毒親 ― 同じ親に育てられた姉弟でも、感じ方が全く違う

私にとって、私の実の両親は
紛れもない「毒親」だ。
でも、同じ両親に育てられた弟は
全くそのように感じていない。
むしろ、両親に対して、
とても良い印象を持っている。
私はこのことを興味深く思った。
なぜ、そうなのか?
私なりに考えてみた。

私の弟は10歳年下。
10歳も年が離れていれば、
物理的に同じ家に住んでいても、
同じ精神世界にはいない。
考えることや、興味の対象は
年齢によって大分変るので、
共通の話題で会話をしたこともなかった。

20代で私は外国に移り住み、
弟ともずっと離れ離れだったので、
私は弟がどんな大人になったのか、
全く知らなかった。
勤続10年のお祝いとして、
まとまったお休みが貰えたので、
弟は、ニュージーランドに住む私を尋ねて
遊びに来てくれた時があった。
その時、初めて、弟がどんな人なのか、
私は知ることになった。

そして、1年半くらい前に、弟は、
今度は奥様と6歳になる娘を連れて、
再び、私の住むニュージーランドに来てくれた。
その時に、弟と両親について
いろいろ話す機会があった。

弟は両親に対して、
とても良い印象を持っている。
両親のことが好きで、
ずっと一緒に暮らしたいと思っている。
同じ両親に育てられたのに、
こんなにも違う感じ方をするものか
と私は不思議に思った。

私にとっては、どう考えても、
実の両親は「毒親」だ。
父については、
とにかく物理的暴力がスゴかった。
父は感情コントロールが苦手な人で、
気分の良い時には、いい感じだが、
カッとなれば、怒鳴り散らす、暴力を振るうで
周囲にいる母や私は、かなり迷惑を被った。
気が済むまで暴れた後には、
スッキリした様子で、
ネチネチとずっと嫌味を言うことはなかった。

身体が小さかった当時の私にとっては、
父の怒鳴り声や暴力が大きな恐怖だった。
いつどこで、父の怒りが爆発するか分からず、
常にビクビクとしながら、
父の顔色をうかがっていた。

母は物理的な暴力は一切振るわなかった。
でも、その代わり、ネチネチが半端なかった。
他人と私とを比較して、
いかに私がダメ人間で、劣っているか、
言葉に出して言う。
そうすることで、私を惨めな気持ちにさせた。
また、私に罪悪感を持たせるようなことを言い、
自分の思い通りに、私を動かそうとした時もあった。

母はいつも眉間にしわを寄せて、
嫌なオーラをプンプン出して、
ネガティブなことばかり言っていた。
そんな母の近くに居れば、
気が滅入って暗い気持ちになった。

こういう両親の一面を
弟はほとんど知らないようだ。
なぜなのだろうか?
それには、幾つか理由があるだろう。

まずは、どんな人でも
変わってゆくからだ。
人は色々な経験をして学んで行く。
私の両親は、私という上の子供を育ててみて、
こうしたら上手く行った、
ああしたら上手く行かなかった、
ということを沢山経験している。
そして、その経験から学びを得るので、
私が育てられた時とは、
全く違う育て方で、弟に接していたかもしれない。
10歳も年が離れていれば、
親も学ぶ期間が長いので、
その可能性はあるだろう。

次に、私は「女性」、弟は「男性」
という理由もあるかもしれない。
私の父は「男尊女卑」の信念が強い。
実母の話によれば、
父の両親(私にとっては祖父母)の家では、
嫁である母は、同じテーブルで
食事ができなかったそうだ。
母は家族のために、食事の準備をする。
ご飯が出来上がったら、
父や祖父母が座っているテーブルに届ける。
でも、母自身は台所の片隅にあるミカン箱で
一人寂しく食事を摂っていたらしい。
この話を、私は母から何度聞かされたことか。

男は弱くて愚かな女を守ってあげる代わりに
女は召使のように男性に尽くす、
というような考え方の家だったのだろう。
今聞けば「えっ」って思うけれど、
昭和初期にはそれも珍しくはなかったのかもしれない。
そんな家の出身だから、
男の子には価値があるけれど、
女の子はそうではないと思い込んでも仕方ない。
当然、私に対する扱いは、弟とは違っても
不思議でないと考えられる。

また、別の理由もあるだろう。
いくら「毒親」だと言っても、
24時間、365日、ずっと毒親ではない、
すべての面で毒親ではない、と言えると思う。
毒親で毒々しい一面がある一方、
優しく、人助けをしたいという一面もある。
同じ人間でも、相反する面が存在することは
普通のことだろう。

相手によって、対応の仕方が変わることも
よくある話だ。
この人にはぶっきらぼうに振舞うけど、
別の人には良い顔を見せる。
自分の気に入った人には
親切にするけれど、そうでなければ、
全く気遣いしない人もいる。

私の記憶によれば、
弟は年齢の割には発達が早く、
その年齢ではできなくてもよいことを
普通にしていたので、
母は非常に喜んでいた。
近所の人にも、弟はできる子供だ
と自慢げに話していたのを思い出す。

私はネガティブな言葉ばかりで
育てられたが、
弟は、ポジティブな言葉を
沢山言われてきたのだろう。
だから、母親に対しても、
好印象を持っているのだ。

「ダメな子」「できない子」
「人間のクズ」「人間失格」
「どうしょうもない人」
そんな言葉で自分を表現された私は、
母に人格否定をされてきたと感じる。
そして、その人格否定の嫌な思い出が、
未だに私の中にあり、
母親に対してネガティブ感情を抱いてしまう。

両親とは海を隔てて遠くに住んでいる私でも、
実は、両親のことをしばしば考える。
なぜ、多くの人が私のように
「毒親問題」で苦しむのか?
を考えることもよくある。

今回は、そんな私が興味深く感じたこと、
「私と弟では両親に対する気持ちが
全く違うこと」について、
なぜ、そうなのか
自分なりに考えてみた。