ニュージーランドに住み始めて、早31年。
NZに住み始める前に、旅行で短期間、
この国に滞在したことがある。
その時に感じたこの国の印象と
実際に住んでみて分かったことは、
必ずしも一致しない。
今回は、
住み始める前の印象とは
大分違っていた点について、お話したい。
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一つ目は、
イギリス崇拝が非常に強いこと。
日本にいた頃は
アメリカ文化やアメリカ英語に
触れる機会が多かった。
NZはイギリス寄りとは聞いていたが、
私が想像する以上に
イギリス崇拝が強い。
得に年配の方々にこの傾向がある。
イギリス人だというだけで、
尊敬の対象になるのだ。
私の義理の母はNZ生まれ。
でも、彼女の親はイギリス生まれで
イギリスからの移民だ。
なぜか義理母はイギリスのことを
「ホーム」と呼んでいる。
祖国という意味なのだろう。
NZで生まれ育って、
イギリスには住んだこともないのに、
彼女にとっては、イギリスは祖国だ
と感じているようだ。
留学中にレポートを提出したり、
試験を受けたりした際に、
私は、Center(中央)と綴っていた。
日本の英語教育では、Centerという綴りを
教わったので、これに慣れていたからだ。
どんなに英語が下手くそで、
間違いだらけの文章を書いても、
割とスルーして貰えた。
レポートの内容がきちんとしていれば、
文法に間違いがあったり、
言い回しが多少オカシクても、
注意されることはなかった。
しかし、Centerの綴りの点では、
採点者は厳しくて、私が書いたCenterは
すべてCentreに直されていた。
小学校でも、子供がCenterと綴れば、
「それは間違い!Centreに直しなさい」
と注意までされてしまう。
些細なことだけど、
NZ人の精神が
忠実にイギリスに根付いている気がした。
イギリス人は難しい表現を好む人も多い。
ストレートに簡単に言えばいいことを
少し気取って
難しく込み入った言い方をする人たちもいる。
今では大分改善されたが、
政府関係のパンフレットも
昔は法的文章のような
堅苦しい表現が沢山あった。
田舎の方へ行けば、
NZ独特の英語の訛りが強すぎて、
何を言っているのか、
分からないこともある。
日本でアメリカ英語に慣れ親しんでいれば、
英語に自信がある人でさえ、
最初のうちは、強いNZ訛りは、
何を言っているか聞き取れないこともある。
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住み始める前の印象と違った点の
2つ目は、控えめな人たちが多いこと。
日本ではアメリカ人の教師や
友人が多かった。
アメリカ人は陽気で外向的で
積極的な人が沢山いる印象を受けた。
NZに住み始める以前は、
NZ人もアメリカ人と似ているのだろう
と勝手に思っていた。
しかし、住んでみて分かったのは、
NZ人もアメリカ人も、見かけは似ていても、
全然違う人たちだということ。
意外にも、NZ人はシャイで控えめな人が多い。
どちらかと言えば、
アメリカ人の気質よりも、
日本人の気質に近い人が
より多くいるのではと感じる。
言語面でも、
直接的にディレクトな言い方はしない。
例えば、かなり腹立たしく感じても、
「私は怒っています」とは表現しない。
その代わりに、
「私はあまりハッピーではありません」
と謙虚な言い方をする。
大学一年目に
コンピューターラボのアクセスができず、
担当者にその問題を解決するよう依頼した。
しかし、何度お願いしても、
全然アクセスが可能にならなかった。
何度も何度も同じことを言い、
私はかなりうんざりしてきた。
早くしないとアセスメントの課題に
間に合わない。
5回目くらいに依頼した時には、
私は既に大分怒っていた。
「もういい加減にしてください。
私は怒っているんです」と言った時、
一緒にいた友人から、
「緑、その言い方は良くないよ。
NZでは、『満足できません』
と言うのが普通だ」と注意された。
私の夫が言うには、
子供の頃、彼は親から
「自慢するのは良くないこと。
謙虚でいることは大切だ」
と教え込まれたそうだ。
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住み始める前の印象と違った点の
3つ目は、生活の速度。
旅行に来た時には、
NZでは時間がゆっくりと流れていて、
皆がゆったりと生活している
という印象を受けた。
しかし、実際にここで生活してみて、
必ずしもそうではないと分かった。
人によっては、時間に追われて
セカセカと常に忙しそうな人もいる。
車の運転では、イライラした人も
よく見かける。
クラクションを何度も鳴らして
「早くしろ!」と急かしてくる後続車も
珍しくない。
知らない都市で、道路が分からず、
ノロノロと運転していたら、
後ろの車の運転座席より、
中指を立てられて、ののしられたこともあった。
スーパーマーケットやジムの駐車場では、
なるべく入口付近に車を停めたがり、
駐車場争いをする人もいるくらいだ。
皆、心が寛容で
おっとりとしているイメージだったが、
こういう光景を何度か目にすれば、
必ずしもそうではない分かり、がっかりした。
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住み始める前の印象と違った点の
4つ目は、労働生産性がかなり高いこと。
ゆったり気楽に構える人が多い
と思い込んでいたので、
仕事面でも、のんびりしていて、
労働生産性は低いのだろう
と勝手に想像していた。
しかし、実際にNZの組織で働いた時、
これは全くの間違いだったと分かった。
NZの職場での労働生産性は、
私の想像以上に高かった。
日本とは違って、
時間内で終了しない場合には、
残業をすることは滅多にない。
勤務時間中はインテンシブに働き、
かなり効率よく仕事のタスクをこなし、
時間内に終わらせるように
頑張る人が大多数だ。
どうしても今日中にムリならば、
その続きは明日にしよう
と考える人がほとんどだ。
オンとオフの切り替えが
はっきりしていて、
オンの時には、
集中的に質の高い仕事をする。
しかし、勤務時間が終了すれば、
即、仕事を切り上げて、
パーソナルライフに入れる。
配管工や電気工事士を呼んでも、
約束の時間に
来てくれないこともしばしば。
その代わり、一旦、来てくれれば、
集中的に
質の高い仕事をして貰えるので、
非常に助かっている。
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住み始める前の印象と違った点の
5つ目は、想像以上にIT化が進んでいること。
NZの鉄道で旅行したり、
街中の古いビルに入れば、
タイムスリップして
10~15年くらい昔に戻った
という感覚になる。
古いビルの中では、
手動のエレベーターが未だにあり、
自分の手でドアを開ける
なんてこともある。
日本の電車のように、
テクノロジーが進んでおらず、
昔の電車を
そのまま使っていた時期も長かった。
NZは車社会であり、
電車を利用する人が少ないために、
鉄道には
あまり投資できない現実がある。
そのせいもあり、電車はかなりお粗末。
どこかの国で
もう不要になった電車の車両を輸入して、
古い電車を暫く使用していた時もあった。
そのため、旅行中にはNZは遅れている
という印象を持ってしまった。
しかし、意外にもIT化は進んでいた。
私がこの国に
留学のために来たのは1991年。
その当時の日本では、
図書館では
すべて紙のカタログを使用していた。
しかし、この時期に、
NZの大学では、書籍のカタログが
ほとんどすべてデジタル化されていた。
館内の様々な場所に
パソコンが設置されていて、
簡単に検索することも可能だった。
今では、
医療現場の事務作業も、
ほとんどペーパーレスになっている。
キャッシュレスの点でも、
NZはかなり進んでいる。
買い物をする際は、お店によっては、
キャッシュは受け付けない場所もある。
手でドアを開ける手動のエレベーターが
未だに残っている場所もあれば、
その一方ではIT化を積極的に取り入れて、
ペーパーレス、キャッシュレスは当然だ
という場所もある。
このギャップが
なかなか面白いと感じている。
ということで、
今回は、私が感じた、
住み始める前の印象とは違った
ニュージーランドの意外な面について、
お話してみた。
その違いをまとめてみれば、
1)イギリス崇拝が非常に強い
2)控えめな人たちが多い
3)生活の速度は、さほどゆったりでもない
4)想像以上に労働生産性が高い
5)IT化もかなり進んでいる
ということだ。