過去の嫌な思い出は
どんなに悔やんだところで、
その事実は変えられない。
だから今更、掘り返すことなく、
きれいサッパリ忘れたほうが
自分のためになるという説がある。
確かに、それは一理あるだろう。
過去の嫌な出来事を思い出し、
ネガティブ感情に襲われて、
自分が不快になるだけなら、
思い出さないほうがずっとマシだ。
しかし、私は最近、
過去の嫌な思い出を振り返り、
自分自身を分析することは
意義あることだと感じている。
その理由は、自分の不当な思い込みや
認知のゆがみに気づいて、
それを正すきっかけになるからだ。
今の自分の在り方は
今までの人生の積み重ねの結果だ。
今の自分がこうあるのは、
過去の色々な経験を通して、
自分の中に徐々に信念が形成されたからだ。
心の奥底に深く根付く信念を
真実だと思い込み、疑うことなく、
その信念に基づいて、毎日生活している。
機能不全家庭に生まれて、
幼い頃から成人するまで
毒親と一緒に暮らしてきたなら、
親からの悪影響を強く受けて、
認知がかなり歪んでしまうことも不思議ではない。
しかし、自分の認知の歪みや
親から刷り込まれた不当な思い込みに、
自分自身が気づいていない場合もある。
大人になってから
しっくりこない感覚が強かったり、
生き辛さを感じて人生に行き詰まるのは、
自分の中にある不当な思い込みや
歪んだ認知が引き起こすこともある。
この不当な信念や思い込み、
非常に歪んだ認知は、
もともとは親子関係が原因だった
ということもしばしばだ。
そのために、過去を振り返り、
自分自身が今こうあるのは、
どうしてなのか?
色々考えてみることも大切だ。
私は実母から、
否定的な言葉を浴びせられて育った。
「あんたは本当に何もできないのね。
そんなんじゃダメよ! 情けないわ。
それに比べて、~ちゃんはとても立派よ」
というようなことを言われ続け、
「そんなことも分からないの!常識知らず!」
と罵られ、叱られたこともしばしばある。
「容姿も、性格も悪い。心が冷たい子。人間失格」
とまで言われ、人格否定もされた。
「バカ! アホ! 役立たず!」
この言葉を母から幾度聞かされただろうか?
私のやることなすこと、ほとんどすべてを
母は否定してきた。
子供にとっては、親は特別な存在だ。
特に幼い頃には、親が言うことは正しい
と信じている時期も長い。
親から常に「ダメだ。ダメだ」と連発されれば、
本当に「自分は救いようもなくダメな人間で無能だ」
と信じ込んでしまう。
親の口から出ることを、何も疑うことなく、
そのまま鵜呑みにしてしまう。
繰り返される親からの否定的な言葉で、
子供はそのように洗脳されてゆく。
何をやってもダメだと思えば、
あらゆることに消極的になる。
目の前にチャンスがあっても、
「どうせ自分にはムリだから」
と思い込んでいるので、
そのチャンスすら見ることもできない。
新しいことにチャレンジしよう
という気にもならない。
今、冷静に考えれば、
自分は本当に親が言ったように
どうしょうもないダメ人間なのだろうか?
いや、そんなことはないと思う。
もし、私が実母から育てられることなく、
別の親で、私を否定しない人から
育てて貰うことができたら、
今の自分はどんな自分だろうか?
これは自分の想像の範囲内なので、
正しいかどうかは分からないが、
子供の頃に否定の連発に遭わなければ、
「自分も人並みに普通にできる」と信じて、
堂々と生きることができていただろう。
もちろん、人よりも劣った面はある。
しかし、得意なこともあるはずだ。
総合的に見れば、
自分はそんなに劣った人間でもなく、
まあ普通の人間だと言えるだろう。
それなのに、なぜ、そんなに委縮して、
常に他人の顔色を伺い、
自分の思うこと、考えることをはっきり言えず、
他人を優先させてしまうのか?
自分はできない人間で、
生きている価値もないくらいダメなのか?
本当に人間失格なのだろうか?
そんなことはないはずだ。
今になれば、よく分かる。
母がそのように私を酷く扱ったのは、
母自身が精神的に未熟であり、
フラストレーションの塊だったから。
母自身に大きな不満があり、
ストレスを晴らすために、
立場の弱い子供を虐めていた。
親という強い立場を都合よく利用して、
子供に自分のフラストレーションをぶつけていた。
身体は大人になっても、
精神的には幼稚園児とあまり変わりがない。
母はそれだけ未熟で、
精神的に成熟していなかった。
情けない親だとは思うが、
母がそのようになってしまったのも、
それなりの理由がある。
母の親も毒親だったから、
母自身も自分の親から満たして貰えなかった。
そういう背景があれば、
仕方なかったと諦めるしかない。
親から洗脳されて、
不当な思い込みや認知の歪みを
自分の中に形成すれば、
それが当然のことと思われて、
疑うこともなくなる。
その信念のせいで、自分自身を苦しめ、
生き辛い人生を送ることになる。
自分の不当な思い込みや、
非常に歪んだ認知に気づくには、
自分一人では難しい場合も多い。
そんな時には、専門家の力を借りるとよい。
一番理想的なのは、
その道でトレーニングを積んだ専門家で、
自分のことを全く知らない第三者にお願いすること。
客観的に自分を観て貰うことができるからだ。
専門家の力を借りて、
自分の中にあるこんがらがったものを
一つ一つひも解いてゆき、
間違った認識や思い込んでいたことを
手放してゆくことは意義あることだ。
自分の認知の歪みや不当な思い込みに気づき、
それを正すことができれば、
心穏やかに生活できるようになる。
そして、幸せを感じる時間も長くなる。
ただ、一旦、そのようになれても、
これですべてが解決したわけではない。
今後もずっと良い状態が続くだろうと信じたいが、
そんなに容易なものでもない。
なんらかのきっかけで、
再び昔の不当な思い込みや、認知の歪みが
自分のもとに戻って来てしまうこともある。
特に物事がスムーズに行かなくなると、
その傾向が強い。
再び昔のように「自分はダメだ」とやってしまい、
自分を苦しめることになる。
それだけ親からの影響は強いということだろう。
親からの影響で刷り込まれた
間違った思い込みや信念、
歪んで見える現実が戻ってきても、
がっかりすることなく、
自分を責めることはなく、
根気よくそれらを取り除き続ける姿勢が大切だ。
親からの影響は本当に強い。
振り払っても、振り払っても、
これでもかと付きまとってくることも珍しくない。
それでも、諦めず、失望することなく、
払いのけ続けることが重要だ。
親から刷り込まれた間違った思い込みを信じて、
自分を不幸にする必要はない。
誰にでも幸せに生きる権利があるからだ。