ワーストハウス・オン・ベストストリート

友人がマイホームを購入した。新築ではなく、中古の家を買ったのだ。早速、友人のマイホームを見せて貰いに行ってきた。こんなことを言えば大変失礼だが、友人の新しい中古の家はボロ屋だ。同じストリートには立派な家が立ち並ぶのに、友人の家は、周辺の家と比べると、老朽化が目立っていて、何だかみすぼらしかった。

友人曰く「意図して、一番良いストリートで、一番のボロ屋を見つけて買った」と。友人によれば、自分たちでボロ屋をリノベーションして、立派な家にしてから、高値で売りに出すそうだ。

ニュージーランド人はDIYができる人が多い。自宅のガレージがワークショップになっていて、自分たちで色々な物を作ったり、修繕したりしている。日本でいう「日曜大工」といった感じだろうか。子供の頃から、親が自分で作ったり、修理したりするのを見ているせいか、驚くほど、自分で何でも直せるスキルを身につけている。すべてのニュージーランド人がそうではないが、ニュージーランドではDIYは日常的で、自分で色々直してしまう人も多いようだ。そのため、この国では、DIYのためのお店が大繁盛している。

ニュージーランドでは、住む地域は非常に重要だ。貧困層が住む地域、中間層が住む地域、富裕層が住む地域が分かれているからだ。全く同じ間取りの家で、家の状態がほとんど同じであっても、その家が貧困層の地域にあるのか、または、富裕層の地域にあるのかで、家の値段が大きく違う。どんなに立派な広い家でも、貧困層の地域にあれば、高い値段で家を売ることはできない。

逆に、富裕な人々が多く住む地域であれば、どんなにボロ屋であっても、リノベーションすることで、家の価値を大きく上げることが可能だ。一番良いストリートの一番のボロ屋をなるべく安く買う。そして、自分たちでリノベーションして、立派な家に作り変える。安く買って、高く売り、その差額で儲けを出すのだ。このようにすれば、次に家を買うときには、今までよりも、よりリッチなストリートに住むことができる。

リノベーションも業者に頼めば、相当の出費になる。でも、自分でできるなら、DIYショップで部品などを仕入れてきて、あまりお金をかけることなく修繕できたりする。DIYが得意な人は、こういう感じで、一番良いストリートに一番のボロ屋を買う、ということを繰り返しているようだ。そうすることで、次々と住む場所をレベルアップしてゆくのだ。

経済的に恵まれた地域に住むことの大切さには、理由がある。それは、「犯罪の少なさ」と「教育の質」にあるようだ。

私が学生の頃、友人とフラットを借りて住んでいたことがある。貧乏学生だったので、家賃が安い家に住んで、なるべくお金を節約するよう努めていた。しかし、それは、間違いだった。私は、自宅前に駐車した車を壊される被害に2度も遭っている。2回とも窓ガラスを割られたが、一回目には、車内に置いておいたバックも盗まれてしまった。ニュージーランド人のフラットメートによれば、「車の中にバックを残したまま、車を離れるのは非常識だ」とのこと。

私は「ニュージーランドは安全な国」と思い込んでいたので、これにはかなり驚いた。警察に被害届けを出したが、警察も「ああ、またか」という感じだった。貧困層の多い地域では、こんなことは日常茶飯事らしい。

教育の質に関しても、貧困層が多い地域と、富裕な地域では、大分違いがあるようだ。ニュージーランドでは、日本のような受験はない。公立学校は、基本的には学区域があり、住む地域により、行く学校が決まる。私立の学校は、高い授業料を支払えば、地域に関係なく入学できる。唯一入学時に試験があるのは、私立学校の奨学金試験くらいだろう。

富裕層の地域の学校は、公立であっても、かなり教育レベルが高い傾向にある。逆に貧困層の地域の学校では、子供にきちんとした食事を与えられないほど貧しい家庭の子もいて、教育の質もイマイチだそうだ。ニュージーランド国内の統一試験であるNCEAの結果も、学校により大分違う。当然、富裕層の地域の学校は、NCEAで高得点を修める学生が多く、貧困層の地域の学校では、NCEAの合格基準点に満たない生徒もたくさんいる。

そんなわけで、子供たちをできるだけ良い学校に入れたいと願う親は、子供の教育を理由に、富裕層が多く住む地域に引越してくることも珍しくない。 犯罪を避けるため、また、子供を良い学校に入れるために、富裕層の多い地域に住むことは大切である、と考える人はかなりいるようだ。