その生きづらさ、「心の禁止令」が原因かもしれません

私たちの多くは、
心の中に「〇〇してはいけない」という
無意識の制限を抱えています。

この「禁止令」は
子ども時代に形成され、
大人になった今でも、
私たちを縛り続けているのです。

この記事では、
そんな心の中の禁止令の正体と、
それを手放す方法について
お伝えします。

あなたがより幸せに、
あなたらしく生きるための
ヒントになれば幸いです。

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見えない鎖:心の中の「禁止令」とは?

あなたは日常の中で、
理由もなく
自分を押さえつけてしまうような
「心の声」を感じたことはありませんか?

たとえば、悲しくて泣きたいのに
「泣いてはいけない」と
自分にブレーキをかけてしまうこと。

あるいは、周囲に褒められても
「喜びをあらわにしてはならない」
と遠慮してしまうこと。

実は、こうした無意識のブレーキは、
心理学で「禁止令」と呼ばれています。

禁止令とは、
「〇〇してはならない」
「〇〇すべきでない」といった、
自分自身に対する
抑圧的なメッセージのことです。

禁止令は、多くの場合、
子ども時代に身についたものであり、
法律や校則のように
外から与えられたルールではなく、
自分の心が作り出した
内なる決まりごとなのです。

しかも、その多くは
自覚のないまま心に刻まれ、
無意識に私たちの行動を
制限し続けています。

たとえば、
「感情を感じるな(感情を表すな)」
という禁止令を抱えている人は、
友人に「最近元気がないけど大丈夫?
つらかったら話してね」
と優しく声をかけられたとき、

本当は
話を聞いてほしい気持ちがあっても、
心の中の禁止令が
「弱音を吐いちゃダメ!
感情を出しちゃいけないよ」
とささやきます。

すると、思わず笑顔をつくり、
「ううん、平気だよ!全然大丈夫!」
と答えてしまうのです。

本当は苦しくても涙を見せられず、
「大丈夫」と繰り返してしまいます。

このように「感情を感じるな」
という禁止令が強く働いている人は、
自分でも気づかないうちに
ストレスを溜め込みやすくなります。

また、周囲には
「本音を見せない人だ」
という印象を与えてしまい、
親密な人間関係を築くことが
難しくなるのです。

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典型的な禁止令:あなたの中にもある?

禁止令は、本人が無自覚のうちに
心に染みついているため、
日常のささいな場面でも
私たちの言動に影響を与えます。

先ほどの「感情を感じるな」の例のように、
本当は助けてほしいのに
「平気」を装ってしまったり、
怒りを感じても
笑ってごまかしてしまったり…。

こうした反応は人間関係にも影響し、
周囲から誤解されて
孤独感を深めてしまうことも
あるのです。

ここでは、禁止令が
会話やふるまいにどのように表れるのか、
いくつかの例をご紹介します。

「自分なんて大したことないから…」

仕事で成果を出し、
上司や同僚に褒められたとき、
「いえいえ、私なんて全然ですよ」
と必要以上に謙遜する人がいます。

そんなとき、心の奥では
「重要であるな(目立ってはいけない)」
という禁止令が働き、
自分が注目されたり
評価されたりすることを
無意識に避けようと
しているのかもしれません。

せっかくの称賛も素直に受け取れず、
自分の価値を
過小評価してしまうのです。

「どうせ私には無理だよ…」

新しいことに挑戦しようとする場面で、
「どうせ失敗するに決まってる」
「自分が成功しちゃいけない」
と感じてしまい、
一歩を踏み出せないことがあります。

これは、「成功するな」
という禁止令による
セルフサボタージュの一例です。

たとえば、周囲から「やってみれば?」
と励まされても、
「いや、自分なんて
どうせうまくいかないから…」
と尻込みしてしまい、
結果として
チャンスを逃してしまいます。

「どっちでもいいよ、お任せします」

友人と食事に行く約束をしたとき、
「何が食べたい?」と聞かれても、
自分の希望があるにもかかわらず
「何でもいいよ」「〇〇さんに任せるよ」
と答えてしまう人があります。

もしかすると、その背景には
「自分で決めるな
(自分の意思を主張してはいけない)」
という禁止令が
潜んでいるのかもしれません。

幼い頃から親に
すべて決められていたり、
自分の意見を否定される経験が続くと、
大人になってからも
自分の希望を口にすることに
躊躇してしまうのです。

こうした傾向が強いと、
友人との何気ないやりとりでも
相手に合わせてばかりになり、
自分の中には
どこかモヤモヤした気持ちが
残るかもしれません。

いかがでしょうか?
思い当たるものはありましたか?

禁止令は、このように
日常会話の端々や行動パターンに表れ、
人間関係や自己評価に
少なからず影響を及ぼします。

「どうして自分は
いつもこうなんだろう…」
と感じるその陰には、
何らかの禁止令が
隠れている可能性があるのです。

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禁止令の根源:子ども時代の心のドラマ

では、そもそもなぜ、
私たちの心に
「禁止令」などというものが
生まれてしまうのでしょうか?

その背景には、多くの場合、
幼少期の体験があります。

子どもは、親や周囲の大人の
言葉や態度にとても敏感です。

そして、ときにそれを
文字どおりに受け取ったり、
誤解したりしながら、
「こうしてはいけないんだ」と、
自分なりのルールを
心に刻み込んでいきます。

これは、子どもなりに
傷つかないよう自分を守るための、
大切な適応だったのです。

いくつか具体的な場面を
見てみましょう。

「感情を出したら叱られた」

小さい頃、嬉しくてはしゃいだときに
「そんなにはしゃぐんじゃない!」
と親に言われたり、
悲しくて泣いたときに
「うるさい!泣くんじゃありません」
と強く叱られたり、
笑った顔に対して「へらへらするな」
と水を差された経験はないでしょうか?

子ども心に、
「感情を表現すると否定される」
「そうすると傷ついてしまう」
と学んだ結果、
「感情は表に出してはいけないんだ」
というルールを
心に刻んでしまうことがあります。

こうして生まれるのが、
「感情を表すな」という禁止令です。

「あなたがいなければよかった」

これは極端な例ですが、もし親から
「あなたさえいなければ…離婚できたのに」
といった言葉を投げつけられたら、
幼い子どもは深く傷つきます。

心の中で、
「自分は望まれていない存在なんだ。
いないほうがよかったんだ」と感じ、
「存在するな」という禁止令が
生まれてしまうことがあります。

この思い込みは、
自己肯定感を著しく低下させ、
人生を生きづらくしてしまうものです。

「病気のときだけ優しくしてもらえた」

元気なときは
忙しい親にかまってもらえず、
寂しさを感じていたのに、
熱を出したり体調を崩したときだけ
親が優しく看病してくれた……

そんな経験がある人は
注意が必要です。

なぜなら、子どもの心には
「健康でないほうがいい。
病気になったほうがいい」という感覚が
身につくことがあるからです。

これが「健康であるな」
という禁止令につながります。

大人になってからも
無意識のうちに
健康管理を後回しにしたり、
体調を崩しやすくなるなどの
悪影響が出ることがあります。

「子どもらしくしちゃダメ」

本来なら甘えたい時期に、
親のケンカの仲裁役をしたり、
機嫌をうかがって
「親の小さなカウンセラー」のように
振る舞っていた人もいるでしょう。

たとえば、両親が口論を始めると、
幼いあなたが気を遣って場をなだめたり、
落ち込む母親の
話し相手になって慰めたり…。

そうした経験を繰り返すうちに、
「子どもでいてはダメ。
しっかりしなきゃダメ」と、
決意してしまうことがあります。

本来、のびのびと甘えるべき時期に
それが許されなかった人は、
大人になってからも
自分の気持ちを後回しにし、
過剰に他人に尽くしてしまう傾向があります。

その結果、生きづらさを
感じやすくなるのです。

これらはほんの一例にすぎません。

他にも、「成長するな」
(過剰な過保護のもとで育ち、
自立してはいけないと思い込む)、

「考えるな」
(「親の言うとおりにしなさい」と育てられ、
自分で考えることを手放してしまう)、

「信用するな」
(幼少期の心の傷から、
他人との親密さを避けてしまう)など、
さまざまな禁止令が知られています。

いずれも、子ども時代の環境や
養育者からのメッセージをもとに、
幼い自分を守るために
つくり上げたルールだと言えるでしょう。

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「アロワー」の力:心のブレーキを解除する許可証

禁止令の問題点は、
自覚のないまま自分自身を縛りつけ、
結果として人生を
生きづらくしてしまうことにあります。

では、どうすれば
その窮屈な禁止令から
自分を解放できるのでしょうか?

その鍵となるのが、
「アロワー」と呼ばれる考え方です。

アロワーとは、禁止令とは反対に、
「〇〇してもいい」「〇〇のままでいい」と、
自分に許可を与える
メッセージのことを指します。

言い換えれば、
禁止令が心のブレーキだとすれば、
アロワーはそのブレーキを解除する
「許可証」のようなものです。

アロワーは、
自分を縛っている禁止令とは逆方向の、
肯定的なメッセージを
自分自身に与えてあげることです。

たとえば「感情を感じるな」
という禁止令を抱えている人にとっては、
「感じたままの感情をそのまま感じていいよ」
「どんな感情も表現して大丈夫」
といった言葉がアロワーになります。

では、実際にどうすれば
アロワー(=許可のメッセージ)を
自分に与えられるのでしょうか?

ポイントは、シンプルに、
そして繰り返し行うことです。

まずは、自分の中に
どんな「〜するな」の声があるかに
気づくことが第一歩です。

日常の出来事を振り返ってみましょう。

「あ、今また
“自分で決めちゃダメ”と思って
引っ込んでしまったな」と気づけたら、
それだけでも大きな前進です。

次に、その禁止令とは反対の内容で、
自分にかけてあげたい言葉を考えます。

禁止令に対する
「心の許可証」をつくるイメージです。

たとえば「重要であるな」
という禁止令があるなら、
「あなたは大切な存在でいていいんだよ」
といった具合です。

ここで大切なのは、否定形ではなく、
肯定形で伝えることです。

「〜してはいけない」ではなく、
「〜していい」「〜しても大丈夫」といった、
ポジティブでやさしい表現にしましょう。

準備したアロワーの言葉は、
日常の中で繰り返し
自分に言い聞かせてあげます。

これはアファメーション
(肯定的な自己暗示)の一種
と言えるでしょう。

たとえば、朝起きて鏡を見るときや、
夜お風呂でリラックスしているときなどに、
自分に向かって
やさしく語りかけてみましょう。

「感情を感じてもいいんだよ」
「私は私のままで大丈夫」といった言葉を、
できれば声に出して伝えてください。

もし声に出すのが難しければ、
心の中で念じるだけでも構いません。

アロワーの効果は、繰り返すことで
じわじわと現れてくるでしょう。

一度言っただけで
劇的に変わることは期待できませんが、
毎日少しずつ「自己許可」を
積み重ねていく中で、
心に少しずつ変化が生まれてきます。

何度も何度も
自分に許可を与え続けることで、
その言葉が心の奥に蓄積され、
がんじがらめだった禁止令の鎖が、
少しずつゆるんでいくでしょう。

すると、
「本当は自分は悲しかったんだな」
「本当は〇〇したかったんだな」と、
自分の素直な気持ちに
気づけるようになったり、
今までためらっていた行動に
挑戦してみようと思えたりする瞬間が
やってくるでしょう。

これはまさに、
あなたの心の中で禁止令が後退し、
あなた自身が
自由になりはじめているサインなのです。

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許可から行動へ:小さな一歩を踏み出す

アロワーを繰り返して
心が少し軽くなってきたら、
ぜひ実際の行動でも
自分に許可を与えてみましょう!

たとえば、これまで遠慮して
言えなかった意見を
思い切って職場の会議で発言してみる、
小さな我慢をひとつやめてみる、
信頼できる人に
少しだけ弱音を吐いてみる──
そんな小さな一歩で構いません。

最初は緊張するかもしれませんが、
「やってみても大丈夫だった」
と体感できれば、
それが大きな自信につながるでしょう。

心理学では、アロワーによって
心が「やってみようかな」と動きはじめると、
実際の行動(これを「ゴーアー」と呼びます)
にも移りやすくなるとされています。

そして、
その行動によって得られた
ポジティブな結果や喜びは、
さらに心に安心感をもたらし、
禁止令を書き換える
大きな後押しとなるのです。

たとえば、
「自分の意見を述べてはならない」
という禁止令を持っていた人が、
「私の考えも大切にしていいんだよ」
というアロワーを
何度も自分に語りかけた結果、
ある日、勇気を出して
会議で発言したとします。

その意見が採用されたり、
「いい視点だね」と評価されたりすれば、
「ああ、私の意見にも
ちゃんと価値があったんだ」
と実感できるはずです。

こうした小さな成功体験を
積み重ねていくことで、
禁止令は徐々に力を失っていくでしょう。

もちろん、長年心に根づいてきた
禁止令の影響が
すぐに消えるわけではありません。

ときには、「やっぱり私なんて…」と、
古い思考パターンが
顔を出すこともあるでしょう。

でも、そんなときこそ
アロワーの言葉を思い出し、
「それでも大丈夫だよ」
と自分をそっと許してあげてください。

焦らずに、無理のない範囲で少しずつ、
自分に許可を出していきましょう。

その小さな行動の積み重ねが、
やがてあなたを
禁止令から自由にしてくれるのです。

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禁止令をゆるめるときの心構え:否定ではなく感謝を

最後に、
禁止令を手放していくときに大切な
心構えについてお伝えします。

禁止令に気づいたとき、
「こんな思い込みが
自分を苦しめていたなんて」
と残念に感じたり、場合によっては、
その原因となった親や
過去の出来事に対して
怒りがわいてくることも
あるかもしれません。

けれど、ここでひとつ
覚えておいてほしいのは、
禁止令そのものを
悪者にしないということです。

なぜなら、禁止令は、
幼いころのあなたが必死で
自分を守ろうとして
生み出したものだからです。

それは決して悪いものでも、
愚かなものでもありません。

むしろ、小さな自分が
懸命に生き抜こうとした
健気な証と言えるでしょう。

したがって、
禁止令に気づいたときには、
それを無理に否定したり
押さえつけようとするのではなく、
「今まで自分を守ってくれて
ありがとう」と、感謝とねぎらいの気持ちを
向けてあげましょう。

たとえば、
自分の中に「感情を感じるな」
という禁止令があると気づいたなら、
その禁止令に向かって、
心の中でこう語りかけてみてください。

「小さいころからずっと、
私が傷つかないように
守ってくれていたんだね。ありがとう」と。

そして、
その禁止令を生み出した幼い自分にも、
「よく頑張ってきたね。もう大丈夫だよ」と、
やさしく声をかけてあげましょう。

また、禁止令のルーツが
親や周囲の人の言動にあったとしても、
それを他者への非難に
向けないことも大切です。

どんな過去があったとしても、
その出来事自体を
変えることはできませんし、
親を責めたところで、
禁止令が自然に消えて
なくなるわけでもありません。

大切なのは、
「これからの自分を
どう解放していくか」という視点です。

これから先、
あなた自身がどんな許可を自分に与え、
どんな一歩を踏み出すか──
その積み重ねこそが、
あなたをしなやかに
自由にしてくれるのです。

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おわりに:自分への許可で心を解放する

この記事では、
私たちの心に潜む「禁止令」について、
その影響や成り立ち、そして
乗り越えるための方法までを
お伝えしてきました。

禁止令とは、
「〜してはならない」といった
心の中の抑圧的なメッセージのことです。

多くは、子ども時代に
自分を守るために
作り出されたルールであり、
「感情を感じるな」「存在するな」
「重要であるな」などが代表的です。

こうした禁止令は、
大人になっても
無意識のうちに行動を縛り、
生きづらさの原因となることが多いです。

このような禁止令から
自分を自由にしてあげるために有効なのが、
「アロワー」という、
自分に与える許可のメッセージです。

アロワーは、心のブレーキを緩め、
人生の脚本を書き換える鍵となります。

自分を縛る内なる声に気づいたら、
その逆のやさしい言葉を
自分自身にかけてあげましょう。

繰り返し許可を与えることで、
禁止令は少しずつ力を失い、
心がより自由に、のびのびと
動けるようになっていくでしょう。

禁止令を手放すときには、
それ自体を悪者にしないことが大切です。

それは、幼いあなたが必死に
自分を守るためにつくった
「盾」のような存在だからです。

今まで自分を
守ってくれていたことに感謝し、
やさしく見送ってあげましょう。

また、親や過去を責めるのではなく、
「今の自分に何ができるか」
に目を向けていくことも大切です。

かつて自分を縛っていたルールは、
自分の手で書き換えることが可能です。

「今この瞬間」からでも
決して遅くはありません。

どうか焦らず、少しずつで大丈夫です。

自分を縛っていた禁止令に気づいたなら、
自分に小さな許可を与えてみてください。

「嫌だと感じたら
ノーと言っていいんだよ」
「頑張れない自分でも大丈夫だよ」──
そんな小さなアロワーの積み重ねが、
やがて大きな心の変化につながるでしょう。

あなたの中の禁止令は、
長いあいだ、
あなたを守るために働いてくれていました。

そしてこれからは、
あなた自身の手で、
その固く閉ざされていた扉を
開け放つことができます。

自分にやさしい許可を与えながら、
ありのままの自分で生きる道を、
ゆっくりと歩んでいきましょう。

その先には、今よりずっと身軽で、
心地よい日々が待っているはずです。