過去のツライ出来事を
いつまでも忘れられなくて、ツライ。
そのことを忘れよう、忘れようとしても、
頭にこびりついて、なかなか消えない。
そんな悩みを抱える人はいないだろうか?
脳科学者・中野信子先生によれば、
ツライ出来事を忘れたければ、
そのことを何度も思い出し、
言葉にしてみるとよいそうだ。
一見、「それは逆効果では?」
と思われがちな方法だが、
これは脳科学的には
正しいやり方のようだ。
詳しいことを説明しよう。
中野先生によれば、
人間脳は、基本的には
都合の悪いことは
忘れるようになっているらしい。
ただ、その出来事が強い感情と
結びついている場合は例外で、
なかなか記憶から消しづらい。
人間脳の一つの特徴は、
ある物事を意図して忘れようとすれば、
なかなか忘れることができず、
いつまでも、頭から離れない。
忘れよう、忘れようと
頑張れば頑張るほど、
ツライ記憶は頭にこびりつくものだ。
このことは有名な心理学実験
シロクマの実験でも証明されているし、
多くの人が身を持って経験することだろう。
まずは、人間脳はそのようにできている、
と知ることは、とても大切だ。
失恋して、元カレのことを
絶対に思い出さないようにしよう、
と思ったら、逆に忘れられなくなる。
思い出さないようにしようと
自分に言い聞かせるほど、
そこに注意が向いてしまうのは、
とても自然なことだ。
人間の脳内には記憶の格納庫(倉庫)がある。
そこから記憶を引っ張り出しては、また、しまう。
引っ張り出しては、また、しまう、
の出し入れを繰り返している。
この出し入れのプロセス中に、
特定の記憶に対して、
自分の解釈を変えることができる。
例えば、失恋のケースでは、
最初のうちには
「なぜ、元カレはあんなことをしたのか?
何て酷い人間なんだろう」と
彼を非難する気持ちも強いだろう。
しかし、その後、記憶の倉庫に
出し入れするうちに、
別の意味づけができるようになる。
「今、冷静に考えれば、
「あの人は、そういう性格の人だ。
そんな人を好きになった自分にも
非があるのだろう。
この経験は、私にとっては必要なもの
だったかもしれない」と
違うふうに考えることもできるようになる。
記憶そのものは変わらなくても、
自分にとっての記憶の意味合いが
徐々に変わっていくということだ。
そして、意味を変える作業の中で、
強烈な感情も徐々におさまり、
それと結びついていた記憶も
薄れてゆき、忘れやすくなるのだ。
過去のツライ出来事を
何度も思い出して、言葉にする作業は
出来事に対する自分の解釈を
変えてゆくことに役立つ。
最初のうちには強烈な感情があっても、
記憶の出し入れを繰り返し、
記憶に別のタグづけをするうちに、
感情も徐々におさまってゆく。
同時に、その感情と結びついていた
記憶も消えてゆくものだ。
感情が激しく燃えている時には、
視野も狭くなり、ネガティブな面だけが
拡大され、そこしか見えなくなる。
落ち着いてから、もう一度同じことを
考えれば、少し遠くの位置より、
同じことを眺めることが可能だ。
俯瞰して物事を観られるようになれば、
かなりネガティブに思えることでさえ、
その中には、よい学びもあった、
と気づくことができるのだろう。
何度も思い出し、言葉にする作業は、
主観的なフォーカスから、
客観的なフォーカスに切り替えてくれる
働きもあるのだろう。
ということで、
中野先生のアドバイスは、
「ツライ思い出ほど、
何度も思い出して、
その中から価値を見出そう」ということ。
ツライから早くに忘れてしまおう、
と頑張ることは止めて、
どんどん思い出して、
ツライことに対する意味づけを
積極的に変えていく、ということだ。
中野先生、役立つお話を、有難うございました。
参考動画:「中野信子 – ツライことや嫌なことを忘れるには?脳科学で記憶をコントロール」
(ユーチューブチャンネル 一流びとの思考 Mind of first classより)