きるために
必要な作業であり、それができれば
世代間連鎖を防ぐこともできる」
と述べています。
自分のルーツを知ることは、
よりよい未来を築くための
土台にもなるのです。
それによって、望ましくない
行動や関係性の世代間連鎖も
防ぎやすくなるからです。
次に、「自分の素直な感情を
外に出してみる」ことも大切な一歩です。
たとえば、「本当は
親の期待に応えるのがつらい」
「親の前でよい子でいることに
疲れてしまった」
といった気持ちに気づけたなら、
その思いを日記に書いたり、
信頼できる友人や専門家に
話してみるとよいでしょう。
そうすることで、自分が何に悩み、
何を望んでいるのかが
少しずつ整理されていきます。
これは、家族から
心理的に一歩距離を置き、
自分自身の声に耳を傾ける
大切な作業でもあります。
さらに、「小さな一歩を
踏み出してみる」ことも有効です。
家族のパターンを変えるといっても、
いきなり劇的な変化を
起こす必要はありません。
むしろ、日常のなかで
少しずつ異なる選択を
重ねていくことが、
大きな変化につながります。
たとえば、
いつも親の助言どおりに
行動していた人が、
自分の意思で
休日の過ごし方を決めてみる、
家族に遠慮して
あきらめていた趣味を
思いきって始めてみる――
そうした小さな挑戦が大切なのです。
最初は後ろめたさや不安を
感じるかもしれませんが、
いざやってみると、
意外と家族の反対がなかったり、
自分自身が「やってみてよかった」
と実感することもあるでしょう。
そして最後に、
「必要に応じて
専門家のサポートを受ける」ことも、
選択肢のひとつとして
考えてみてください。
家族に関する問題はデリケートで、
長年慣れ親しんできた関係性の中から
自力で抜け出すのは、
容易ではないと
感じることもあるでしょう。
そんなときには、
家族療法やカウンセリングを通じて、
客観的な視点や
具体的な対処スキルを得ることで、
一人では難しかった一歩を
踏み出せることがあります。
専門家は、
家族を否定するためではなく、
あなた自身が望む人生を歩むための
伴走者として
寄り添ってくれるでしょう。
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おわりに:連鎖を断ち切り、「自分らしい人生」を歩む
この記事では、家族の中で
代々受け継がれてきたパターンに気づき、
それを乗り越える方法について
考えてきました。
もし、あなたが受け継いだパターンが
「自分らしく生きること」
の妨げになっていると感じるなら、
それに気づき、乗り越えるための
プロセスを踏むとよいでしょう。
そのプロセスには、葛藤や痛みを
伴うこともあるかもしれません。
自分だけが「家族の掟」を
破ってしまうような罪悪感を
覚えることもあるでしょう。
しかし、あなたがあなたらしく
生きていくためには、その痛みの先へと
一歩踏み出す勇気が必要です。
あなたの選択は、表面的には
家族を裏切るように
見えるかもしれません。
でも、長い目で見れば、
それはあなた自身だけでなく、
家族全体にも
よい影響をもたらすはずです。
なぜなら、あなたが
本当に幸せになることこそが、
家族にとっても
大切な意味を持つからです。
そしてあなたが望ましくない連鎖を
断ち切ることで、
次の世代には新しい選択肢と、
もっと風通しのよい家族関係が
受け継がれていくことでしょう。
家族のパターンに気づいたあなたは、
すでに変化への一歩を踏み出しています。
あとは焦らずに、自分の望む方向へ
少しずつ舵を切っていけばいいのです。
ときには家族と
本音で向き合うこともあるでしょうし、
ときには静かに距離をとり、
自分の人生に集中する時間が
あってもかまいません。
あなたが「自分らしい人生」を選ぶことは、
決して親不孝でも
わがままでもありません。
家族の歴史を大切にしながらも、
その延長線に
自分を無理に合わせる必要はないのです。
あなたが
心から幸せになることこそが、
家族への何よりのギフトとなるでしょう。
どうか、自分の心の声に
静かに耳を傾けてください。
家族から受け継いだものの中には、
今も大切にしたい教えがある一方で、
「もう、これは今の自分には合わないな」
と思うものがあるでしょう。
そんなときには、
それを手放す勇気を持ってください。
その先には、きっとあなたらしい、
かけがえのない人生の物語が
広がっているでしょう。