職場で意見が食い違うときや、
家族と価値観が合わないとき、
友人との行き違いが起きるときなど、
日々の暮らしには
コミュニケーションに悩む場面が
いくつもあります。
そんなとき、どうすれば
関係を損なわずに
建設的にやり取りできるのでしょうか?
今回は、
よりよい関係を育てるための
「アサーティブコミュニケーション」
についてお伝えします。
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異なる意見や考えを持つ相手と
向き合うとき、
コミュニケーションのスタイルは
大きく3つに分けられます。
まずひとつ目は
「非主張的(Non-assertive)」なスタイルです。
自分の意見や感情を抑え込み、
相手の要求を
優先しがちな傾向があります。
「ノー」と言えず
自分を後回しにする場面が多く、
時間とともに不満やストレスが
積もりやすくなります。
周りからは穏やかに見えても、
内側では我慢が続き、
やがて心がすり減ってしまうのです。
その状態が続くと、
相手と深くつながることが難しくなり、
よりよい関係を育てることも
困難になるでしょう。
次に
「攻撃的(Aggressive)」なスタイルです。
自分の意見や権利だけを
強く押し通し、
相手の気持ちや立場を
置き去りにしてしまう関わり方です。
時には威圧的な態度や言葉で
相手を動かそうとすることも
あるかもしれません。
短期的には
望む結果を得られる場合もありますが、
信頼は損なわれ、
人間関係は崩れていくでしょう。
そして3つ目が
「アサーティブ(Assertive)」なスタイルです。
自分の意見や感情を率直に伝えながら、
相手の考えや気持ちも尊重する、
バランスの取れた姿勢が特徴です。
自分の気持ちを明確に言葉にしつつ、
相手の立場にも丁寧に耳を傾けることで、
対等な関係が生まれ、
双方が納得しやすい答えを
見つけられるようになります。
そのため、人間関係も
我慢したり疲弊したりする場面が減り、
良好な関係へと育っていくのです。
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3つのコミュニケーションスタイルの中で、
理想的なのが
「アサーティブコミュニケーション」です。
この方法を実践していくと、
人生のさまざまな場面で
前向きな変化を
感じるようになるでしょう。
まず実感しやすいのが、
自己肯定感の高まりです。
自分の気持ちや考えを穏やかに、
けれどしっかりと
伝えられるようになることで、
「自分を大切にできている」
という感覚が芽生えるからです。
職場でも、アサーティブな姿勢は
大きな力になるでしょう。
部下には相手を傷つけずに
建設的なフィードバックを
伝えられるようになり、
同僚との意見の違いも
冷静に話し合って解決しやすくなります。
無理な仕事を断わりたいときでも、
伝え方を工夫すれば
信頼関係を損なうことを
避けられるでしょう。
家族との関係でも
効果ははっきり表れます。
夫婦や親子の間では、
考え方や感じ方がずれることも
珍しくありません。
そんなときでも、
不満をため込むのではなく、
落ち着いた対話を通して
気持ちを伝え合えるようになります。
感情的なぶつかり合いを避けつつ、
本当に向き合うべきことに
目を向けられるようになり、
より深い理解とつながりが
生まれていくでしょう。
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アサーティブコミュニケーションを
実践するとき、
効果的なツールのひとつが
DESC法です。
DESCとは、
Describe(状況を客観的に描写する)、
Express(気持ちを表現する)、
Specify(どのようにしてほしいかを提案する)、
Choose(選択する)
の頭文字を組み合わせたものです。
この流れに沿って話すことで、
感情に押されずに、
自分の気持ちを
落ち着いて伝えやすくなるでしょう。
DESC法のよいところは、
事実と感情を
切り分けながら話せる点にあります。
相手を責めたり
評価したりするのではなく、
問題そのものに
目を向けて話し合えるため、
相手も防御的になりにくく、
協力しやすい雰囲気が生まれます。
このプロセスを通して、
お互いに冷静に状況を
見つめ直すことができ、
より建設的な対話へと
つながっていくでしょう。
ここから、DESC法の流れを
詳しく見ていきます。
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DESC法の最初のステップは、
目の前で起きている状況を
そのまま描写することです。
ここで意識したいのは、
相手を評価したり決めつけたりせず、
誰が聞いても
同じように受け取れる
「事実だけ」を伝えることです。
たとえば
「あなたはいつも遅刻する」
と伝えてしまうと、
「いつも」という言葉には
感情や解釈が含まれており、
事実とは言えません。
その言い方では、
相手も「いつもではない」
と反論したくなるでしょう。
より適切なのは、
「今月、約束の時間より
遅れて到着したのは3回ありました」
といったように、
具体的な事実を数字や日時とともに
伝えることです。
また、
描写するときに避けたいのは、
相手の気持ちや意図を
決めつける表現です。
「わざと遅れてきたのだと思う」
「私を軽視しているのでは?」
といった言葉は、
自分の想像であり
事実ではないからです。
事実だけを落ち着いた態度で
丁寧に伝えることで、
相手が自分の行動を
振り返る余白が生まれ、
話にも耳を傾けて
もらいやすくなるでしょう。
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次のステップでは、
その状況に対して
自分がどのように感じているのか、
正直な気持ちを伝えます。
ここで大切なのは、
「私は〜と感じています」というように、
自分を主語にして表現することです。
たとえば「待っている間、
私は大切にされていないのかなと感じて、
悲しい気持ちになりました」というように、
自分の内側で起きている感情を
そのまま言葉にします。
気持ちを伝えるときには、
できるだけ具体的な言葉を選ぶと、
相手にも伝わりやすくなるでしょう。
「悲しい」「不安」「心配」
「戸惑っています」など、
自分の中で動いている感情を
丁寧に拾い上げていくのです。
また「なぜそう感じたのか」
という理由を添えることで、
あなたの気持ちがより明確になり、
相手にも理解してもらいやすくなります。
自分の気持ちを
落ち着いて言葉にしていくことで、
相手にも思いが届きやすくなり、
理解も少しずつ深まっていくでしょう。
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3つ目のステップでは、
状況を改善するために、
具体的な行動を提案します。
ここで意識したいのは、
あいまいな表現ではなく、
「どんな行動をしてもらえると
助かるのか」を
分かりやすく伝えることです。
たとえば
「もっときちんとしてほしい」
という抽象的な言い方ではなく、
「次回、もし遅れそうなときは、
約束の10分前に
連絡をもらえますか」というように、
具体的な行動として伝えると
相手も理解しやすくなるからです。
また、「お願いする」気持ちで伝えると、
相手も受け入れやすくなるものです。
たとえば
「もし遅れそうなときは、
事前に連絡をいただけたら、
こちらとしても助かります」
といった表現です。
提案は
ひとつに限らなくても大丈夫です。
「〇〇でも大丈夫ですし、
△△でも問題ありません」というように
選択肢を示すことで、
相手は自分に合った方法を
選びやすくなるでしょう。
ここでのポイントは、
「こうしてもらえると助かります」
という姿勢で穏やかに
協力をお願いすることです。
そのほうが、相手も前向きに
応じやすくなるでしょう。
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DESC法の最後のステップでは、
自分の提案が
受け入れられた場合と
受け入れられなかった場合、
それぞれの選択肢や結果を伝えます。
先ほどの例でいえば、
「もし約束の10分前に
連絡をいただけたら、
安心して予定を調整できます。
連絡がないときは、
先にこちらの用事を進めておきますね」
というように、
自分がどのように行動するのかを
穏やかに伝えます。
相手が
提案を受け入れたときには、
実際にどう進めていくかを
確認したほうがよいでしょう。
「では、次回から
〇〇ということでよろしいでしょうか」
と合意内容を明確にすることで、
お互いの認識のずれを
防ぎやすくなるからです。
もし相手が
提案を受け入れられない場合は、
その理由を聞き、
別の方法を一緒に考えていきます。
ここで大切なのは、
相手の「ノー」を尊重する姿勢です。
アサーティブコミュニケーションは、
自分の要求を
押し通すためのものではなく、
双方が納得できる形で
解決策を見つけることを目的としています。
相手の事情や制約に理解を示すことで、
より歩み寄りやすくなるでしょう。
また、合意に至らない場合には、
自然に起こりうる結果について
共有することもあります。
「もしこの状況が続くと、
私は〇〇せざるを得なくなります」
というように、自分が選ぶ行動を
静かに伝えるイメージです。
これは脅しではなく、
現実的な選択肢を示すための表現です。
たとえば職場であれば、
「このスケジュールで作業できない場合、
他のプロジェクトの優先順位を
下げることになります」と伝えることで、
相手も状況を具体的に
理解しやすくなります。
そこから、より建設的に話し合う流れが
生まれることもあるでしょう。
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この記事では、
意見の食い違いや
行き違いが生じたときに、
よりよい関係を築くための
「アサーティブコミュニケーション」
についてお伝えしました。
人との対話のスタイルには、
非主張的・攻撃的・アサーティブ
の3つがあり、その中でも
自分も相手も大切にする
アサーティブな関わり方が、
信頼を育てる土台になります。
実践する方法としてご紹介したDESC法は、
次の4つのステップです。
D(Describe):事実を客観的に伝える
E(Express):自分の気持ちや考えを率直に表現する
S(Specify):してほしい行動を具体的に提案する
C(Choose):提案が受け入れられた場合、
受け入れられなかった場合の選択肢を提示する
この流れに沿って対話することで、
感情に振り回されずに
気持ちを伝えられるようになり、
お互いが納得しやすい形で
前に進みやすくなるでしょう。
アサーティブコミュニケーションは、
一朝一夕で身につくものではありません。
特に長く非主張的なスタイルに
慣れてきた人にとっては、
最初の一歩に勇気が必要です。
自分の気持ちを伝えることに
罪悪感を覚えたり、
相手の反応を恐れたりする場面も
あるでしょう。
それでも、自分の感情やニーズは
相手のそれと同じように大切であり、
表現する権利があることを
忘れないでください。
練習を重ねることで、
アサーティブなコミュニケーションは
少しずつ身についていきます。
最初は無理なくできる
小さな場面から始め、慣れてきたら
少しずつハードルを上げると
取り組みやすくなるでしょう。
失敗を恐れず、
試行錯誤を繰り返すことが
上達への鍵です。
また、信頼できる友人や専門家と
一緒に練習するのも有効です。
ロールプレイを通して、
安全な環境で
新しいコミュニケーションスタイルを
試せるでしょう。
人間関係は、
コミュニケーションの仕方で
大きく変わります。
自分を犠牲にせず、
相手を傷つけることもなく、
率直に対話できるようになることで、
より深い信頼関係が育まれていくでしょう。
職場でも家庭でも、
アサーティブなコミュニケーションは
理解を深め、
協力的な関係を支える力になります。
少しずつ、自分のペースで
アサーティブなコミュニケーションを
試してみてください。
あなたの人生は、今よりずっと
豊かで温かなものになっていくでしょう。