ニュージーランドでは子供に体罰を与えるのは法律違反

2007年、ニュージーランドでは
Anti-smacking law(犯罪法第59条)
という法律ができた。
子供を引っ叩くことを禁止した法律だ。
親が子供に対して
暴力を振るってはいけない。
たとえ、躾けのためにでも、
子供に体罰を与えてはいけない、
というものだ。

2009年には、この法律内容に
賛成するか否かについて
国民投票も行われた。
「虐待はいけなくても、
躾けのためになら良いのでは?」
と思う人たちも多数いたが、
それでも、この法律は廃止されることなく、
今でも有効だ。

この法律ができた背景には、
一部の親が子供を虐待するという
社会問題があったからだ。
体罰は子供の安全と
安心の感情を損なうため、
躾けの一部として許可されるべきでない。
暴力は大人への恐怖と不信感に繋がり、
子供たちが期待される行動を
理解するのには役立たない、
と考えられたわけだ。

もちろん、子供のいるすべての家庭を
児童虐待捜査官や警察が
監視することは非現実的だ。
見えないところで、暴力が
起きている事実もあるだろう。

でも、もし親が子供に暴力を振るっている事実が
明らかになれば、
誰でも警察に通報することができる。
子供と接する機会の多い
学校の教師や、一般開業医(GP)などが
子供が親から暴力を受けていると
知った場合には、通報義務がある。

私の息子・アレックスが
幼稚園に通っていた頃、
こんなことを経験した。
一般開業医(GP)に息子を
連れて行った時に、
ドクターが私に質問してきたのだ。
「アレックスの足に
沢山あざがあるけれども、
これは何ですか?
あなたがやったわけではないですね?」と。

息子は皮膚が非常に弱い。
湿疹で身体が痒いこともよくあるので、
常に身体や足を掻きむしっている。
特に足の部分には、
ひっかき傷が治った個所が沢山あり、
あざのようになっている。

ドクターに「あなたがやったわけでは?」
と聞かれたことは、正直、悲しかった。
でも、不審に感じた場合に質問する点では、
きちんと確認している証拠なので、感心できた。
掻き壊しの痕であると説明したところ、
それ以上は何も問われることはなかった。

元職場の先輩から聞いた面白い話もある。
その先輩のお嬢さんが小さな頃の出来事だ。
家の中にトカゲが入って来たそうだ。
先輩もお嬢さんもトカゲが怖い。
うす気味悪い生き物が
部屋の中にいることに気がついて
2人とも「キャー」と悲鳴を上げた。

すると、トカゲは部屋の中を動き回る。
「誰か助けてー」と悲鳴を上げる。
先輩はお嬢さんの学校のお友達に
電話をかけまくり、
「トカゲが好きな子いない?」と
聞いてまわった。
でも、あいにく、誰もトカゲに興味がなく、
欲しいと思う子もいなくて、
2人で「どうしようか?」と悩んだらしい。

トカゲが動くたびに、キャーキャー
悲鳴を上げていたら、
家の扉を叩く音が聞こえた。
応答して見れば、警察官だった。
叫び声を聞いて、
近所の人が通報したのだろう。

警察官は先輩に聞いてきた。
「お子さんはどこにいるんですか?」と。
家の中にいる旨伝えると、
「子供を出しなさい」と命令調で言う。
言われた通り、娘を玄関に来るよう
呼んだところ、娘はニコニコ顔で出てきた。
その時点で、警察官も虐待ではなく、
トカゲ騒ぎだったことを知り、
厳しい表情から優しい顔に変ったそうだ。

子供が安全に生活できるよう、
不審に思うことがあれば、
きちんと確認する義務を果たしていて、
素晴らしいことだなと感心した。

私個人も躾の名で親が子供に
体罰を与えることを反対している。
特に大人で身体が大きく、
力も強い男性が、小さな子供に
暴力を振るうことは、
子供にとっては恐怖以外の何物でもない。
脅しにより、子供の行動を矯正することが
正しいことだとは思わない。
「なぜ、これをしたらいけないのか」を
大人が感情的になることなく、
冷静な姿勢で子供に教えることは
大切だと考える。
この点でもニュージーランドは
「子供を守る」素晴らしい国だと思う。