前回に続き、今回も、
成人した子どもとの関係を
損なってしまう
親の典型的な行動を、
さらに5つご紹介します。
前回は「過度な干渉」
「子どもの大切な人間関係への批判」
「謝るべきときに謝れない態度」
「帰省への過剰な期待」
「子どもの生活スタイルの否定」
の5つについてお話ししました。
詳しくは、こちらをご覧ください。
====
親の苦労話は、子どもにとってプレッシャー
子どもが
仕事や生活での悩みを
打ち明けたとき、
「私たちの時代はもっと大変だった」
「今の若い人は恵まれている」といった、
自分の過去の苦労話を持ち出す親は
少なくありません。
親としては、
自分の経験を伝えることで
子どもを励まし、
困難を乗り越える力を与えたい
という思いがあるのでしょう。
けれど、
その言葉は多くの場合、
子どもの心にプレッシャーを与え、
かえって逆効果になるでしょう。
現代の若い世代が直面している課題は、
親世代の経験とは
大きく性質が異なります。
働き方の多様化による問題、
SNSから生まれる新しい形のストレス、
先行きの見えない将来への不安──
このような問題は、かつては
存在しなかったものばかりです。
こうした背景を理解しないまま、
過去の価値観や常識で語ってしまうと、
子どもは「話しても無駄だ」
と感じてしまうでしょう。
「私の時代は残業代も出ずに
働くのが当たり前だった」
「もっと我慢を強いられていた」──
親にとっては
誇らしい人生経験の共有であっても、
子どもにとっては、
自分の苦しみを理解されず、
受け止めてもらえない失望感に
変わります。
そうしたやりとりが積み重なれば、
子どもは次第に相談をやめ、
親子の心の距離は
広がっていくでしょう。
どんなに深刻な悩みを抱えていても、
結局は昔話にすり替えられてしまう
とわかっているからです。
親が自らの過去を
乗り越えてきたことを誇りに思うのは
自然なことでしょう。
しかし、その経験を
今の子どもとの比較に使うのは
避けるべきです。
時代背景も
社会制度も大きく変わった今、
過去の物差しは
そのまま当てはめられません。
子どもが悩みを打ち明けたときは、
まず耳を傾け、
子どもが今置かれている状況を
理解しようとする姿勢が大切です。
子どもの感じている思いを否定せず、
そっと寄り添う姿勢こそが、
信頼関係を長く保つための
何よりの土台になるでしょう。
====
親子であっても、プライベートな空間は守られるべき
成人した子どもの住まいに、
事前の連絡もなく
突然訪れる親がいます。
「親なのだから遠慮はいらない」
「自分の子どもなのだから、
いつでも会えるのが当然」
と考えているのかもしれません。
しかし、この行為は、
親子関係を悪化させるきっかけに
なるでしょう。
こうした行動をとる親は、
子どもが成人して独立した後も、
適切な距離感や境界線を
理解していません。
一人暮らしを始めたり、
結婚して新しい家庭を築いたりしても、
まるで実家の延長のような感覚で
子どもの住まいを捉えてしまうのです。
ですが、
成人した子どもにとって、
自分の住まいは
何よりも守られるべき
プライベートな領域であり、
そこに勝手に踏み込まれることは
大きなストレスとなります。
子どもにも、当然ながら
自分の都合や事情があります。
仕事の疲れを癒している時間や、
恋人・友人と過ごしている時間など、
誰にも邪魔されたくないときも
あるでしょう。
それにもかかわらず、
親の都合だけで突然訪れることは、
子どもの生活リズムや気持ちを
無視した行為と言えます。
子どもが結婚している場合、
突然の訪問は
配偶者にも負担をかけるものです。
急な来客への対応や
気遣いが必要となり、それが精神的にも
大きな負担になることは
少なくありません。
その結果、
夫婦間に摩擦が生まれ、
子どもが親に対して
強い不満を抱く原因となることも
あるのです。
さらに深刻なのは、
子どもが不在のときに
勝手に家へ入ろうとするケースです。
鍵を持っているからといって、
許可なく他人の住まいに入ることは、
明らかな境界線の侵害です。
このような行為は、
子どもに強い警戒心を抱かせ、
親子関係を一気に
冷え込ませてしまう可能性があるでしょう。
無断での訪問を繰り返せば、
子どもは次第に物理的にも心理的にも
距離を置くようになり、その結果、
親子のつながりは
ますます希薄になっていくでしょう。
====
外見への批判は、子どもの自尊心を傷つける
「太ったね」
「その髪型は似合わない」
「もっときちんとした服を着なさい」――
こうした外見や体型に関する言葉を
繰り返す親は、やがて子どもから
距離を置かれるようになるでしょう。
たとえ健康を気遣う思いや、
社会的な印象を良くしたいという
親心からの発言であっても、
外見に関する言葉は
非常にデリケートです。
何気ない一言であっても、
ときに深く心に突き刺さり、
子どもの自尊心を損なう原因に
なってしまうこともあるのです。
体型や容姿への批判は、
本人が抱えるコンプレックスを
さらに強める可能性もあります。
ファッションや髪型は、
その人の個性や自己表現の
大切な一部でしょう。
それを否定することは、
子どもの人格そのものを
否定されたように
感じさせてしまうこともあります。
また、外見に対する価値観は
時代とともに大きく変化してきました。
服装の基準も今では多様化し、
個性を尊重する考え方が
主流になっています。
昔の価値観だけで判断するのではなく、
現代の感覚を
理解しようと努めたほうがよいでしょう。
子どもの選択を認め、
その人らしさを受け入れる姿勢こそが、
良好な親子関係を保つためには
欠かせないからです。
====
一方的に自分の価値観を押し付けるのはNG
親子の会話の中で、
子どもが意見を述べても、
最初から
受け入れる気持ちを持たない親がいます。
表面的には
耳を傾けているように見えても、
実際には子どもの考えを
理解しようとする姿勢が
まったくありません。
どんなに筋の通った説明をしても、
最終的には「親の考えが正しい」
という前提で
話が進んでしまうのです。
こうした親は、
子どもの話を聞きながらも、
心の中では反論の材料を探しています。
一生懸命説明する子どもに対して、
「それは理想論だ」
「現実はそんなに甘くない」
といった言葉を投げかけ、
子どもの意見を認めません。
その結果、会話は
互いの理解を深める場ではなく、
親が自分の考えを正当化するための
時間になってしまうのです。
厄介なのは、
子どもが新しいアイデアや
解決策を提案しても、
「昔からこのやり方でやってきた」
「今さら変える必要はない」
といった理由で
退けられてしまうことです。
時代の変化や
新しい価値観を受け入れず、
自分たちの方法だけが正しい
と信じている親ほど、
この傾向が強くなります。
さらに、
子どもの意見を聞いた後で、
親が自分の考えを
延々と語り続けるケースもあります。
子どもの提案を
一緒に検討するのではなく、
親の経験や価値観を
一方的に押し付けているのです。
こうしたやり取りが続けば、
子どもは「親に話しても意味がない」と感じ、
意見を述べる意欲を
失ってしまうでしょう。
どれだけ話しても、
結局は否定されるとわかっていれば、
自分の考えを伝える価値がないと感じ、
子どもは次第に親との会話を
避けるようになるでしょう。
そして、重要な決断も
一人で下すようになるのです。
やがては本音は隠し、
やり取りは表面的なものに
とどまってしまうでしょう。
====
金銭管理への過干渉は反発を招く
成人した子どもの
収入や支出に対して、
「そんなものにお金を使うなんて無駄だ」
「もっと貯金しなさい」
と頻繁に口を出す親は、
知らず知らずのうちに
子どもとの距離を広げてしまうでしょう。
親としては、将来に備えて
堅実にお金を使ってほしい
という思いからの発言かもしれません。
しかし、子どもにとっては、
自分の努力で得たお金の使い道まで
細かく管理されることに、
強いストレスを感じるものです。
特に問題なのは、
趣味や旅行など、
自分の楽しみのための出費にまで
干渉される場合です。
こうした行為は、
子どもの不満や反発心を強めます。
また、収入額や貯蓄額を
しつこく尋ねたり、
詳細を詮索したりすることも、
明らかなプライバシーの侵害です。
金銭感覚も
時代とともに変化するものです。
デジタル決済の普及、
新しい投資手段、働き方の多様化による
収入形態の変化など、
親世代には馴染みのない状況も
増えています。
こうした背景を理解せず、
従来の常識だけで判断してしまえば、
親子の溝は
さらに深まってしまうでしょう。
お金の使い方は、
その人の人生の優先順位や
価値観を映し出すものです。
それを繰り返し否定されれば、
親子の信頼関係は
確実に損なわれるでしょう。
金銭面での助言は、
子どもから求められたときに限って行う――
これが、関係を長く良好に保つための
賢い姿勢と言えるでしょう。
====
おわりに:良好な親子関係を維持するために
前回に続き、この記事では、
成人した子どもとの関係を
損なってしまう親の行動について、
さらに5つの例を紹介しました。
今回取り上げたのは、
「親の苦労話をすること」
「子どものプライバシーを侵害すること」
「外見や服装を批判すること」
「一方的に自分の価値観を押し付けること」
「金銭感覚に過度に干渉すること」です。
これらに共通しているのは、
親の「良かれと思う気持ち」が、
結果として子どもとの関係を
悪化させてしまうという点です。
愛情深い親ほど、
子どものために力になりたい、
アドバイスをしたいと考えるものです。
しかし、その思いが行き過ぎれば、
子どもは親から
距離を置くようになるでしょう。
良好な親子関係を維持するためには、
まずは子どもを一人の独立した大人として
尊重することが欠かせません。
たとえ親子であっても、
それぞれが異なる人格を持つ個人であり、
お互いの境界線を守ることが重要です。
また、時代の変化を
受け入れる柔軟さも求められます。
親世代の経験や価値観は
確かに貴重な財産ですが、
それが現代のあらゆる状況に
そのまま当てはまるわけではありません。
社会の変化や新しい価値観を
理解しようと努め、
子どもの考えや選択を
尊重する姿勢が必要です。
そして何よりも大切なのは、
子どもが本当に求めているときにだけ
支援を差し伸べることです。
一方的な助言や干渉ではなく、
相談してきたときに
子どもの気持ちに寄り添いながら、
必要なサポートを行うことが理想です。
良好な親子関係は
一朝一夕には築けません。
しかし、お互いを尊重し、
理解し合う努力を積み重ねることで、
長続きする信頼と絆を
育むことができるでしょう。