子どもが
思い通りに動いてくれず、
「なんでできないの!」と
イライラすることはありませんか?
実は、
子どもの問題行動の多くは
「わざと」ではなく、
能力的に「まだできない」ことが
理由である場合もあります。
この記事では、
子どもの発達段階を理解することで
不要な叱責を減らし、
親子双方にとって
ストレスを軽減するヒントを
お話しします。
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アメリカの心理学者
ロス・W・グリーン博士が提唱した
「ラギングスキル」とは、
いずれ身についていくものの、
今の発達段階では
まだ十分に育っていない能力
を指します。
大人の目には
「これくらい当然できるでしょう」
と思えることでも、
子どもの脳や心の成長の途中では、
うまくできなくて
自然なことがあるのです。
たとえば、
先のことを考えて計画を立てる力や、
湧き上がる感情をコントロールする力、
いくつかのことを同時に考えながら
行動する力などは、
成長の過程にある子どもにとっては
難しいものです。
これらは
「やりたくないからやらない」のではなく、
「やれと言われても今はできない」
力なのです。
それにもかかわらず、
できないことを責められると、
子どもは悔しさや不満を
感じるでしょう。
さらに、その気持ちを
言葉で上手に表現できず、
結果として
癇癪や反抗的な態度という形で
表れてしまうこともあるのです。
そうなると、大人は
さらにイライラして
悪循環に陥ってしまいます。
また、できないことを
責められることが多ければ、
子どもは「自分はダメな人間だ」と
思い込んでしまう危険もあります。
心理学ではラギングスキルが
十分に育っていないために生じる、
その子なりのつまずきを
「未解決問題」と呼びます。
発達の途中にある子どもに
未解決問題があるのは、
当然のことなのです。
たとえば
「宿題が終わっていないのに
ゲームを始めてしまう」という行動も、
計画性や優先順位を考える力、
目の前の誘惑に踏みとどまる力など、
いくつかのラギングスキルが
まだ整っていないために
起きているのかもしれません。
子どもの問題行動を前にしたとき、
「言うことを聞かないから」
「わざとやらないから」
と決めつけるのではなく、
今はその力がまだ
育ちきっていないだけかもしれない
と考えてみてください。
そうすることで、親の心にも
少し余裕が生まれてくるでしょう。
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ここで、脳科学の視点から
このことを見てみましょう。
ラギングスキルや
未解決問題が生じる背景には、
きちんとした理由があります。
計画を立てる力や
物事を筋道立てて考える力、集中力、
感情を落ち着かせる力など、
いわゆる理性をコントロールする
役割を担っているのが「前頭前野」です。
この前頭前野は、
子どものあいだは
まだ十分に育っていません。
幼少期から十代にかけては、
前頭前野と脳のほかの部分をつなぐ
回路も成長の途中にあります。
そのため、状況を冷静に判断し、
理性的に行動するために必要な
脳全体の連携が、
大人ほどスムーズには働かないのです。
前頭前野が未発達ということは、
目の前の誘惑をぐっとこらえたり、
先のことを考えて今を我慢したり、
複数の情報をまとめて
最適な判断を下したりすることが、
構造的に難しい状態にある
ということでもあります。
これは「性格の問題」でも
「努力が足りないから」でもなく、
脳の成長段階による自然な制約です。
そう考えると、
子どもが大人よりも
「できないこと」や
「分かりにくいこと」が多いのは、
ごく当たり前のことだと
理解できるでしょう。
また、脳の発達のペースには
個人差があります。
同じ年齢であっても、
できることが同じとは限りません。
だからこそ、
他の子と比べて評価することは、
あまり意味を持たないのです。
子どもの成長を
見守る立場にある大人には、
その子その子の発達の状態に目を向け、
「今はまだ難しいこと」を
見極めてあげる姿勢が
求められます。
それが、
子どもを理解することにつながり、
親自身の心を穏やかに保つ
助けにもなるでしょう。
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では、どのような
ラギングスキルの不足が、
日々のイライラに
つながっているのでしょうか?
身近によく見られる場面を
思い浮かべながら、
考えてみましょう。
時間の感覚や計画を立てる力が、
まだ十分に育っていない子どもは、
「あとでやる」と口にしながら、
なかなか取りかかれないことがあります。
たとえば、夕方までに
宿題を終えると約束していたのに、
気がついたときには夜になっていて、
ほとんど進んでいなかった、
というような場面です。
こうした様子は、
嘘をついているからでも、
怠けているからでもないことが
少なくありません。
時間の流れを実感する力や、
先を見通して段取りを考える力が
まだ整っていないために
起こることもあるからです。
大人にとっては
「どうして約束を守れないのだろう」
と苛立ちを覚える場面でも、
子ども自身は
「気づいたらこんな時間になっていた」
と戸惑っている場合があるのです。
衝動を抑える力が、
まだ十分に育っていない子どもは、
「してはいけない」と頭では分かっていても、
行動を止められないことがあります。
たとえば、
ゲームは30分までという
決まりがあっても、
夢中になればなるほど、
途中で切り上げることが
むずかしくなるのです。
これは、わざとルールを
破ろうとしているわけでは
ありません。
目の前の楽しさに
意識が強く引き寄せられ、
ブレーキ役となる前頭前野の働きが
追いつかないために
起こっている可能性があります。
大人は「また約束を破った」
と怒ってしまいがちですが、
子どもにとっては、
本当に止めたくても止められなかった、
という場合もあるでしょう。
さらに、
自分の気持ちを言葉にする力が
まだ十分に育っていない子どもは、
心の中で起きていることを
うまく説明できない場合も
少なくありません。
その結果として、
かんしゃくを起こしたり、泣いたり、
怒りを強く表に
出したりすることもあります。
大人の目には
問題行動のように
映るかもしれませんが、実際には、
内側で生まれている感情や考えを整理し、
それを言葉に置き換える力が、
まだ育ちきっていないだけ
ということもあるのです。
このような未発達の力が
いくつも重なり合い、
いわゆる問題行動という形で
表れていることがあります。
そうした背景を知るだけでも、
子どもを見るときの受け止め方は、
少し変わってくるでしょう。
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それから、子どもは
大人とはまったく異なる
思考回路を持っているため、
その特徴を知ることは、
子どもの一見分かりにくい行動を
理解する手がかりになるでしょう。
まず、子どもにとっては、
想像の世界と現実の世界の境目が
まだはっきりしていません。
夢の中で見たことや
頭の中で思い描いた出来事が、
現実と自然につながってしまい、
「本当にあったこと」だと
信じ込むことが多いです。
そのため、
嘘をついているように見えても、
本人は事実を伝えているつもり
である場合も考えられます。
また、子どもは曖昧な状態を
受け止めることが、
あまり得意ではありません。
世界の仕組みを
一つひとつ学んでいる途中だからこそ、
「よいか、よくないか」
「好きか、嫌いか」といった、
はっきりした枠組みで考えるほうが
分かりやすく、安心できるのです。
そのため、
「少しだけ」「場合によっては」といった
条件つきの判断を理解することが難しく、
大人にとっては融通がきかないように
映ることもあるでしょう。
さらに、子どもは
自分に直接関係のない出来事であっても、
「自分のせいだ」と
感じてしまうことがあります。
たとえば、
親が言い争っている場面を見て、
「自分が悪い子だからだ」と思い込んだり、
家族に悲しい出来事が起きたときに、
「自分の行いが原因なのではないか」
と考えてしまったりします。
こうした思いは、
大人が想像する以上に、
子どもの心に重く残るものです。
そして、過去の体験が
強く心に刻まれやすいのも、
子どもの特徴の一つです。
たとえば、病院で
大切な人が亡くなった経験があると、
その出来事が引き金となり、
病院そのものに強い恐怖を
抱くようになることがあります。
大人には
小さな出来事に見えることでも、
子どもにとっては
世界が大きく揺らぐほどの体験に
なることがあるのです。
子どもの不可解な行動の背景には、
こうした子ども特有の思考回路が
影響している場合もある、
ということも
覚えておくとよいでしょう。
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ここまで読み進めていただき、
子どもにはラギングスキルや
未解決問題があるのは自然なこと、
そして子どもならではの
思考回路があることを
ご理解いただけたと思います。
そうした視点を知るだけでも、
これまで問題行動だと感じていたり、
不可解に思っていた言動に対する
受け止め方は、
少し変わってくるかもしれません。
ラギングスキルという考え方を
知ることは、
親にとっても子どもにとっても、
大きな意味を持ちます。
親の側では、イライラや怒りが減り、
心の負担も軽くなっていくでしょう。
「どうしてできないのだろう」
という疑問がほどけ、
「今はまだ難しいだけなのかもしれない」
と受け止められるようになると、
感情的に反応してしまう場面も、
少なくなっていくはずです。
一方で子どもにとっても、
できないことを一方的に
責められる機会が減ることで、
心が傷つく場面も少なくなり、
自分は大切な存在だという感覚を
育てやすくなるでしょう。
もちろん、
子どもが「できない」からといって、
社会のルールを軽んじてよいわけでも、
しつけが不要になるわけでもありません。
そこで次回の記事では、
親が感情に振り回されることなく、
どのように子どもを望ましい方向へ
導いていけばよいのかを、
具体的な場面を交えながら
お伝えしていく予定です。