矛盾するメッセージに振り回されないために

日常生活の中で、私たちは時に、
どちらを選んでも
非難されるような
板挟みの状況に
直面することがあります。

このようなジレンマは
「ダブルバインド」と呼ばれます。

この記事では、
「ダブルバインド」の定義や
具体的な例、その背景に潜む原因、
そして、それを
どう乗り越えるかについて
深掘りしてみます。

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ダブルバインドとは?

ダブルバインドとは、
相反する2つのメッセージを
同時に受け取ることで、
受け手が混乱し、
困難を感じる状況を指します。

これらの矛盾するメッセージは
両立せず、どちらを選んでも
どこかで期待を裏切る結果となるため、
受け手はフラストレーションや
心理的ストレスを
抱えることになるのです。

ダブルバインドは言葉だけでなく、
非言語的なコミュニケーションでも
起こりやすく、家族や職場など、
身近な人間関係で
しばしば見られます。

典型的なダブルバインドの例として、
「ある行動を促しつつ、
その行動を取れば批判する」
というパターンが挙げられます。

たとえば、親が「自由に選んでいいよ」
と子どもに言ったにもかかわらず、
子どもが自分の好みで選択した途端に
「どうしてそんな選択をするの?」
と非難する状況です。

こうした矛盾するメッセージは、
受け手を苦しめ、
大きなストレスを
引き起こすことも
少なくありません。

次に、ダブルバインドが
具体的にどのような場面で現れるのか、
いくつかの例を見てみましょう。

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親子関係におけるダブルバインドの例

親子関係の中では、
親が「自分で決めなさい」
と子どもに選択を委ねながらも、
実際に子どもが選んだことに対して
「それは間違っている」
と否定する場面が見られます。

たとえば、進学先を子どもが選ぶ際に、
親が「どこでもいいよ、
あなたの希望にまかせるよ」と言いつつ、
子どもが選んだ学校に対して
「その選択では将来が心配ね」
と反対するケースです。

このような状況では、
子どもは「自分で決める」ことと
「親の期待に応える」ことの間で
板挟みになり、どちらを選んでも
親を満足させられない
と感じるでしょう。

親が「もっと自立しなさい」
と言いながらも、子どもの行動を
細かく管理しようとする場合も
ダブルバインドの典型例です。

親は無意識に
「言わなくても自分の思い通りに
動いてほしい」
と期待しているかもしれませんが、
子どもは親とは別の存在であり、
そのような期待は
現実的ではありません。

このような矛盾したメッセージを受けると、
子どもはどう行動すべきか分からず、
混乱してしまうこともあるのです。

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職場で起きるダブルバインド

職場では、上司が部下に
「自由に創造的な発想をしてほしい」
と求めながら、
実際に部下が提案したアイデアに対して
「それはリスクが高すぎて無理だよ!
もっと現実的な案を出してくれ」
とすぐに却下することがあります。

表向きには「自由に考えろ」
と言うものの、心の中では
「前例にないことは避けたい」
という意識が強いのです。

こうした矛盾した対応を受けると、
部下は「結局、前例に従うしかないのか」
と感じ、創造的な発想をする意欲を
失ってしまうでしょう。

そうなれば、上司は
「この部下はクリエイティブじゃない」
と評価を下げることになり、
部下はますます
どうしたらよいか
わからなくなるのです。

また、上司が
「もっと主体的に動いてほしい」
と言う場面も同様です。

部下が自ら考えて
仕事を進めようとすると、今度は
「どうして私の指示通りにやらないんだ!」
と叱られることがあります。

指示に従おうとすれば
「主体性がない」と言われ、
主体的に動こうとすれば
「指示を無視するのか」
と怒られるのです。

こうした矛盾するメッセージを受けると、
部下は適切な行動がわからなくなり、
職場でのストレスが
増大するでしょう。

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パートナーシップにおけるダブルバインド

ダブルバインドは、
パートナー同士の関係においても
よく見られます。

たとえば、一方のパートナーが
「もっと素直に感情を表現してほしい」
と言うことがあります。

それに応じて、
相手に率直な気持ちを伝えたところ、
「そんなことで怒るなんて、どうかな」とか、
「それでがっかりされても困るんだよ」
といった否定的な反応が
返ってくることもあります。

これも典型的な
ダブルバインドの一例です。

感情を抑えたままでいると
「もっと正直に気持ちを話してよ」
と促され、素直に気持ちを伝えると
その感情を否定されます。

どちらの選択をしても
相手を満足させることが難しく、
どのように振る舞うべきか
混乱しても当然でしょう。

さらに、パートナーが
「もっと一緒に時間を過ごしたい」と言うので、
時間を作って一緒に過ごそうとすると、
「私には自由な時間も必要なの」
と言われることがあります。

相手の希望に応えようと
努力しているのに、
次は「自由な時間を奪わないで」
といったメッセージを
受け取ることになるのです。

こうした状況では、
どちらを選んでも
相手を満足させることができず、
どうすればよいのか
わからなくなってしまいます。

このようなダブルバインドは、
パートナーシップにストレスをもたらし、
関係を難しくする要因となり得ます。

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ダブルバインドはなぜ起きるのか?

ダブルバインドが発生する原因は、
いくつか考えられます。

まず、送り手自身が
自分の矛盾に気づいていない
「無自覚」が
原因であることが多いです。

人間の行動や思考は
必ずしも一貫しているわけではなく、
矛盾に満ちたものです。

そして、無意識のうちに
相反するメッセージを
他者に送ってしまうのです。

この無自覚な矛盾が、
受け手に混乱やストレスを
もたらす原因となります。

また、社会的な規範や
個人の価値観の対立も
ダブルバインドを引き起こす
要因の一つです。

たとえば、個人としては
「自分の個性を尊重したい」と感じていても、
社会的には「集団の和を
乱さないことが重要だ」
という圧力が存在する場合、
これらの価値観が衝突し、
ダブルバインドが生じます。

さらに、力関係が不均衡な関係性、
たとえば上司と部下、親と子、
教師と生徒といった状況では、
優位に立つ側が、
意識的または無意識的に
相手を操作しようとすることもあります。

上司が「自由に選んでいい」と言いながら、
実際には特定の選択を
強く期待している場合などです。

このような状況では、
表面的には
自由があるように見えますが、
隠れた期待に応えなければならない
というプレッシャーが生じ、
受け手は板挟みになってしまいます。

言語的なメッセージと
非言語的なメッセージが一致しない場合も、
ダブルバインドが発生します。

たとえば、言葉では「大丈夫だよ」
と安心させようとしながら、
態度や表情が
不安や否定を示している場合、
受け手は矛盾を感じ取り、
どう対応してよいか
わからなくなるのです。

さらに、
理想と現実がかけ離れている
組織や社会においても、
ダブルバインドは頻繁に見られます。

たとえば、企業が
「ワークライフバランスを大切に」
と掲げながら、実際には
長時間労働が暗黙のうちに
求められる状況などです。

このようなギャップが
大きければ大きいほど、
従業員はダブルバインドに
陥りやすくなります。

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ダブルバインドによる弊害

ダブルバインドがもたらす弊害は、
私たちが想像する以上に深刻で、
さまざまな領域に影響を与えます。

その影響は、
個人の心理的健康から人間関係、
さらには社会全体にまで
広がるリスクがあります。

最も顕著な影響は、
ダブルバインドの受け手が抱える
心理的ストレスと混乱です。

矛盾した2つのメッセージに挟まれ、
どの選択肢も取れない状況に直面すると、
強い不安や無力感が生まれます。

この状態が続くと、自己肯定感が低下し、
最悪の場合、深刻な抑うつ症状や
自己否定的な思考を
抱えるようになります。

長期間にわたって
ダブルバインドを受け続けると、
意思決定が難しくなったり、
人間関係でのトラブルが頻発するようになり、
個人の生活の質を
低下させることにもなりかねません。

さらに、ダブルバインドは
人間関係にも
大きな悪影響を及ぼします。

矛盾したメッセージを発する側と
受け取る側の間で信頼が損なわれ、
お互いの意図や気持ちを
理解することが難しくなるのです。

その結果、
健全なコミュニケーションが途絶え、
関係は徐々に悪化していくでしょう。

この影響は、
親しい個人的な関係だけでなく、
職場の人間関係にも波及し、
社会的つながりに
悪影響を与える可能性もあるのです。

職場環境においては、
ダブルバインドが
従業員のモチベーションを低下させ、
生産性の大幅な低下を
招くこともあります。

これにより、
組織全体の雰囲気が悪化し、
チームワークや創造性が
阻害されることもあるでしょう。

家庭内で
ダブルバインドが発生した場合、
家族の絆が弱まり、
愛情や信頼が
失われてしまう危険性もあります。

このように、
ダブルバインドの弊害は
個人の心の健康から始まり、
人間関係や社会の健全性にまで
広がる危険があるのです。

そのため、
ダブルバインドの存在に気づき、
それを解消するための取り組みが、
個人レベルでも組織レベルでも
非常に重要です。

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ダブルバインドを防ぐためにできること

ダブルバインドは、関係を複雑にし、
信頼を損なう厄介な問題です。

しかし、
これを防ぐための方法はあります。

メッセージを送る側と
受け取る側の両者が、
それぞれ気をつけるべきポイント
について考えてみましょう。

まず、メッセージを送る側が
心がけるべきこととして、
一番大切なのは
「言葉と行動を一致させること」です。

たとえば、
「好きにしていいよ」と言いつつ、
心の中で特定の行動を期待していると、
相手に矛盾を感じさせてしまいます。

自分の言動に矛盾がないか、
振り返る習慣を持つことも大切です。

日記などを活用して、
自分の行動や言葉を見直すのも
効果的でしょう。

また、相手の立場に立って、
自分のメッセージが
どのように受け取られるかを
想像することも有効です。

もし自分の発言に
矛盾があったと気づいた場合には、
率直に認め、
誤解を解くための説明や
謝罪をすることで、
信頼関係を強化できるでしょう。

次に、メッセージを
受け取る側が注意すべき点です。

相手の言動に矛盾を感じたら、
まずは冷静に状況を分析し、
感情に流されないように
気をつけましょう。

矛盾を感じた場合には、
それを丁寧に伝えることが
大切です。

たとえば、「今おっしゃったことと
前に言われたことが
少し違うように感じます。
もう少し詳しく説明してもらえますか?」と、
柔らかい表現で確認するとよいでしょう。

さらに、自分の考えや感情を
明確に伝える練習をすることで、
ダブルバインドに
巻き込まれるリスクを
減らすことができます。

相手のメッセージを正しく理解し、
誤解を解消するための
コミュニケーションを
積極的に取る姿勢も重要です。

「このやり取りで、
私はこう感じましたが、
あなたの本当の意図は
何だったのでしょうか?」といった形で、
相手と話し合いながら
お互いの意図を
確認し合いましょう。

これらの努力は単に
コミュニケーションのスキルを
向上させるだけでなく、
互いにより深く理解し合い、
信頼に満ちた人間関係を
築くための重要なステップです。

最初は
難しく感じるかもしれませんが、
少しずつ実践を重ねることで、
健全で幸せな関係が
築けるようになるでしょう。

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まとめ

この記事では、
矛盾する2つのメッセージが生み出す
困惑や混乱「ダブルバインド」について
お話ししました。

ダブルバインドは、
親子関係、上司と部下、
パートナーや友人など、
親密な関係で起こりやすい現象です。

ダブルバインドは誰もが
日常的に経験し得るもので、
その影響は深刻です。

長期にわたると、
心理的ストレスや
対人関係の崩壊に
つながることもあるでしょう。

そのため、他人に
矛盾したメッセージを送らないよう
心がけると同時に、
自分がそのようなメッセージを
受けた場合も、その狭間に
陥らないよう注意することが重要です。

この記事では、
メッセージを送る側と受ける側が
それぞれ気をつけるべきポイントも
解説しました。

ダブルバインドは、日常に潜む
見えない罠のようなものですが、
これを認識し、対処法を学ぶことで、
より健全なコミュニケーションと
人間関係を築くことが可能です。

自己理解と他者理解を深め、
オープンで誠実なコミュニケーションを
心がけることこそが、
ダブルバインドを乗り越える
鍵となるでしょう。