気をつけよう。慰めているつもりが、相手を傷つけることもあるから。

メンタル疾患の症状に苦しむ人に
精神的健常者が
「そういう現象(症状)は
誰にでもあるから、同じだよ」
と言い、慰める場合がある。
しかし、悪気は全くなくても、
メンタルを病む人は、
そういう一言で非常に傷つくこともある。

今回の話は、
精神科の病気は、普通の人の悩みとは
量的にも質的にもかなり違うということ。
「多かれ少なかれ、
誰でもそう感じることがあるから、
同じだ」と発言することで、
メンタルを病む人を傷つけないようにしよう
というのが話の目的だ。
早稲田メンタルクリニック院長・益田先生の
ユーチューブトークを参考にして、お話したい。

鬱っぽくなることや、妄想することは、
誰にでも普通にあることだ。
しかし、精神科の病気を持つ人は、
鬱っぽくなる程度や頻度、
妄想する内容やそれによる影響が、
精神的健常者のものとは全く違う。
そのような現象(症状)は、
量的にも質的にも比べ物にならない。

健常者の場合には、一時的な現象で、
暫くすれば、元の状態に戻る。
しかし、メンタル疾患の域まで来れば、
一時的現象では終わらない。
現象(症状)の程度も酷いし、
しかも頻繁に起きる。
量の多さが質の違いにまで発展して、
そのせいで日常生活が困難になる。
だから、「同じだ」とは言えない。

益田先生は、
量的違いが質的違いとなる現象を
分かりやすい例えで説明されている。
例えば、「椅子」と「机」の違いだ。
両方とも、平たい板と4つ足でできている。
しかし、椅子の場合には、小さな板があれば十分。
机となれば、椅子よりもずっと大きな板が必要だ。
原材料は同じであっても、
少ない量で作られるのが椅子。
もっと沢山の量が必要なのが机だ。

椅子は座る時に使うもの。
机は勉強したり、仕事をしたりする時、
役立つものだ。
椅子の果たす機能と、机の機能とは
全く違うものがある。
同じ材料で作られたものでも、
出来上がれば、別の用途に使用される。
量的なものが違えば、
質的なものも違ってくるというのが
この例えが説明するところだ。

残念ながら、メンタル疾患は
精神的健常者には理解されにくい。
自分がそういう状態にならなければ、
実際にどんなものだか理解できないからだ。
また、歴史的に見ても、
「メンタル疾患はタブーである」という風潮が
未だに根強く残っている。
そのため、多くの人は
メンタル疾患を否認したい気持ちがある。

精神的健常者が
「誰でも鬱っぽくなる時があるのだから、
同じだよ」と言う時、
「メンタル疾患に罹ることは、
良くないことだ」という思いがある。
「君はそういう良くない状態ではないから」
と言い、病気を否定することで、
相手を慰めようとしている。

どちらかと言えば、善意であり、
悪気など全くないのに、
こういう発言をされれば、
メンタル疾患で苦しむ人は、
とてもツラくなってしまう。
病気ではないのに、
自分が普通に生活できないのは、
自分に非があるから、自分が悪いから、
と考えてしまうのだ。

不快な症状に苦しみ、
一般的に皆ができることを
自分ができないのなら、
「病気であれば、仕方ない」と思える。
しかし、「病気でなければ、皆ができて、
なぜ、自分にはできないのか?」と悩み、
できない自分を責めて、
余計苦しくなることもある。
メンタルを病む人は、
自責の念が強い傾向にあり、
健常者の悪気のない一言で、
嫌な気持ちになることもしばしばある。

メンタル疾患は病気だ。
本人が怠けているのではなく、
気合が入っていないのでもない。
性格が変だということでもなく、
能力がないわけでもない。
脳内では精神的健常者には見られない
異常が起きていて、
そのために、不快な症状が強くて、
一般的には普通にできることが
できなくなってしまう。
本人が努力すれば、
普通の生活が可能になると励ますのは、
NG行為だ。

メンタル疾患により引き起こる
様々な人間の特徴や特性を、
病気として捉えるのではなく、
「多種多様な性質」として扱おう、
と主張する人たちもいる。
確かに、これは一理ある。
病気のせいで、社会生活において、
特別大きな支障をきたしていないのなら、
「あなたは病気です」と
病人扱いするのは、望ましくないからだ。

ただ、すべての人に
これが当てはまるかと言えば、そうでもない。
病気の症状により、
本人が非常に苦しんでいて、
普通の生活もままならないのなら、
やはり、病気であり、
病人として接してあげたほうが
本人もラクになれる。

本当は病気なのに、
周囲に自分の病気を理解されないことは、
かなりツライことだ。
病気だから特別扱いして欲しいというのではない。
病気のために、できないこともあることを
身近な人に分かって貰いたいだけだ。
周りの理解が得られれば、
メンタルを病む人にとっては、
大きな救いになるからだ。

メンタル疾患はれっきとした病気だ。
弱い人、劣った人がなるのではなく、
誰でも罹り得る病気だ。
自分が実際に病気に罹らなければ、
どんなことだか想像するのは難しい。

今、病気の症状で苦しんでいる人に対して、
病気を否定するような励ましをするよりも、
相手のそのままの状態を受け入れて、
普通に接してあげることが
一番良いのではないか?と私は考える。

益田先生、役立つトークを
有難うございました。

参考動画:「みんなも悩んでいる。同じだよ」のアドバイスは適切か?/ What is appropriate advice?
(ユーチューブ 精神科医がこころの病気を解説するCh
早稲田メンタルクリニック院長・益田先生)