キーウィーハズバンドと女性の社会進出

ニュージーランド人は自分たちのことを
「キーウィー」と呼んでいる。
この名前の由来は
ニュージーランドの国鳥・キーウィーから来た
という説もあるが、
あまりはっきりしていないようだ。

この名前に関連して
「キーウィーハズバンド」
という言葉もある。
「キーウィー」がニュージーランド人で、
「ハズバンド」が旦那さんの意味なら、
「キーウィーハズバンド」は
ニュージーランド人の旦那さん
ということになるが、
ニュージーランド人の旦那さんが
すべて「キーウィーハズバンド」か
と言えば、必ずしもそうではない。
この言葉には他の意味があるからだ。

「キーウィーハズバンド」とは
ニュージーランド人の旦那さんの中でも
家事や育児を積極的に協力する人
のことを指す。
「家事、育児に協力的」の部分が、
この言葉の重要な部分だ。
ニュージーランド人のすべての旦那さんが
家事、育児に協力的だ
というわけではないが、
この傾向にある旦那さんは
ニュージーランドには多い。

私の旦那さまも典型的な
「キーウィーハズバンド」で、
食事の後片付けや掃除機掛け、
子供の学校行事の手伝い、
スポーツ、アクティビティー時の
子供たちの送り迎えを
率先してやってくれる。

ニュージーランドでは、
子供達も両親が力を合わせて
家事、育児をする姿を見て育つので、
大人になってからも、
自分達も同じように振舞うようになるのだろう。
このようにして
夫婦が協力し合い家事・育児をすることは
代々受け継がれて行くのだろう。

ニュージーランドに来たばかりの
最初の3年間、
私はニュージーランド人家庭で
ホームステイをした。
文化、習慣の違いで驚くことが多い中、
私を一番びっくりさせたのは、
夫婦間の力関係だ。

私は昭和生まれの人間。
私の日本の両親は、
幼い頃に戦争を経験した世代だ。
日本の実家では、
「男尊女卑」や「年功序列」
の風潮が強く、
父親が権力を握っていて、
威張っているという感じだった。

典型的なキーウィーハズバンド
がいる家で、ニュージーランド人と
一緒に暮らしてみて、
日本の実家とのギャップが
あまりにも大きすぎて、
私はかなりショックを受けた。

日本でも、ニュージーランドでも
お茶を飲む文化がある。
日本では、父が「お~い、お茶」言えば、
母がすぐに台所へ飛んで行き、
父のためにお茶を入れて運んでくる。
父が自分でお茶を入れる姿を
私は一度も見たことがないし、
父がキッチンの中に入ること自体、
まずなかったと記憶する。

私のニュージーランドの
ホストファミリー宅では、
ホストマザーが「あなたお茶飲みたくない?」
と旦那さんに尋ねることがよくあった。
旦那さんが「飲みたいよ」と答えれば、
マホストマザーは「私もお茶が欲しいのよ。
ちょっとお茶入れてくれない」
と旦那にお茶を入れさせるのだ。

旦那さんの方も、奥さんにそう頼まれて、
嬉しそうにお茶を入れている。
時には、旦那さんが気を利かせて、
「お茶入れようか?」と
自ら聞いてくれるほどだ。

日本の実家では、
食事の用意は
すべて母親がやっていた。
稀に母が病気で料理できない時、
父がとんでもなく味の濃い
味噌汁を作ってくれたのを覚えている。
普段、料理をしない父だから、
味付けはかなり変だった。

ニュージーランドのホストファミリーでは、
ホストマザーではなく、ホストファーザーが
ほとんど毎晩、夕食の準備をしていた。
ホストマザーは料理が嫌いだし、
そもそも料理を習ったことがないらしく、
料理の仕方が分からないそうだ。
それに対して、ホストファーザーは
料理好きで、色々なものを
あっという間に作ってしまう。
だから、毎日の食事の準備は
ホストファーザーが担当していた。

日本とニュージーランドの両家庭で、
こんなにも大きな違いを見て、
「所変われば、やり方も
随分変わるものだ」ということを
私は学んだ。

家事、育児に協力的な
キーウィーハズバンドが多い理由は、
単にニュージーランド人男性が
優しいということではなさそうだ。
どちらかと言えば、それには
社会的な背景があるようだ。

ニュージーランドは世界の中でも、
「男女平等」の点ではかなり先進的だ。
女性の社会進出が進んでいる国なので、
共働きが当たり前になっている。
ニュージーランドは男女間の賃金格差が
小さな国としても有名だ。

ニュージーランドでは、
雇用機会において、
性別や、年齢、人種で
人を差別することは違法となっている。
そのポジションに必要なスキルがあれば、
女性だからといって、高齢だからといって、
それを理由に雇用しないことは
法律で禁止されている。
また、同じ仕事で職務が全く同じなら、
性別間で賃金の差があってはならない、
という「同一労働同一賃金」の法律もある。

そんな背景があり、ニュージーランドでは
女性でも主要なポジションに
就いているケースが多く、
妻の収入の方が、夫の収入よりも多いことは
決して珍しいことではない。
もし、そうであれば、
子育てのために、育児休暇を取るのは
女性ではなく、男性だということでも
不思議ではない。

日本の昭和の古臭い価値観である
「女性は家に入って子育てを担当して、
男性は外に出て仕事をする」
という考えは、ニュージーランドにはない。

女性が働きやすい社会の基盤があり、
女性の社会進出が進んでいることが、
キーウィーハズバンドが多い理由に
なっていると思われる。