子供の教育に関して、両親の考え方が違うことは、いけないことなのか?

子育ての様々な場面で、
お父さんの考え方と、
お母さんの考え方が同じであり、
一貫した教育方針であったほうが望ましい、
と思う人は多いようだ。
両親ともに教育に関する価値観が同じほうが
子供の健全な成長のために役立つという考え方は、
本当に正しいのだろうか?
今回は、このテーマについて、
心理カウンセラー 衛藤信之さんのトークを参考に、
私の経験も交えて、お話したい。

衛藤さんによれば、
両親の考え方が違うほうが教育は上手く行く
ということだ。
その理由は、両親ともに同じ価値観であり、
その価値観が強く固まっていれば、
子供はその価値観しか
学ぶ機会がなくなってしまう。

しかし、現実的には、この世の中は
多種多様な人たちの集まりだ。
色々な考えの人たちがいて、
相反する価値観を持つ人たちがいて、
そんな人たちがお互いを尊重しながら、
仲良く生活していくことが望ましい。
そのためには、
ミニ・コミュニティーである家庭においても
「違う意見があってもいいこと」を
子供に教えたほうがよいからだ。

私の子供たちが小さな頃、
子育ての色々な場面において、
私の意見と夫の意見が
対立することも多かった。
子供のオヤツに何を与えるのか?
学校以外に塾や習い事はどうするのか?
怪我の多いスポーツに
子供たちを参加させるべきなのか?
多くの点で、夫の考えることと、
私の考えることは違っていた。

その当時の私は、
両親の考え方が異なることは、
子供にとっては良くないだろう、
と考えていた。
夫と私が同じ教育方針を持ち、
一貫していたほうが、子供も迷うことがない。
いけないことは「いけない」とはっきり言い、
許可することは「やっていいよ」と
両親が同じように指図しなければ、
子供に示しがつかないと思ったからだ。

夫と意見が対立するたびに、
夫婦で話し合い、妥協案を出したり、
時にはどちらかの意見を取り入れた。
しかし、ある時、どうしてもお互いに
妥協できないことがあった。
高校卒業後、娘が「ギャップイヤーを取りたい」
と言い出した時、私たち夫婦の意見は全く違った。
意見の対立があれば、感情的になりやすい私は、
夫に対して怒りの気持ちが出てきて、
しかめっ面になる。そんな時、
夫は穏やかな態度で、娘にこう言った。

「お母さんは、高校卒業後ではなく、
大学を卒業してからのほうがいいと思っている。
でも、僕はそうは思わないんだ。
高校卒業の年齢にもなれば、
もう小さな子供ではないから、
自分ですべてを決めてもいいと思うよ。
その代わり、自分の決断により出た結果は
自分で責任を取らねばならないけどね」と。

夫は昔から、私たち夫婦の考え方が違っても
全く問題ないという姿勢だ。
どうしても、妥協できない時には、
「お母さんはこう考える。
でも、僕には別の考え方がある」
と子供たちに言っていた。
そして、そういう場合には、
子供自身に決めて貰うこともあった。

今となれば、この姿勢は、悪いどころではなく、
むしろ、良いもだと私も考えるようになった。
なぜなら、一つの考え方や価値観が
絶対的に正しいものではないからだ。
「自分が考えることが常に正しい」
と思うのは、傲慢以外の何物でもない。
また、同じ人間でさえ、
状況により、文脈により、
相反する矛盾した考えを持つこともある。

違った考え方、違った価値観を持つ人たちが、
どうすれば、お互いを傷つけることなく、
一緒に力を合わせながら、
幸せに生きてゆけるのかを
子供たちに教えたほうが賢明だ。
そのための最初のステップが、
自分とは意見が違っても、否定しないこと。
「色々な考え方がある。
でも、それでもいいこと」を子供に教えることだ。

両親ともにたった一つの考え方に
凝り固まっていれば、
子供たちも「これは絶対にこうあるべきだ」
と思い込んでしまう。
小さな子供の頃から、
親のやること、言うことにずっと曝されてきて、
子供の中には徐々に
親と似たような信念が築かれてゆく。
そして、親から正しいと教わったことが
子供の中にも強く根付いてしまう。
そうなれば、「自分の正しい」とは違う人、
「自分の正しい」を受け入れない人に対して、
敵対心を抱き、戦うことにもなりかねない。

自分の信じる一つの価値観だけを
子供に教え込むことは、
多種多様な社会を否定する人間を
作り上げることになる。

子育ての過程で、
親自身が正しいと思うことを
子供に刷り込むことは、
理想的な教育ではないと私には思える。
それよりも、親が様々な考え方に寛容で、
子供と一緒に色々学んでゆく姿勢を見せたほうが、
子供のためにもずっとよいと考える。

親は子供よりも少し先に生まれて、
少し人生経験は長いけれど、
それでも、すべてを知っているわけではない。
常に正しい判断ができるわけでもない。
子供を育てていく中で、
親自身も新しいことに出会い、
失敗を繰り返しながら、色々学んで行くものだ。
子供から教えられることも沢山ある。
子供が親から学ぶと同時に、
親も子供から学ばせて貰っている。

子育てというものは、一方的に
親の方から親の考えや価値観を
教え込むものではない。
それよりも、子供と親が一緒に、
お互いが賢くなるプロセスを踏んでいるのだ。
そのプロセス中に、学びにより、
親の考えが変わることもある。
絶対的に正しい教育の価値観など、
どこにもないというのが
本当のところだろう。

両親の教育に関する考え方を一致させて、
一貫した価値観で子供に接することは、
子育てで重要なことではない。
それよりも、親も色々な経験を通して、
失敗しながらも、悩みながらも、
子供に良かれと思うことを一生懸命やるほうが、
子供にとっては、良いお手本になりそうだ。

衛藤さん、役立つトークを
有難うございました。

参考動画:「両親の考え方が違う方が、教育はうまくいく!?
(ユーチューブ 心理カウンセラー 衛藤信之さん)