親心???

「ニュージーランド人と結婚する」と両親に報告したとき、彼らは猛反対した。「生活習慣や文化が違う外国人とは上手く行くわけがない」とか、「欧米人はすぐに離婚をするから、結婚しても長続きしない」など、もっともらしい理屈を言い、両親は私の結婚を妨げようとした。

特に母は怒り狂って、私に脅迫めいたことも言った。「外国人との結婚は絶対に許さないからね。もし、あんたが日本人以外の人と結婚したら、私はあんたと親子の縁を切るから」と。母はそのような言い方で私を脅せば、私の気持ちが変わると思ったのだろうか?

結局、私は親の反対を押し切って結婚した。家族から祝福されない状況だったので、私達はきちんとした結婚式を挙げていない。入籍した日、私も夫も半日働いた。お互い半日休暇を取り、昼で仕事を終えてから、夫のお母様と合流して街中のお洒落なカフェで3人で昼食を取った。その後、午後3時に役場に行き、婚姻届けを提出したのだ。

幸い、私は義理の両親からは快く受け入れて貰えた。実は、私の義理の両親は日本に対して良い印象を持っていない。彼らが子供の頃、戦争を経験したせいか、当時の日本軍がしたことを未だに忘れていなかった。でも、だからと言って、日本人の私に対して不愉快なことを言ったり、嫌な態度を見せたりすることはなかった。それよりも、私のことをとても大切にしてくれた。当時クライストチャーチに住んでいた義理の母は、私達が結婚して以来、日本領事館の文化行事に積極的に参加するようになったほどだ。

私に対して好意的な義理の両親と、私は仲良くなれた。しかし、その一方で、実の両親とは音信不通状態が1年以上も続いた。

私は入籍前から夫と同棲していた。おそらく、そのことも私の両親には気に食わなかったのだろう。とにかく、両親からは批判ばかり受けた。実母と話をするとき、母が私に必ず言う言葉があった。それは、「私が反対するのは、あんたのためを思うからなのよ」とか、「あんたが不幸にならないように、お母さんは親心でそう言っているのよ」というものだった。

「あんたのため」「あんたが不幸にならないため」と主張する母は、私とすっかり口を聞かなくなり、私達は1年以上も音信不通状態だった。そんな母について、私はしばしば考えた。私たちの結婚を猛烈に反対して、自分の思い通りにならなかったと言い、へそを曲げた母。もし、母が本当に娘の幸せを願うなら、こういう状態にはならなかったのでは? と私は思う。「娘のために」と言うよりも、母は自分自身のために私の結婚を反対したとしか思えない。

親が子供を叱ったり、子供の計画に反対して阻害するとき、必ずしも、子供のためにそうするわけではない。「子供のためにと思って」とか、「子供の幸せのために」と親心を利用した言い方は響きは良いが、実は、違う。本当のところは、子供のためと言うよりも、親自身のためなのだ。親の都合の良いように子供が動いてくれない場合、親は「親心で子供のためにと思って」という便利な言い方をする。

私は実母に対して、子供の頃から強い反感を抱いてきた。もし、母が「あなたが外国人と結婚して外国に住むことになったら、私は寂しいのよ」と自分の気持ちを正直に話してくれたなら、母に対してこんなに強い反感を抱くことはなかったと思う。「子供のために」「子供の幸せを願って…」と偽善者的な言い方が、私を不愉快にさせた。

そういう私も今では娘を持ち親の立場にいる。数年前、娘が私の思った通りに動いてくれない時があった。高校卒業したばかりの娘が大学へ進学せず、ギャップイヤーを取ると言い出したのだ。私は娘のギャップイヤー計画に反対した。ギャップイヤーを取るなら、高校卒業後ではなく、大学を卒業してからの方が良いと思った。だから、娘に対して反対意見を言った。でも、娘は私の言うことを無視して、結局はギャップイヤーを取ることになった。

私は自分に問いかけた。「私が娘にギャップイヤーを取って欲しくない理由は、娘のためだから?」と。  私の正直な気持ちは、そうではなかった。ギャップイヤーと言って、何もすることなく、自宅でゴロゴロと怠慢な生活をして欲しくなかったのだ。ただ、このとき、私は実母のように「親心」という便利なツールを使って、偽善者的に娘を説得しようとはしなかった。「私自身、そうされたら嫌だから」とはっきり「自分が嫌だ」と言えた。

娘のギャップイヤーは私が想像したよりも、かなり充実したものになった。この間、娘は老人ホームや小学校でアルバイトをして、職歴を得ただけでなく、将来大学へ行くときの資金作りもできた。そういう娘に対して、私は謝罪した。「ごめんね。あの時、あなたの計画に反対して」と娘に謝ることができた。

子供がある程度の年齢に達した時、親の方が子供よりも良い判断ができるとは言い切れない。親の時代はそうであっても、今の時代では子供の判断の方が適切であることも多い。また、子供自身の人生に関して、親があれこれ口出しするのもおかしな話だ。

親も子供を一人の独立した人間として扱い、子供の考えを尊重する。「親心」という便利な言葉を使って、子供をコントロールすることは止める。「自分は子供にこう動いて欲しいのは、自分の都合が良いから」と素直な気持ちで言う。これらのことができれば、親子関係もこじれることなく、改善するのではないか? と私は考える。