上司と上手く行かなかったのは、実親との険悪な人間関係に起因していた

大学卒業直後、
私は日系組織に数年間勤めた。
その間3人の上司に仕えたが、
どの上司とも上手く行かず、
仕事面でも私は役立たずの存在だった。
「自分は本当にダメな人間だ」
と情けなくなり、自分責めも沢山して
精神的にもツライ日々を送った。

退職直前には、
「もうこれ以上ここに居れば、
私は病気になってしまうだろう」
と切羽詰まった状態まで来て、
メンタルを酷く病む前に
その仕事から身を引いた。

その当時は、気づかなかった。
「私はこの職場に向かなかった」
と思うだけで、それ以上、追及することはなかった。
しかし、今となればよく分かる。
上司と上手く行かず、揉め事続きだったのは、
本を正せば、実親との険悪な人間関係が原因だった
と理解できる。

私は職場の上司に実父を投影していたため、
上司との関係が悪化していった。
父親との険悪な人間関係を
私は職場の上司を相手に繰り返していたのだ。

人間は、
感じたくない感覚や感情を抑圧して、
普段は感じないようにして生きている。
自己防衛のため、無意識にそうしてしまう。
しかし、自分以外の誰かの中に、
自分が心の中で抑圧しているものを見つけた時、
刺激されて、大反応を起こす。
それにより、相手を攻撃したり、
過度に恐れたりしてしまう。
問題の本当の原因は自分の中にあるのに、
自分の内には意識を向けず、
外に意識を向けて、外の人を攻撃してしまう。

私も自分では気づいていなかったが、
自分の心の奥底に、父親に対する
抑圧された気持ちがずっと隠されていた。
日系組織に就職して、
父親と似た感じの上司に出会った時、
私の中に抑えつけられた感情が
その上司に向けて、攻撃を始めてしまった。

私の父はかなり高圧的な人間で、
親の威厳を利用して、
子供の私に大きな圧力をかけていた。
父は自分の考えをはっきり持っており、
私が父の考えとは違うことを言えば、
怒り狂い、私に暴力を振るうこともしばしばあった。

私にとっては父は非常に怖い存在だった。
大きな身体で力の強い父が
私を殴ったり、蹴ったりした時、
私は本気で「父に殺されてしまう」と思った。
とにかく、私は父が恐ろしかった。
常に父の顔色を伺い、
ビクビクしながら生きてきた。

父の言うことや考え方は
私にはどうもしっくりこなかった。
何かが違うような気がして、
「そうではないよ」と思うことも多々あった。
しかし、そう感じていても、
父の「こうするべき」「こう考えるのが正しい」
ということに逆らえば、
私は身の危険を感じる。
自宅内で「思想コントロール」があるように感じ、
私の心の中の不満は膨らむ一方だった。

自由に意見を言ったり、
自分を表現することを許されず、
常に息苦しさを感じながら生きてきた。
私は父親に対して大きな不満があった。
しかし、父親の言う通りに従わなければ、
父がいつ爆発するか分からない。
立場の弱い子供は、親に見放されたら
自分一人では生きて行けない。
無力感と情けなさでいっぱいだった。

私の中には、父親に対して、
不満な気持ち、やりきれない気持ち、
許せない気持ち、わだかまりが
長い間、ずっとずっとあり、
どうにもできない状態だった。

でも、このツライ感情に向き合うのは
非常に苦しいことだ。
だから、私は無意識に
自分の気持ちを抑えつけていた。
その抑圧された気持ちが
長い間のうちに収まれば問題ない。
でも、いったんは静まったように見えても、
実は消えることはなく、
大人になってからも
ずっと私の心の奥底に眠っていた。

そして、父と雰囲気が似た上司に出会った時、
突然、それが思い出され、
私の心の底から急に噴き出すものがあった。
上司は父とは顔は似ていない。
しかし、父を連想させるような要素が幾つかあった。
上司の「こうするべき」から外れれば、
父のように機嫌が悪くなり、急に怒り出す。
考え方や話す口調も父親に似ていた。

上司である以上、
失礼なことがないよう、
礼儀を持って接しなければいけない。
私は表面上はこう思っていた。
しかし、私の心のどこかでは、
上司に対して怒りの感情がある。
自分では気をつけているつもりでも、
私のネガティブ感情は、
非言語コミュニケーションを通して、
上司に伝わってしまったようだ。

当然、上司も私に好意を抱くわけはない。
信頼関係を築くこともできず、
私と上司との人間関係は
徐々に悪化してゆくだけだった。

仕事で成果を出すためには、
職場での人間関係が良好なことが
大切な条件の一つだ。
上司からサポートを得れず、
私はスムーズに仕事を進められなかった。
きちんと仕事ができなければ、
上司からも非難される。
そうなれば、余計、自分も上司に対して嫌悪感が強くなる。
「ダメダメ職員」のレッテルを貼られて、
自分も精神的にシンドクなっていった。
毎朝、仕事に行くのが辛くて、
憂鬱な気持ちで出社した日も多かった。

こういう悪い状態にはまり込んでゆけば、
どんどん事態は悪化してゆく。
毎晩、仕事から帰ってくれば、
涙が止まらなかった。
そのうち、私は鬱っぽくなり、
食事も喉を通らなくなり、
これ以上、ここで働けば、
自分は壊れてしまうだろうとさえ思えた。

この時は、自分の内にあることが
原因だったとは想像もしなかった。
でも、実は、上司が悪かったのではなく、
私が父親を連想させる上司に対して、
自分のほうから攻撃をしかけていたのだ。
それにより、人間関係が崩れて、
私は仕事がし辛くなる状況に
自分で自分を追い込んでいた。
そのことには全然気づいていなかった。

「父親と人間関係が悪い人は、
仕事で出世することはない」
ということをどこかで聞いたことがある。
なぜ、そうなのか?分かった気がする。

上司は私の父とは全く別の人間だ。
でも、似たような要素は幾つかある。
父親を連想させる上司の要素に反応して、
私は父親との険悪な人間関係を
上司を相手に繰り返してしまった。

子供の頃の親子関係のわだかまりが、
大人になってから、このように影響するのは、
非常に恐ろしいことだと思う。
でも、このようなことは、私だけでなく、
誰にでも起きうることだ。
人間関係が上手く行かない時、
自分は誰かに心理的投影をしていないか?
疑ってみるのもよいだろう。