「ここまでやったんだからもったいない」がさらなる損失へ?

ここまで一生懸命やったのだから、
ここでやめてしまうのは
もったいない
と思ったことはありませんか? 

実は、そんなときこそ、
それまで続けてきたことを
さらに続けることで、
かえって損失が大きくなることも
少なくないのです。

この記事では、
うまく行かないときに、
このまま続けるべきかどうか
迷ったときの判断のヒントを
お伝えします。

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超音速機の夢が教えてくれた教訓

「コンコルド効果」という言葉を
ご存じでしょうか?

これは、1970年代から
2000年代にかけて運航された
超音速旅客機「コンコルド」にちなんで
名付けられた心理現象です。

コンコルドは
英仏共同で開発された画期的な航空機で、
一般的な旅客機の
およそ2倍の速度で飛行できる、
技術的に革新的な機体でした。

しかし、
開発段階から、多くの問題が
明らかになっていました。

燃費がきわめて悪く、騒音の問題もあり、
商業的な成功は見込みにくいことが
早い段階で分かっていたのです。

それにもかかわらず、
英仏両政府は
計画を中止できませんでした。

すでに
巨額の予算を投じていたことに加え、
両国間の条約によって中止が難しかったこと、
さらには国家的威信といった
政治的要因が大きく影響していたからです。

開発費は当時の金額で
およそ15〜21億ポンド
(1970年代、約30億ドル相当)に達し、
インフレ調整後には
数百億ドル規模に相当するとされています。

こうした事情から、最終的に
コンコルドはわずか20機しか製造されず、
2003年に全機が退役しました。

この経緯から、「コンコルド効果」とは、
損失が生じていると分かっていても、
それまでに投じた時間や費用を惜しんで
プロジェクトや投資をやめられない
心理現象を指すようになりました。

これは、合理的な判断を妨げる
代表的な認知バイアスの一つ
とされています。

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パチンコに見るコンコルド効果

コンコルド効果は、
大企業や政府だけの問題ではありません。

私たちの日常生活にも
数多く見られます。
その典型例のひとつがパチンコです。

パチンコにおけるコンコルド効果とは、
それまでに投じたお金を
無駄にしたくないという気持ちから、
負けを取り戻そうとして
さらにお金をつぎ込んでしまう
心理現象を指します。

本来なら、続ければ
損失が膨らむと分かっているはずなのに、
「これだけ負けたのだから
次は勝てるかもしれない」
「ここでやめたら
今までのお金が全部無駄になる」
と考えてしまい、
冷静な判断ができなくなるのです。

頭では、過去の勝ち負けが
次の結果に影響しないと
理解しているはずです。

それでも、費やした額が大きいほど
「やめられない」気持ちが強くなり、
結果として損失がさらに膨らむことも
少なくありません。

まさにこれが、コンコルド効果が
人に不合理な行動を取らせてしまう
典型的なパターンなのです。

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人間関係におけるコンコルド効果

コンコルド効果は、人間関係にも
深刻な影響を及ぼします。

友人や恋人との関係が
うまくいっていないと感じても、
「せっかく築いた関係を
手放すのはもったいない」という思いから、
なかなか見直せないことがあります。

すでに我慢や苦しさが
積み重なっているのに、
「これまでの努力が無駄になる」
と考えてしまい、
関係を続ける道を選んでしまうのです。

しかし、そのようにして
関係を維持し続けても、
状況が改善するとは限りません。

むしろ不満やストレスが増し、
お互いにとって
深い傷になることさえあるでしょう。

本来なら
「これからどうするのが最善か」
という視点で判断すべきところを、
「これまでに費やした時間や感情」
にとらわれてしまう──
これこそがコンコルド効果の特徴です。

たとえば、
5年間交際を続けている恋人同士が、
価値観の違いや性格の不一致から
頻繁に口論するようになったとします。

二人にとって
幸せではないことが明らかなのに、
「5年間を無駄にしたくない」
「周囲にも交際を公言しているし」
といった理由で
別れる決断ができません。

その結果、さらに数年を消耗し、
最終的には互いを傷つけ合いながら
別れてしまうケースもあるのです。

結婚生活でも
似たような現象が見られます。

夫婦関係が修復できないほど
悪化しているにもかかわらず、
「結婚式にかけたお金がもったいない」
「これまでの結婚生活を無駄にしたくない」
という思いから離婚に踏み切れず、
不幸な状態を長く続けてしまうのです。

冷静に考えれば、これもやはり
不合理な決断と言えるでしょう。

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職業人生におけるコンコルド効果

職業の選択やキャリア形成においても、
コンコルド効果は大きな影響を及ぼします。

たとえば、大学で法学を学んだ人が
卒業後に法律事務所へ就職したとします。

ところが、実際に働いてみると
自分には法律業務の適性がない
と気づくことがあります。

それでも
「4年間も法学を学んできたのだから」
「司法試験の勉強もしてきたのだから」
という理由から、不向きな仕事を
無理に続けてしまうケースは
少なくありません。

「ここまで積み重ねた経験を
無駄にしたくない」
「一からやり直すのはもったいない」
という気持ちが強く働き、結局は
適性のない分野に
とどまり続けてしまうのです。

その結果、本来なら
自分の力を発揮できたかもしれない
別の分野での機会を逃し、
職業人生全体が
満足できないものになる可能性もあるでしょう。

実際、30代や40代になってから
「本当にやりたかったこと」
に気づく人もいます。

しかし、それまでに築いたキャリアを
手放すことへの抵抗感から、
新しい挑戦に踏み出せず、
現状に甘んじてしまう場合も多いのです。

これこそが、職業人生における
コンコルド効果の典型例といえるでしょう。

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コンコルド効果から抜け出すための処方箋

では、どうすれば
コンコルド効果から抜け出し、
より合理的に
判断できるようになるのでしょうか?

ここでは、具体的な考え方を
ご紹介しましょう。

ゼロベース思考

まず大切なのは、
「ゼロベース思考」を身につけることです。

ゼロベース思考とは、
これまでに投じたお金や時間を
一切考慮せず、
今この瞬間から判断するならどうするかを
基準に考える方法です。

たとえば、長く付き合っている恋人と
頻繁に衝突しているとき、「もし今
初めてこの人と出会ったとしたら、
交際を始めたいと思うだろうか」
と自問してみます。

職業人生でも同じです。
「もし今ゼロから
キャリアを選び直せるとしたら、
この仕事をもう一度選ぶだろうか」
と問いかけてみるのです。

答えが「いいえ」であれば、
これまでの年月に縛られるのではなく、
新しい道を検討する勇気も必要でしょう。

最初は過去を切り離して考えることに
抵抗を感じるかもしれません。

しかし、
この考え方を意識することで、
冷静な判断がしやすくなるでしょう。

機会費用を意識する習慣

次に意識したいのが
「機会費用」です。

機会費用とは、
ある選択をしたことで失われる
「他の選択肢から得られたはずの利益」
のことを指します。

たとえば、成果が出ない習い事を
惰性で続けていると、
その時間に本来学べた新しいスキルや、
家族と過ごせた貴重な時間、
副業で得られた収入といった機会を
逃しているかもしれません。

不向きな仕事に
しがみついている場合も同じです。

本来なら適性のある分野で
挑戦して得られたはずのキャリアの充実感や
成長の機会を失っている可能性があるでしょう。

「現状維持だから安心」
という考えは錯覚です。

そこには常に機会費用という形の
目に見えないコストが存在します。

この視点を持つことで、
変化に踏み出すための
強い後押しになるでしょう。

損切りルールの設定

最後にお勧めしたいのは、
「損切りルール」を
あらかじめ決めておくことです。

投資の世界では
常識的な考え方ですが、
日常生活や人間関係にも
応用できるでしょう。

たとえば、新しい事業を始めるときに
「半年以内に
一定の売上を達成できなければ撤退する」
「1年間で顧客が
100人集まらなければ方向転換する」
といった基準を設定しておきます。

恋愛関係でも
「半年以内に改善の兆しが見えなければ
別れを考える」といったルールを作ることで、
感情に流されて
ズルズル続けてしまうのを防げるでしょう。

重要なのは、こうした基準を
感情に左右されにくい
冷静な段階で決めておくことです。

そして一度決めたルールは
例外なく守るという強い意志を持つことが、
損失の拡大を防ぐ大切な鍵になります。

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「続けられなかった=失敗」ではない!

コンコルド効果から抜け出すためには、
私たちが持つ「失敗」や「撤退」に対する
考え方を見直したほうがよいでしょう。

多くの人は
「途中で諦めること=恥ずかしいこと」
「続けられなかった=失敗」
といったイメージを強く抱いています。

しかし実際には、
早めに見切りをつけることこそが
未来の損失を最小限に抑え、
次の可能性を広げる
賢明な判断である場合も少なくありません。

シリコンバレーの起業家たちが
よく口にする「Fail Fast(早く失敗せよ)」
という言葉は、この考え方を象徴しています。

ここでいう「失敗せよ」とは、
むやみに失敗を
繰り返すことではありません。

大切なのは、
上手くいかないと気づいたときに
素早く認め、方向転換することです。

失敗に気づくのが遅れるほど、
失われる資源は大きくなるからです。

早く気づき修正できれば、
それだけ早く新しい挑戦に取りかかれ、
大きな成功へとつながる可能性も
高まるでしょう。

さらに、過去の投資を
「無駄」と見るのではなく、
「学習コスト」と捉える視点も欠かせません。

うまくいかなかった事業や人間関係、
仕事の選択であっても、
それは決して無意味ではありません。

そこで得られた経験や教訓は、
次により良い選択をするための
確かな土台になるからです。

たとえば、人間関係の失敗が
「自分に合う相手を見極める目」を養い、
キャリアの選択ミスが
「自分に本当に向いている分野」を知る
きっかけになることもあるでしょう。

このように、
撤退や失敗を「終わり」ではなく
「未来への投資」として
捉え直せるようになると、
コンコルド効果に陥ることなく、
柔軟に軌道修正する力が
身についていくでしょう。

そして、その積み重ねこそが
長期的な成功への道を
切り開いていくのです。

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おわりに

この記事では、
コンコルド効果という心理現象を通じて、
私たちが過去の投資や努力に
縛られてしまう危うさ、
そしてそこから抜け出すためのヒントを
お伝えしました。

人は誰しも
「今までの努力を
無駄にしたくない」
という思いにとらわれがちです。

しかし、その感情に支配されると、
かえって損失が膨らみ、
未来の可能性を
狭めてしまうこともあるでしょう。

大切なのは、
物事がうまくいかないときに
「これまでどうしてきたか」ではなく、
「これからどうするのが最善か」
という視点に切り替えることです。

そのための方法として、
過去を切り離して
今の時点から判断する「ゼロベース思考」、
現状維持にも隠れたコストがある
と理解する「機会費用」の発想、
そして冷静なうちに
あらかじめ基準を決めておく
「損切りルール」をご紹介しました。

さらに、失敗や撤退を
「終わり」と捉えるのではなく、
次の挑戦のための「学習コスト」
と見なすことの大切さについても
お話ししました。

うまくいっているときには、
その努力を
続けていけばよいでしょう。

しかし、思うような成果が
長い間得られないときには、
過去にしがみつくのではなく、
未来の可能性にも
目を向けてみてください。

そうすることで柔軟に軌道を修正し、
自分にとってより望ましい選択が
できるようになるでしょう。

努力を重ねても
結果が出ないと感じるときこそ、
この視点を思い出し、
継続すべきかどうかを
冷静に見極めることが、
損失を最小限に抑え、
未来の可能性を
大きく広げてくれるでしょう。