つらいときこそ自分に優しく:セルフコンパッションで心を癒す方法

自責の念が強い人は
「なんて自分はダメなんだ!」
「自分は情けない!」と
自分を追いつめて
苦しくなることもあるでしょう。

そんな人こそ必要なのは、
自分自身に対する「優しさ」です。

この記事では
「セルフコンパッション」により、
自分を責めがちな傾向を和らげ、
心の安らぎとレジリエンス(回復力)を
高めるセルフケアについて
お話しします。

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セルフコンパッションとは?

セルフコンパッションとは、
直訳すると「自分への慈しみ」
という意味です。

ミスをしたり、
失敗や困難に直面したときに、
自分を責めるのではなく、
温かく理解を持って
自分自身に接することを指します。

落ち込んでいる自分に対して、
まるで親しい友人を励ますように、
思いやりと優しさを
向けてあげる姿勢です。

これは、
自分の欠点や弱さを否定したり
見て見ぬふりを
することではありません。

そうした不完全さをも含めて、
自分という存在を受け入れ、
そっといたわる心の在り方なのです。

この考え方を提唱したのは、
アメリカの教育心理学者
クリスティン・ネフ博士です。

その後、
世界中で多くの研究が行われ、
セルフコンパッションの効果が
次々と実証されてきました。

たとえば、
セルフコンパッションの高い人は
自己評価が安定しており、
他人と自分を比べて
落ち込むこともあまりなく、
反芻思考によって
自分を責めるようなことも
少ない傾向があります。

その結果、
不安や落ち込みが少なく、
幸福感が高いことが
明らかになっています。

つまり、自分自身を
優しく受け止められる人ほど、
心の健康も保たれやすい
ということなのです。

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セルフコンパッションを支える3つの要素

セルフコンパッションは、
3つの柱で成り立っています。

一つ目は
「マインドフルネス」です。

これは、今この瞬間の
自分の感情や思考を
「良い」「悪い」と判断せずに、
そのまま受けとめる姿勢のことです。

たとえば、
誰かの言葉に腹が立ったとき、
「また怒ってしまった」
と自分を責めるのではなく、
「ああ、今、自分は怒っているんだな」
と気づいてあげることです。

感情を否定せず、
「今、ここでこの気持ちを感じている」
と認識するだけでよいのです。

大切な人との別れで
心が沈んでいるときも、
「早く立ち直らなきゃ」と焦るのではなく、
「今は悲しい気持ちがあるんだね」と、
静かに受け入れてあげること。

それがマインドフルネスです。

二つ目の要素は
「共通の人間性」です。

人は誰しも不完全で、
間違えることもあれば、
つらい思いをすることも
あるものです。

この「共通の人間性」
に目を向けることで、
「こんなふうに感じるのは
自分だけじゃない」
「人間なら誰にでもあることだ」
と受けとめやすくなるでしょう。

たとえば、
仕事で失敗して落ち込んだとき、
「自分だけがダメなんだ」
と感じてしまうと、
心はどんどん苦しくなります。

でも、「失敗は誰にでもある。
私だけが特別にダメなわけじゃない」
と思い直せたなら、
心が軽くなるでしょう。

自分の苦しみを
「人として自然な体験」と認識することは、
自分を責めず、
理解と優しさを育むための
大切な土台になるのです。

三つ目の要素は
「自分への優しさ(自分を思いやる心)」です。

つらいときや失敗したとき、
私たちはつい自分に厳しくなりがちです。

「なんて情けないんだろう」
「自分なんてダメだ」
と責めてしまうこともあるでしょう。

けれど、そんなときこそ、
親しい友達が落ち込んでいるときに
かけるような言葉を、
自分にも向けてみてください。

「今は苦しいけど、よく頑張っているよ。
無理せず、自分のペースで進めばいい」と、
自分に優しく語りかけてあげるのです。

友達に向ける思いやりを、
自分にも注ぐこと。

それが心を支え、
立ち直る力を与えてくれるのです。

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セルフコンパッションが必要なわけ

今の時代を生きる私たちは、
仕事や人間関係のプレッシャーに
常にさらされ、SNSでは
他人の生活と自分を比べて
苦しくなることもあるでしょう。

その結果、
気づかないうちに心が疲れ、
息苦しさを感じながら
毎日を過ごしている人も
少なくありません。

悩みを打ち明けられる相手が
身近にいないため、
「誰にも相談できない」と感じて、
一人で抱え込んでしまい
苦しみが増してしまうことも
あるかもしれません。

そんなとき、
自分の心を支えてくれるのが
セルフコンパッションです。

セルフコンパッションを身につけると、
胸の奥に溜め込んでいた
痛みやストレスを、
自分の力で受け止められるように
なるでしょう。

たとえば、落ち込んでいるときに
「しっかりしなきゃ」「こんなんじゃダメだ」
と自分を責めるのではなく、
「それだけつらかったんだね」
「今は苦しいよね」
「落ち込んでもいいんだよ」と、
やさしい言葉をかけてあげるのです。

自分を慰めるなんて
変に感じるかもしれませんが、
それは心にできた小さな傷に、
そっと絆創膏を貼ってあげるような行為です。

このように
自分をいたわる練習を重ねていくうちに、
少しずつ「自分で自分を支える力」が
育っていくのです。

セルフコンパッションは、
自分への思いやりを深めるだけでなく、
心の回復力を高め、
日々の困難に向き合うための
エネルギーを与えてくれるものです。

特に、自分を責めやすい人や、
完璧を求めすぎて苦しくなる人にとって、
セルフコンパッションは
大きな助けになるでしょう。

自分を否定せず、
弱っている自分にもやさしく寄り添うこと。

それが、健やかな心を保つための
何よりのセルフケアになるからです。

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セルフコンパッションの効果

セルフコンパッションを
日々の中で意識して実践すると、
私たちの心にはどのような変化が
生まれるのでしょうか?

これまでの研究や臨床の報告から、
さまざまな効果が確認されています。

まず挙げられるのは、
「自己肯定感の向上」です。

自分に思いやりを向ける
習慣が身につくと、失敗しても
必要以上に
自分を責めることがなくなります。

完璧でない自分を
受け入れられるようになり、
「これでいい」と思える
心のゆとりが生まれるのです。

その結果、欠点があっても
「自分にはちゃんと価値がある」
と感じられるようになるでしょう。

次に、「感情の回復力(レジリエンス)」
の向上が挙げられます。

セルフコンパッションを実践する人は、
自分を責める代わりに
気持ちの整理が上手になります。

学生を対象にしたある研究では、
セルフコンパッションを
身につけたグループのほうが、
ネガティブな出来事から
早く立ち直れた
という結果が報告されています。

これは、つらい状況に直面しても
必要以上に落ち込まず、
感情を立て直せる力が
高まることを示しているのでしょう。

また、ストレスや不安の軽減、
幸福感の向上にも
効果があることがわかっています。

自分に厳しすぎる態度を
やわらげることで、心に余裕が生まれ、
慢性的なストレスや不安も
和らいでいくのでしょう。

研究では、
セルフコンパッションが高い人ほど、
不安や抑うつの傾向が低く、
主観的な幸福感が高いことが
明らかになっています。

自分を優しく扱うことで、
気持ちが前向きになり、
日々の中でも落ち着いた心を
保ちやすくなるのでしょう。

さらに、人間関係の改善にも
良い影響を与えます。

自分に厳しい人は、
知らず知らずのうちに
他人にも厳しくなりがちです。

反対に、
自分に優しくできるようになると、
相手に対しても
自然と寛容な気持ちが芽生えるものです。

セルフコンパッションが高い人は、
人間関係でトラブルが起きても、
自分や相手を過度に責めることがなく、
冷静に対処することができます。

そのため、関係の修復にも
前向きに取り組めるようになり、
周囲とのつながりも
より穏やかで温かいものに
なっていくのでしょう。

このようにセルフコンパッションは、
自分の心を健やかに保つだけでなく、
人との関係にも良い影響を
広げていく力を持っています。

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今日からできるセルフコンパッションのエクササイズ

セルフコンパッションは、
特別な訓練が
必要なものではありません。

日々の中で、ほんの少し意識して
練習を重ねていくことで、
徐々に育てていくことができます。

ここでは、今日から気軽に試せる
いくつかの方法をご紹介しましょう。

心がつらいとき、
疲れてしまったときに、
ぜひ試してみてください。

まず最初にご紹介したいのは、
「慈悲の瞑想」です。

これは、自分や他の人の幸せを
心の中で静かに願う瞑想法です。

落ち着ける場所で楽な姿勢をとり、
ゆっくりと呼吸しながら、
自分に向かって
「私が幸せでありますように」
と心の中で繰り返してみましょう。

それに慣れてきたら次に、
自分にとって大切な人、
そしてその後、全ての人々に対して
同じように「~が幸せでありますように」
と繰り返し心の中で唱えてゆきます。

途中で雑念が浮かんでも
かまいません。

気づいたら、また優しい言葉に
意識を戻しましょう。

繰り返すうちに、
心の奥に温かさが広がっていくのを
感じられるでしょう。

次におすすめなのは、
「スージング・タッチ」と呼ばれる方法です。

ストレスや不安を感じたとき、
自分の体にやさしく触れることで、
心を落ち着かせる効果があります。

たとえば、
不安で胸がざわつくときには、
両手を胸の上に当ててみてください。

疲れた肩や腕をそっと
さすってあげるのもよいでしょう。

そのとき、「よく頑張っているね」
「つらかったね」と心の中で
自分に語りかけてあげると、
より深い安心感に包まれます。

自分自身を抱きしめるような優しさが
心をほぐしてくれることでしょう。

また、日頃から、自分を励ます言葉を
カードやメモに書き留めておくのも
効果的です。

たとえば「人は誰でも不完全なもの。
完璧じゃなくても大丈夫」
「今のままの自分でいいんだよ」など、
自分が安心できる言葉を選びましょう。

落ち込んだときや、自己否定の気持ちに
押しつぶされそうになったとき、
その言葉を読み返してみてください。

心が少し軽くなり、
前を向きやすくなるでしょう。

どんな言葉が
心に響くかは人それぞれ違います。

自分にとって支えになるフレーズを
見つけておくことがポイントです。

さらに、「自分に手紙を書く」
という方法もあります。

これは「ロールレタリング」
と呼ばれるもので、
想像上の優しい人になりきって、
悩んでいる自分に手紙を書く練習です。

頭の中で、あなたを理解してくれる
友人や尊敬する人を思い浮かべ、
その人の言葉で
自分に語りかけてみましょう。

「あなたの気持ちはよくわかるよ」
「つらかったね。でも、
あなたには乗り越える力があるよ」
といった言葉を綴っていくうちに、
自分の本当の気持ちや、
求めていたことに
気づけるかもしれません。

書き終えた手紙は大切に保管しておき、
心が沈んだときに読み返すと、
再び自分を支える力に
なってくれるでしょう。

これらの方法は、どれも
即効性があるわけではありません。

それでも、続けていくうちに、
少しずつ心の中に変化を
感じられるようになるでしょう。

大切なのは
完璧にやろうと力まないことです。

セルフコンパッションは、
自分をいたわるための時間です。

完璧を求めず、できる範囲でゆっくりと、
自分にやさしく
向き合ってみてください。

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おわりに

この記事では、
セルフコンパッションの
基本的な考え方と、
その実践方法について
お伝えしました。

自分を責めがちな人が、
自分自身にやさしく寄り添うことで、
どれほど大きな癒しを得られ、
心の回復力を高められるのかを
見てきました。

マインドフルネスで
自分の感情をそのまま認めること、
人は誰でも
弱さを抱えていると理解すること、
そして親しい友達に語りかけるように、
自分にやさしい言葉をかけること。

これら三つの要素が、
セルフコンパッションの土台です。

うまくいかないときに
自分を責めるのではなく、
そっと寄り添い、いたわることは
決して甘えではありません。

それは、自分の心を整え、
強くしていくための
大切なプロセスなのです。

自己批判ばかりしてきた人でも、
少しずつセルフコンパッションを
身につけることで、
「ありのままの自分で大丈夫なんだ」
と感じられる安心感や、
困難に立ち向かうしなやかな心を
育むことができるでしょう。

もちろん、長年しみついた
自己否定のクセを
すぐに変えるのは簡単ではありません。

ときには自分の弱さと向き合う中で、
以前のように自己否定の感覚が
戻ってくることもあるでしょう。

それでも大丈夫です。
焦らず、無理のないペースで、
一歩ずつ進めばいいのです。

小さな優しさを自分に向ける練習を
続けていくうちに、
きっと少しずつ変化を感じられるでしょう。

心が苦しいときこそ、
自分に優しくしてあげてください。

あなたがあなた自身にかける、
温かく穏やかな言葉が、
心の中に小さな明かりを
灯してくれるでしょう。