ニュージーランドの教育の場では、「長所伸展」が積極的に取り入れられている。この国の学校では「飛び級」は一般的だ。同じ学年の子供たち全員に、同じレベルの勉強をさせることはない。スゴクできる子供は、1年も、2年も、場合によっては3年も進んだクラスに入って、上級生と一緒に勉強することもある。よって、簡単すぎる勉強を強いられて退屈する子供はいない。
すべての教科において進んでいるケースより、一部の教科で飛びぬけて優秀だという場合の方が多い。そういう時には、その科目のクラスだけ、上級生のクラスに入ることになる。特に「数学」では、多くの学生が飛び級をしているようだ。
私の住む地域では、外国人が多く住んでおり、地元の小中学校では、外国出身の子供が3分の一以上を占めている。中国人や日本人は数学が得意な子供が多いようだ。日本に帰れば、平均点くらいの成績でも、ニュージーランドの学校に入れば、数学では上位の成績が取れる。実は、数学で飛び級をしている子供の多くは、中国人、もしくは、日本人だ。
ニュージーランドの学校では、年に2回「親子面談」がある。教師と親と生徒の3者面談だが、この面談は、私たち夫婦にとっては楽しいイベントの一つだ。何が楽しいのかと言えば、教師が子供を褒めまくるので、聞いていて気分が良くなること。「K君は~も素晴らしい。~も立派にやり遂げました。~も良かったです」と、とにかく子供のことを褒め称える。そんな教師の言葉を聞いていると、我が子はとても優秀な子供だと錯覚して、嬉しい気分になる。でも、実は、うちの子供は飛びぬけて優秀なわけでもなく、ごく普通の子供だ。
面談では、子供の不得意分野の話を聞くことはあまりない。それよりも、子供の得意分野について、教師は積極的に語ってくる。飛び級まで行かなくても、得意分野の科目があれば、スタンダードなカリキュラムの他に、別の課題も与えて、子供に色々な挑戦をさせる。
面談が仕事中の時間であっても、夫は職場を抜け出して、面談に参加する。「僕、子供の面談が大好きなんだよ。先生が子供のことを褒めまくるから、気分が良くなるんだよね。仕事でストレスがあっても、面談に行くと、気分が良くなって、癒される気がするんだ」と言い、積極的に面談に来る。
片親だけの出席でもいいし、両親揃っての4者面談も歓迎される。私の肌感覚では、両親揃って面談に出席する家庭の方が多いようだ。学校の面談や行事のために、休暇を取ったり、一時的に仕事を抜けてくる人はかなりいる。職種にもよるが、多くの企業や組織が、労働者が子供関係の行事に参加することを奨励しているようだ。面談のためにちょっと職場から離れることは、ニュージーランドではごく普通のことだ。
日本で小中高の教育を受けた私は、初めてニュージーランドの学校を訪問した時、アプローチの仕方の違いに驚かされた。私の子供の頃は「短所克服」を強調する教師が多かった。国語が大の苦手な私は、他の教科と比べれば、国語の成績は非常に悪かった。面談時に教師が言ったのは「他の教科は、あまり勉強しなくてもいいです。でも、国語にはもっと力を入れてください」ということ。
すべての教科をまんべんなく学び、全科目において同レベルの成績を取らせようとした日本の教師。得意科目の勉強はあまりする必要はないが、不得意なものに時間とエネルギーを使えと言っているのだ。それに対して、ニュージーランドの教師は全く逆のアプローチをする。苦手なものに時間を使うよりも、得意なものをより深めて、伸ばしてゆく方がよいと考える。
私個人も「短所克服」よりも「長所伸展」に力を入れた方がよいと思う。人間は誰でも得意・不得意がある。不得意で嫌いなものを嫌々頑張るよりも、得意で好きなものに時間とエネルギーを費やした方が、効率的だし、その分野での個人の可能性も広がると考えるからだ。
ニュージーランドの学校を訪問するとき、多くの子供たちが目をキラキラ輝かせて、活き活きした様子でいるのを目にする。教師が子供のできる分野を褒め称えて、得意分野を更に伸ばして上げようとする姿勢があるから、子供は意欲的で、エネルギーに満ちているのではないか? と思った。