メンタル疾患で苦しむ人の多くが
「少し良くなったと思ったら、
また、悪化してしまった。
なかなか病気が治らなくて、
本当にツライ」と嘆き、
「早く元の状態に戻りたい」と切望している。
早く元気になって、
病気になる前のような自分に戻りたい、
と願う気持ちは十分理解できる。
しかし、精神科医・樺沢紫苑先生によれば、
「元の自分には絶対に戻らないほうがよい」
とのこと。
なぜ、元の自分に戻ってはいけないのか?
元の状態ではなく、どのようになれば望ましいか?
このことについて考えてみたい。
メンタル疾患になるのは、
たった一つの原因によるものではなく、
色々な要素が絡み合って病気が発症するものだ。
しかし、メンタル疾患に罹る人の多くには
ある一つの共通点がある。
それは、レジリエンス力が低いことだ。
レジリエンスとは「心のしなやかさ」のこと。
レジリエンス力の低い人は、
凝り固まった信念を持っており、
物事を白か黒かでしか判断できない。
ストレス対応が非常に下手で、
ストレスを真に受けてしまい
それが原因で心を病んでしまう。
メンタル疾患は人間である以上、
誰でも罹り得る病気ではあるが、
病気になりやすい人となりにくい人とがいる。
現代社会は「ストレス社会」とも言われるほど
多くの人が程度の差はあれど常にストレスに晒されている。
十分休む暇もないほど仕事が忙しかったり、
人間関係が複雑で、人間関係のこじれで思い悩み、
心を病んでしまう状況にも陥りやすい。
ストレスに晒されても、へっちゃらだという人は、
強い人間だと思われがちだが、
実は、そうでもない。
頑強なイメージよりも、どちらかと言えば、
「いい加減」であり、
どんなことがあっても「まあ、いいでしょ」
と軽く受け流せる人だ。
悪い言い方をすれば、「不真面目でいい加減」。
良い捉え方をすれば、
「心がしなやかで、スルー力が高い」ということ。
非常に真面目な人は、
こういう人のいい加減さを許せず、
すべてのことを真剣に受け止める姿勢だ。
そして、それに一生懸命向き合うが、
自分でもどうにもならないことが多く、
思うように行かなくて、そのうち心が折れてしまう。
真面目なことは一見、良いことではあるが、
メンタルヘルスの点では、
この真面目さが人を病ませてしまう原因となる。
病気になる元の状態に戻っても、
レジリエンス力が以前と変わりなく、
ストレスを真に受ける姿勢では、
せっかく病気が治っても、
またいつ具合が悪くなるか分からない。
なぜなら、病気になる要素をはらんだままだから。
たとえ、病気が治ったとしても、
以前と同じように病気になる要素を
自分の中に持ち続ければ、
何かあったときに、病気は再発するだろう。
病気になる前の自分に戻ることは、
爆弾を抱えた状態に戻るのと同じだ。
一時的には落ち着いた状態になれても、
爆弾を抱えていれば、外からの刺激により
またいつ爆発するかは分からない。
病気になる前の自分に戻りたい気持ちは
真っ当な願いに思えるが、
この方向へは進まないほうが賢明だ。
病気になる前の自分に戻ってはいけないのだ。
では、どうすれば、よいのだろうか?
それは、病気になる前と同じような自分ではなく、
「新しい自分」に生まれ変わることだ。
新しい自分は今までとは違って、
ストレスを真に受けないで
サラッと受け流せる自分。
カチカチに凝り固まった考え方をせず、
スルーする力が高くなった自分。
レジリエンス力と同時に
自己洞察力も高めてゆくと役に立つ。
つまり、精神的な成長が必要だということ。
新しい自分に生まれ変われれば、
昔と似たような状況になっても、
上手く対処することが可能だ。
すべてのことを真に受けることなく、
必要な時には「いい加減」になり、
真面に向き合うことをやめる。
一見、不真面目そうに見えても、
心のしなやかさがある分、
メンタルを病むことも少なくなる。
自分でコントロールできることは
一生懸命やってもよいが、
自分ではどうにもならないことも
この世の中にはあることを知ったほうがよい。
そして、自分ではコントロールできないことは
一切関与しないほうが、心の健康のために役立つ。
病気になること自体、
悪いことだと捉える人も多いが、
実は、そんなことはない。
病気になったお陰で、
学ぶことができるからだ。
このような姿勢で生きていれば、
病気になってしまうことを
実際に自分が体験することで
十分理解できるようになる。
病気で苦しむ時は、
短期的には大変であっても、
それにより、「このような姿勢ではいけない」
と理解して、もっと健康な自分を作り
長期的にはより良く生きることも可能になる。
長い目で観れば、病気のお陰で、
心の状態も、身体の状態もより改善できた
という結果となり、自分も良い方向へ進んで行ける。
すべてには当てはまらなくても、
病気になる多くのケースは、
「今までの在り方に問題がある。
もっと改善したほうがよい」
というメッセージだと解釈できる。
そのメッセージを正しく受け取り、
「それでは、自分はどのように変わればよいのか?」
を考えて、より望ましい自分の姿に変わるとよい。
心の病気に限らず、身体の病気でも
同じようなことが言える。
病気になってしまうような生活習慣、
食生活をしていれば、
そのうち身体が悪くなり、
健康がむしばまれてゆく。
こうなれば、「なんて自分はついてないんだ」
と一時は嘆くことだろう。
しかし、捉え方を変えれば、
今、病気になったお陰で、
自分を完全に壊してしまう前に、
生活習慣で良くなかった点を見直し、
改善してゆくことも可能だ。
そのお陰で、回復した後には、
より健康的な生活をするようになり、
病気になりにくい身体を作ることもできる。
病気になる前の自分に戻ろうとはせず、
この病気により、何が良くなかったのか?
を知る機会にして、病気を利用して、
自分がよりよく生きれる生活習慣や食生活、
心の持ち方を習得したほうが賢明だ。
病気の経験を活かして、
新しいより良い自分に生まれ変わることが重要だ。
樺沢先生、役立つアドバイスを
有難うございました。
参考動画:「完全に元には戻れませんか?」
(ユーチューブ 精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル)