今回は、健全で良好な人間関係を
維持するために欠かせない
「心理的バウンダリー」
に着目したいと思います。
人間関係における悩みが
多い方へ向けた内容となっています。
その悩みが、心理的バウンダリーを
重んじないことに起因する場合が
少なくないからです。
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心理的バウンダリーとは、
個人と他者を心理的に分ける
境界のことで、
誰もがこれを持っています。
私たちの住む家の敷地と
隣家の敷地が
柵や壁によって明確に分かれており、
勝手に越境することが
許されないのと同じように、
人にも他者が勝手に踏み込むべきではない
心理的な領域があるのです。
この領域は、自分の「課題」
と密接に関わっています。
自分の課題には、
人生の方向性を定めること、
夢や目標を追い求めること、
日々の生活で直面する様々な問題に
対処し解決することなどが含まれます。
個人の心理的バウンダリーを尊重することは、
他人の課題には介入せず、
自分自身の課題に
集中することを意味します。
それにより、
自分が他人の問題に巻き込まれることなく、
また他人から不必要な干渉を受けず、
望ましい状況を実現できるでしょう。
健全で調和のとれた人間関係を
構築するためには、
このような状態が極めて重要なのです。
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かつて、こんな人がいました。
彼は高校時代から
ずっとバンドに打ち込んでおり、
将来は音楽の道に進みたい
という夢を抱いていました。
自分自身の願いがあるにも関わらず、
音楽の道を諦めざるを得なかったのは、
彼の親がそれに反対したからです。
親は息子が安定した職に就き、
将来困らない生活を送ることを
願っていたのです。
音楽で生計を立てることは、
現実にはかなり難しい
と考えられています。
息子は優秀な成績を収め、
一流大学への進学も可能でしたので、
親は息子に自分たちが選んだ大学への進学を望み、
卒業後は国家公務員
としての道を歩むよう導きました。
息子は親の願いを素直に受け入れ、
親が望む大学へ進学し、
その後国家公務員として
働くことになったのです。
これによって、
親は息子が安定した人生を送れる
と信じ、安堵しました。
しかし、この物語が幸せな結末を
迎えたわけではありません。
それから何年も経って、
息子が中年に差し掛かると、
ミッドライフクライシスを経験し、
突如仕事を辞めてしまいました。
外から見れば、この行為は
突然に見えたかもしれませんが、
実際には息子は長年にわたり
心の中で不満を抱えていました。
彼の仕事は心から望んだものではなく、
達成感や充実感を
得ることができなかったのです。
若い頃は親の意向に従い、
親が望む人生を歩んできましたが、
ある時点で、
自分の人生に疑問を持ち始めたのです。
こうして、親子関係は
徐々に悪化してゆきました。
親が「こうすべきだ」「ああするべきだ」
と助言するたびに、
息子は「うるさい!」
と拒否するようになりました。
かつては親の言葉に逆らわなかった息子も、
今では親の助言を
完全に無視するようになったのです。
それは、
親の言葉に耳を傾けることで、
自分の人生が誤った方向に進む
と感じたからでしょう。
残念ながら、その後、
親子の関係は
完全に壊れてしまいました。
息子は親との接触を避け、
連絡もほとんど取らなくなりました。
親は息子のために
最善を尽くしたつもりでしたが、
結果として息子から遠ざかり、
会う機会も
ほとんどなくなってしまったのです。
親の善意の行動が、
かえって問題を生じさせたのでしょう。
その根本的な原因は、
親が息子の心理的バウンダリーを越え、
過剰に干渉してしまったことにある
と考えられます。
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親が子どもに
「国家公務員という選択肢もある」
と助言するのは、
悪いことではないでしょう。
しかし、その道を選ぶかどうかは、
親ではなく、
子ども自身が決めるべきことです。
親が強制的にその道を選ばせたことで、
親が子どもの選択の自由を
奪ってしまったと言えるでしょう。
その結果、
親子関係が破綻してしまった
と考えられます。
人は誰も、自分自身の人生しか
生きることができません。
自分で決断して行動した結果であれば、
どんな結果が出ても、
その責任は自分が負うでしょう。
しかし、他人が
自分の心理的バウンダリーに侵入し、
自分の課題が奪われてしまえば、
悪い結果を受け入れるのは
非常に困難です。
何事も自分に関わることは
自分で決断し、
自分で行動を起こすことが
重要なのです。
そして、
その決断や行動がもたらす結果にも、
どのようなものであれ、
自分で責任を負う姿勢が大切です。
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親密な関係においても、
相手の心理的境界を重んじ、
相手の課題に
介入することは避けるべきです。
特に、親子間や配偶者、
長年の親友といった親密な関係では、
相手の心理的境界が見えにくくなり、
相手の問題を勝手に解決しようとする行為が
発生しやすい傾向にあります。
このような親密な関係ほど、
自分と他者の心理的境界を
意識して区別すること、そして、
自分は自分の問題だけに
集中することが大切です。
親子関係では、
子どもがまだ成長過程にある間は
親が指導を行う必要がありますが、
子どもが成人し、20歳を超えたならば、
いくら子どもがかわいくても、
彼らを独立した個人として
尊重することが求められます。
子どもが選択する職業や
結婚相手については、
子ども自身の課題であり、
親は余計な口出しを控え、
子どもの決定を尊重する姿勢が重要です。
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今回は、誰もが持つ
「心理的バウンダリー」
についてお話ししました。
心理的バウンダリーとは、
個人と他者を
心理的に分ける境界線のことです。
各自の心理的バウンダリーを
尊重することは、
それぞれが他者の課題には干渉せず、
自分の課題に集中することを
意味します。
健全で円滑な人間関係を築くためには、
「心理的バウンダリー」の尊重が
欠かせません。
問題なのは、
関係が深まるにつれて、
相手の心理的バウンダリーの認識が難しくなり、
時にそれを越えてしまうことが
あることです。
特に、親子関係、夫婦関係、
家族関係、親しい関係には
十分注意が必要でしょう。
いかに親密な関係であっても、
どれだけ仲が良いとしても、
相手の心理的バウンダリーを意識し、
相手の課題を奪わないよう
気をつけることが大切です。
自身の問題だけに専念し、
相手も自分の問題に集中することで、
人間関係のトラブルを避け、
健全で良好な関係性を
維持しやすくなるでしょう。
私たち一人ひとりが
心理的バウンダリーを意識し、
その範囲内で自分の問題に
取り組むことが理想なのです。
このような心がけを持つことで、
不要な人間関係の悩みを避け、
自分自身も相手も、
より幸せな日々を
送ることが可能になるでしょう。