国際結婚

私の旦那さまはニュージーランド人だ。そう、私達は「国際結婚」している。私たちは、結婚前も、結婚してからも、「国際結婚だからね…」「国際結婚でしょ…」というようなことを、日本の親戚、家族、友人などから言われた。日本語では「国際結婚」という言葉があるくらい、「国際結婚」という言い方は一般的であるが、英語では「国際結婚」という言葉を聞いたことがない。「~さんの旦那さんはイギリス人だよ」という表現は耳にするが、「国際結婚」という一つの単語はない。ニュージーランドで日々生活する中、旦那さまの親戚、家族や、ニュージーランド人の友人と接する時、自分達が「国際結婚」していることを意識することは、ほとんどない。

旦那さまとは、私がニュージーランド留学中に出会った。私は大学で勉強しており、旦那さまは、同大学でソフトウェア・アナリストとして働いていた。大学行のバスの中で、初めて、私は彼と会った。ニュージーランドでは、知らない人でも、気軽に会話をする習慣がある。バスの中で、私の近くに立っていた彼が、私に「ハロー」と挨拶してきて、ちょっとした会話が始まった。

その後、彼とはキャンパス内で、時々会うことはあったが、特に、親しい付き合いはなかった。ランチタイムに学食で、たまたま顔を合わせることがあれば、一緒にランチをしたくらいだ。知り合ってから2年以上もした、ある日、彼からディナーの誘いを受けて、街中のレストランで一緒に食事をした時から、私達のお付き合いは始まった。

お付き合いと言っても、けっこう質素な付き合い方だった。お洒落なカフェやレストランへ行くことはなく、私達のデートの場所は、いつも、大学内の彼のオフィスだった。彼は週末でも仕事をすることが多く、彼がオフィスで働いている間、私は彼の部屋で勉強していた。「ロマンチックな恋愛」からは、かなりかけ離れたお付き合いの仕方だった。

彼に会う前には、お洒落をしたり、着飾るようなことはなく、いつも、ジーパン姿で、すっぴんだった。一緒にいても、体裁を整えることなく、素のままの自分でいれたので、彼との時間は、とてもラクでゆったりしていた。

私と彼は、結婚を前提に付き合っていなかった。ただ、一緒にいてラクだから、ということだけで、婚約する前から、同棲を始めた。この同棲生活は、私の日本の両親には受け入れ難いもので、私は、実の両親から大非難を浴びた。しかし、ニュージーランドでは、婚約前の同棲も、そんなに悪いことではないようだ。彼の両親は、私のことを大歓迎してくれて、私は、彼の母親の家に遊びに行き、泊めて貰うことも何度かあった。

彼は、結婚には興味がなかったようだ。私と結婚したくないというより、誰とも結婚したくなかったようだ。もし、彼の相手がニュージーランド人ならば、いつまでも結婚しなかっただろう。しかし、私が外国籍で、ニュージーランドには期限付きの就労ビザで滞在していたので、正式に結婚して、私が永住権を取った方がよいと考えた。ある日、突然、私達は入籍することを決め、その後は、あっという間に結婚してしまった。

私の両親は、私達の結婚に大反対した。また、日本の親戚からも、あまりポジティブなコメントを貰っていない。「国際結婚は上手く行くはずがないよ。文化や価値観、生活習慣が日本と全く違うのだから、最初のうちはよくても、長続きはしないから、止めた方がいい」と。それでも、私達は、日本の家族の意向を無視して、結婚した。

私の日本の親戚は、私が外国に嫁いで、かなり苦労をしていると思っているようだ。でも、実際は、全然そんなことはない。旦那さまと結婚して、今年で25周年を迎えるが、結婚のために苦労したことは、今まで一度もない。実は、私の義理の両親は、日本に対してあまり良い印象を持っていなかった。彼らは子供の頃、戦争を経験したので、おそらく、それが原因だろう。しかし、だからと言って、日本人である私に、冷たく当たることはなかった。それよりも、私は、義理の両親や義理の弟たちから、本当に大切にされていると感じている。

日本の典型的な「嫁姑関係」みたいなものはなく、私は義理の両親と、けっこう気軽な人間関係でいる。義理の母が我が家を訪問中に、私は疲れていて夕飯を作りたくない日があった。こういう場合、日本だったら、無理してでも、嫁は料理をするだろう。しかし、私は「今日は疲れたから、ケンタッキーフライドチキンでもテイクアウトしようか?」と提案できる。義理の母は、私の提案に嬉しそうに応えた。「あ~、もちろん。私、ケンタッキー好きよ。疲れているのに無理して料理なんてする必要はないわよ。今夜はケンタッキーにしましょう」と。日本の両親にこの話をしたら、とても呆れられてしまった。

旦那さまの親戚家族が集まったときも、私がお茶の準備をしようとしたら、義理の母は私にこう言った。「あ~、そんなの旦那にやらせればいいじゃないの」と。日本の家族では、ちょっと考えられない光景だろう。

一般的に、ニュージーランド人男性は、家事や育児に積極的に参加する人が多いようだ。私の旦那さまも、例外ではない。掃除、洗濯や、子供たちの学校関係のことでも、いろいろ手伝ってくれるので、私は大助かりしている。そんなことを知らない、私の日本の親戚たちは、私が外国に嫁いで苦労が多いと思っているようだが、実は、私は申し分ないほど、家庭ではラクをさせて頂いている。「なんてラッキー!」と、感謝の気持ちでいっぱいだ。