私たちは誰もが、
幼少期から形成された
「スキーマ」と呼ばれる
深層的な思考パターンを
持っています。
このスキーマは、
私たちの思考や感情、行動に
大きな影響を与え、
幸せな人生を送れるかどうかを
左右する重要な要素です。
この記事では、
スキーマがどのように形成されるのか、
そして不健全なスキーマを
緩めるためのヒントを
ご紹介します。
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スキーマとは?
スキーマとは、
私たちが世界を理解し、
解釈するための
認知的な枠組みのことです。
これは、幼少期から発達してきた
「自分自身」「他者」「世界」に対する
深い信念や前提を指します。
もっと簡単に言えば、
心の奥で無意識のうちに
信じ込んでいることとも
言えるでしょう。
私たちはそれぞれ、
自分独自の思い込みや
信念を持ちながら
日々行動していますが、
多くの場合、
それに自分でも気づいていません。
スキーマは幼少期の経験や
環境によって形づくられ、
大人になってからも
思考パターンや行動に
大きな影響を与え続けます。
スキーマは「自動思考」を通して
表面に現れます。
自動思考とは、
何か出来事が起こったときに、
私たちの頭に瞬間的に浮かぶ
考えやイメージのことです。
たとえば、
仕事でミスをしたときに
「自分はダメだ」
と自然に思ってしまうのは、
自動思考の一例です。
興味深いのは、
同じ出来事に対しても、人によって
自動思考の内容が異なるという点です。
たとえば、誰かに挨拶したのに
無視された場合を考えてみましょう。
ある人は
「こちらが挨拶しているのに、
無視するなんて失礼だ!」と思い、
怒りを感じるかもしれません。
一方で別の人は、
「私、もしかしたら
嫌われているのかも」
と不安になるかもしれません。
こうした違いは、
その人が持っている
スキーマの違いを反映しています。
「人に嫌われるべきではない」
「皆と仲良くしなければならない」
といったスキーマを持つ人は、
無視されたときに
「嫌われているのかも」
と感じて不安になります。
一方、「人は礼儀正しく
振る舞わねばならない」
というスキーマを持っている人は、
「失礼だ」という思考が浮かびやすく、
怒りを感じることでしょう。
このように、
スキーマは自動思考を生み出し、
自動思考は感情を引き起こし、
その感情が行動を促し、
行動が結果をもたらします。
そして、その結果が
さらにスキーマを強化する
という循環が生まれるのです。
私たちの人生の多くの場面は、
このスキーマと自動思考のパターンに
影響されている
と言っても過言ではないでしょう。
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適応的スキーマと非適応的スキーマ
スキーマには、人が健全に
適応することを助けてくれる
「適応的スキーマ」と、
反対に生きづらさや
不幸を引き起こしてしまう
「非適応的スキーマ」があります。
非適応的スキーマは、しばしば
悩みや生きづらさの原因となり、
思考の柔軟性を奪ってしまいます。
一方、適応的スキーマは、
現実に柔軟に対応する力を
与えてくれるものです。
非適応的スキーマの特徴は、
その硬直性と、
白か黒かを決めつけるような
二分法的な思考にあります。
「〜すべき」「〜ねばならない」
といった形で表現されることが多く、
たとえば「人に嫌われるべきではない」
「みんなとうまくやらねばならない」
「人はみな礼儀正しくなければならない」
「いつも頑張っているべきだ」
「失敗をするべきではない」
「相手をがっかりさせてはならない」
「人に甘えるべきではない」
「自分の弱みを見せてはならない」
「何事も完璧にやらねばならない」
といった考えがそれにあたります。
これらのスキーマは、
非現実的な理想を自分に課すため、
結果として
自分自身を苦しめることになります。
なぜなら、人間である以上、
こうした基準を
常に満たし続けることは不可能であり、
そのギャップが
精神的な負担となってしまうからです。
一方、適応的スキーマは、たとえば
「人に嫌われないに越したことはないけれど、
ときには嫌われてしまうこともあるよね」
「みんなとうまくやれるのが理想だけれど、
うまくいかないときもあるよね」
「完璧にできたらもちろんよいけれど、
そうでないこともあるよね」といったように、
あいまいさや柔軟さを含んでいます。
このような適応的スキーマは、
状況に応じた現実的な対応を可能にし、
白黒をはっきり分けるような思考ではなく、
グラデーションのある多様な見方を促します。
そのため、
現実の複雑さにうまく対応しやすく、
柔軟なスキーマを多く持つ人は、
ストレスに強く、精神的な健康を
保ちやすい傾向があるのです。
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非適応的スキーマが人を不幸にしてしまう例
非適応的スキーマが
現実に人を不幸に陥れてしまう一例として、
伝説的なハリウッド女優
マリリン・モンローの人生を見てみましょう。
彼女は女優として大成功し、
富と名声を手に入れましたが、
その生活は孤独に満ちており、
決して幸せとは言えないものでした。
マリリン・モンローは生涯で
幸せな結婚生活を強く望んでいましたが、
相手の男性との間に
持続的な愛を育むことができず、
自ら関係にピリオドを打つパターンを
繰り返しました。
彼女は、ジム・ドアティ、
大リーガーのジョー・ディマジオ、
劇作家のアーサー・ミラーと
3度の結婚を経験し、さらに
フランク・シナトラや
ケネディ兄弟など
多くの男性と関係を持ちました。
しかし、彼女が憧れた
「子どもを産んで幸せな家庭を築く」
という夢は
実現することはありませんでした。
次第に彼女は、空虚感や孤独感から
睡眠薬や精神安定剤、
アルコールに依存するようになり、
何度も自殺を図りました。
そして36歳のとき、
自宅で亡くなっているのが発見され、
血液からは
大量の睡眠薬が検出されたのです。
美貌、富、名声——
彼女はすべてを手に入れながら、
なぜ幸せになれなかったのでしょうか?
その理由は
彼女のスキーマにあった
と言われています。
彼女の特徴的な行動パターンから、
彼女は「愛とは続かないものである」
「愛とは失われるものである」
というスキーマを
持っていたと考えられています。
彼女は愛されたいという欲求が強く、
「私を愛している証拠を見せて」
と相手に要求する一方で、
親密になることへの
恐れも抱えていました。
そのため、愛を強く求めながらも、
なぜか相手から
拒絶されるような行動に出てしまい、
相手の態度が少しでも変わると、
それを愛が失われる前兆だと感じて、
自ら関係を終わらせてしまったのです。
では、彼女のこのスキーマは
どのように形成されたのでしょうか?
それは彼女の生い立ちを見ると
納得できるでしょう。
マリリンは
生後間もなく母親が発病したため、
親戚に預けられ、16歳までに
10ヵ所以上の家を転々としました。
養育者たちは
彼女を可愛がりましたが、
彼女の視点からすれば、
どの愛情も永続的なものではなく、
次々と失われていくものでした。
この経験から「愛は続かない」
「愛は失われる」というスキーマが形成され、
大人になった後も
彼女はそのスキーマに基づいて行動し、
結果として自ら愛が失われる人生を
創り出してしまったと思われます。
このように、幼少期に形成された
非適応的スキーマは、
成人後の人生に大きな影響を与え、
本人が望む幸せを
実現する妨げとなることがあります。
マリリン・モンローの悲劇は、
非適応的スキーマの影響力の大きさを示す
典型的な例と言えるでしょう。
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非適応的スキーマを維持させる3つの反応
私たちの多くは、
何らかの非適応的スキーマを
抱えていると言えるでしょう。
心理学者ジェフリー・ヤングによれば、
非適応的スキーマを維持してしまう
対処スタイルには、
主に次の3つがあります。
1つ目は「スキーマへの服従」です。
これは、スキーマに従うようにして、
その内容を裏づけるような行動を
自ら取ってしまう対処法です。
たとえば、「私は見捨てられる」
というスキーマを持つ人がいるとします。
この人がスキーマへの服従
というスタイルを取ると、
相手のささいな言動を
「冷たくされた」と受け取り、
「嫌われた」と思い込んで、
自分から関係を
断ち切ってしまうことがあります。
しかし、実際には
相手が自分を
嫌っていたわけではありません。
これはまさに、自らスキーマを
現実のものにしてしまう行動であり、
結果として「見捨てられた」
という体験を
自分で生み出してしまうのです。
2つ目は「スキーマの回避」です。
これは、スキーマに関係する
思考や感情を避けようとする対処法です。
たとえば、「見捨てられる」
というスキーマを持つ人が
このスタイルを取ると、
人と親しくなろうとしなくなります。
親密な関係を避ければ、
見捨てられるという体験そのものを
避けられるからです。
また、「躁的防衛」といって、
高揚感を得ることで
スキーマにまつわる不安や痛みを
感じずに済むようにする方法も、
回避に含まれます。
しかし、スキーマを避けることで
その存在が消えるわけではなく、
かえってスキーマを
強化してしまうことになるでしょう。
3つ目は「スキーマへの過剰補償」です。
これは、スキーマと正反対のことを
信じているかのように
振る舞う対処法です。
「見捨てられる」
というスキーマを持つ人が
このスタイルを取ると、
相手を強く束縛し、離れていかないように
コントロールしようとします。
「私だけを見て」
「私だけを大切にして」といった
過剰な要求をしてしまい、
結果的に相手の気持ちが
離れていくことになります。
そしてその結果、
「やっぱり見捨てられた」と感じ、
スキーマがさらに
強まってしまうのです。
このように、これら3つの
どのスタイルを取ったとしても、
非適応的スキーマは維持されやすく、
手放すことが
難しくなってしまうでしょう。
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非適応的スキーマの緩め方
では、どうすれば
非適応的スキーマを
緩めることができるのでしょうか?
まず大切なのは、自分の中にある
非適応的スキーマに気づくことです。
そのためには、日常の中で
自分の心の中に
どのようなつぶやき(自動思考)が
よく浮かんでくるかを
振り返ってみるとよいでしょう。
特に、ネガティブな感情に
襲われたときに、
どのような思考が
その感情を引き起こしているのかを
意識してみてください。
自分の心の中で繰り返される
つぶやきの傾向をつかむことができたら、
そこからスキーマを
推測することができるでしょう。
そして次に、
そのスキーマがどうして生まれたのか、
その背景や理由を探ってみます。
必ず、そうなった経緯があるはずです。
たとえば、「人を不機嫌にしてはいけない」
というスキーマを持っている人は、
幼少期に親がよく不機嫌になっていたため、
親の顔色をうかがいながら
過ごしていたのかもしれません。
子どもにとって
親は生きていくうえで
不可欠な存在ですから、
親の機嫌を損ねないように行動するのは、
自分の身を守るための
手段だったのでしょう。
そう考えれば、そのスキーマは、
かつての自分を守るために
必要だったものだと言えます。
そのため、そのスキーマを
「悪いもの」と捉えなくてもよいのです。
むしろ、過去の自分を
守ってくれたものとして、
そのスキーマに
感謝してもよいでしょう。
さらに、幼いころの自分自身を
必死に守って頑張ってきた自分を
労ってあげましょう。
そして、今の自分は
もうそのスキーマに守られなくても
生きていけることを、
自分自身に優しく伝えてあげましょう。
もし、今もそのスキーマが
自分の生きづらさを生んでいるなら、
少しずつ緩める方向に
歩み出してみてください。
そのために最も効果的な方法は、
「行動によって緩める」ことです。
つまり、自分のスキーマが
必ずしも正しいとは限らないことを、
実際の行動で確かめてみるのです。
たとえば、
「相手をがっかりさせてはならない」
というスキーマを持っている人は、
人をがっかりさせることに対して
過剰な不安や恐怖を
感じることでしょう。
子どものころは、親をがっかりさせることが
自分の生存に関わる
重大な問題だったとしても、
大人になった今では、
相手をがっかりさせたとしても、
自分の人生に大きな影響を
及ぼすようなことはありません。
それを実感するためには、たとえば
気が進まない誘いを受けたときに、
勇気を出して断ってみるとよいでしょう。
実際に断れば、相手は
多少がっかりするかもしれませんが、
それによって深刻な事態が
起こるわけではないことが
体感できるでしょう。
そうした体験を重ねることで、
スキーマは少しずつ緩んでいきます。
このとき大切なのは、
最初から無理をしすぎないことです。
いきなり難しい状況で
スキーマに逆らうような行動を取るのは
現実的ではありません。
まずは、断りやすい相手を選んでみたり、
自分が「ちょっと頑張ればできそう」
と思える範囲から
始めてみることがポイントです。
その行動によって、
「思っていたほど
悪い結果にはならなかった」と実感できれば、
スキーマは次第に緩んでいくはずです。
非適応的スキーマを
完全に手放すのは
簡単なことではないでしょう。
それほど深く心に
染みついているものだからです。
でも、少しずつなら
緩めていくことは可能です。
今まではそのスキーマに
がんじがらめに縛られていた人も、
少しずつスキーマの影響が和らげば、
抱えていた生きづらさも
だんだんと軽くなっていくでしょう。
どうか焦らず、自分のペースで
ゆっくり取り組んでみてください。
スキーマが変われば、
ものの見方や思考パターンも変わり、
それにともなって感情や行動も、
良い方向へ動くでしょう。
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おわりに
この記事では、スキーマとは何か、
非適応的スキーマと適応的スキーマの違い、
マリリン・モンローの例から見た
非適応的スキーマの影響、
スキーマを維持してしまう3つの対処スタイル、
そして非適応的スキーマを緩める方法について
お伝えしてきました。
私たちの心の奥深くにあるスキーマは、
ふだんは意識にのぼることがありませんが、
確実に人生に大きな影響を与えています。
適応的なスキーマは、私たちを支え、
困難を乗り越える力になってくれますが、
非適応的スキーマは
知らないうちに自分を縛り、
生きづらさの原因になってしまいます。
それでも、たとえ
そんなスキーマを抱えていたとしても、
それに気づき、丁寧に向き合っていけば、
少しずつその力を緩めていくことは可能です。
大切なのは、自分のスキーマに気づき、
それがどのようにして生まれたのかを
理解しながら、ゆっくりと
緩めていこうとする姿勢です。
一度にすべてを
変えようとするのではなく、
小さな一歩から始めてみましょう。
「自分のスキーマが
必ずしも正しいわけではない」と、
確認できるような行動を、
無理のないペースで
積み重ねていくことが大切です。
そして、非適応的スキーマを
緩めていくだけでなく、
柔軟で現実的な適応的スキーマを
少しずつ育てていくことも
忘れないでください。
「〜すべき」「〜ねばならない」
といった硬直した考え方から、
「できることもあれば、できないこともある」
という柔らかで現実的な考え方へと
変わっていくことで、人生はもっと自由で
豊かなものになるでしょう。
自分自身と向き合い、変化に向かって
少しずつ歩み進めていくことは、
簡単ではないかもしれません。
それでも、その先には、
今よりもっと自由で、
心地よく過ごせる毎日が
待っているでしょう。
あなたも今日から、
自分のスキーマに目を向けて、
小さな一歩を踏み出してみませんか?