誰の声よりも強く聞こえてくる母からの言葉

生きていれば、日々色々なことが起きる。
すべてがスムーズに行き、
多くのことが自分にとって
都合よく動いてくれる時もある。
逆に、何をやってもイマイチで、
一生懸命頑張っても、報われることなく、
フラストレーションが溜まることもある。

努力してもなかなか成果が得られず、
トラブルの多い時、
私の耳に強く聞こえてくるものがある。
それは日本の実母から、昔、言われた言葉だ。
母と私は、9000キロ以上も
離れた場所に住んでいる。
もう20年以上も会っていないし、
電話やスカイプで話すこともめったにない。
それでも未だに母から言われた言葉が
私の中に鮮明に蘇ってくる。

「だから、言ったでしょ。
そんなんじゃダメよ!」、
「あんたは本当に何もできない子ね!」、
「ろくでなし」、「人間失格」、
「どうしょうもないバカ」、
「心が冷たい子」、「そんな恰好みっともない!」
など、例を挙げれば、キリがない。
母から言われたネガティブ言葉が
次から次へと私を襲ってくる。

「嫌だ!嫌だ!嫌だ!
もう母とは無縁の生活をしているのだから、
母から言われた傷つくような言葉を
自分の中で繰り返さなくてもいい!」
いつも、そのように
必死で自分に言い聞かせる。

母からの否定的な言葉を
自分の中から追い出すために、
夫が私に言ってくれた優しい言葉を
思い出すよう努める。
「英語が母国語でないのに、
この国の大学でちゃんと勉強して卒業できた。
今ではこの国の組織できちんと働けている。
当たり前のように思えるけど、
当たり前ではない。
ある意味、スゴイことだよ。
だから、もっと自信を持ってもいいよ」
と私を励まし、元気づけてくれる言葉だ。

そのような励みになる言葉を
自分の中に満たして、
母からの嫌な言葉を消してしまおう
と試みても、なかなか上手く行かない。
なぜなら、母からの声はあまりにも大きすぎて、
ありありと聞こえてくるからだ。
声のトーンや口調、
その言葉を発する時の母の表情までも、
私には鮮明に見える。
母が今、
自分の目の前にいるような感覚にまでなる。

どんなに忘れてしまいたくても、
未だに私の中に根強く残る母からの言葉。
夫を初め、色々な人たちが
私のことを励ましてくれ、
ポジティブな声をかけてくれても、
やはり、誰の声よりも母の言葉は強い。
他の人の言ったことは、隅の方に追いやられて、
母の言葉だけが大きく鳴り響く。

私が痛感することは、
親からの影響は非常に大きいということ。
どんな親でさえ、親は子供にとっては
特別で重要な存在だ。
ネガティブなことでも、
ポジティブなことでも、
親の口から出た言葉は、
その後、子供の中に強く残り、
なかなか消えないものだ。

意識して、忘れようとしても、
あまりにも強力すぎて、
忘れることも難しい。
実際に母が目の前にいなくても、
ゴーストのように
いつまでも私に付きまとい、
時々私に話かけてくる。
特に私がツラくなると、
母はいつも私の傍にやって来きて
いつもの言葉を繰り返し、繰り返し言い、
私を苦しめている。

親から受ける影響は
子供の人生において非常に大きく、
いつまでも残るものだ
としみじみ思った。

私が親から強く望むことは、
たった一つでいいから、
短い言葉でもいいから、
その言葉を聞けば、元気が出て、
勇気が出て、励まされて、
「大丈夫だ」と安心できるような言葉を
受け取ることだ。
人生が厳しい時に、
その言葉を思い出せば、
どうにか逆境を乗り切り、
自分を立て直す力を与えてくれるような
励みになる言葉を貰うことだ。

残念なことに、
私は親からそんな言葉を貰えなかった。

今では私も子供を持ち、親の立場となった。
自分の子供たちに対しては、
ネガティブ言葉を連発して、
自信を失わせることはしたくない。
自分が経験した悲しい思いや、
虚しい思いを、子供たちにはさせたくない。
そういう気持ちは強い。

しかし、子供たちを観察していれば、
親として口出ししたくなることもある。
子供たちがやることを見て、
「それはちょっとね」と否定したくなることもある。
冷静に考えれば、
自分自身も自分の親と同様に、
子供たちに対して、
否定的な言葉を発していることもある。

「これではダメだ!」と反省した。

自分も親として、子供たちに対して、
大きな影響力を持つことを
忘れてはいけない。
子供のことを否定してはいけないと思った。

子供が自分の思い通りにならなくても、
期待通りに動いてくれなくても、
子供のやることを肯定してあげること。
もちろん、犯罪を犯したり、
反道徳的なことをすれば、
注意してもいいだろう。
しかし、そうでなければ、
子供のことを否定しないほうがいい。

子供には子供の人生があり、
子供の人生の課題には、
私が口出ししてはいけない。
その代わり、私は私の人生の課題に
真摯に向き合い、
そちらのほうにフォーカスを当てるべきだ。

私が子供たちにできる最善のことは、
子供たちがどんな状態でも、
ありのままを受け入れて、
肯定してあげることだろう。
子供が辛くて苦しい時でも、
「お母さんは私のことを応援してくれている」
という感覚を子供に与えるからだ。

私もまだまだ未熟な人間。
それができるかどうか分からないが、
「親が子供にもたらす影響は
かなり大きなものだ」と肝に銘じて、
子供を肯定してあげることを
忘れないようにしたい。