この記事では、
「万能感から有能感へシフトすること」
をテーマに、
子どものころに抱いた幻想を手放し、
等身大の自分で
人生を切り開くためのヒントを
探ります。
あらためて
「変えられること」と
「変えられないこと」を見極め、
自分の中にある本当の力を
育てていきましょう。
このプロセスが
自分らしく充実した人生を歩む
手助けになれば幸いです。
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子どものころ、
私たちは「自分は何でもできる」といった
底なしの自信をもつことがあります。
これは心理学で「万能感」と呼ばれ、
誇大的な自己イメージを
抱いている状態です。
幼少期に「自分は万能だ」
という幻想を抱くのは、
ごく自然なことであり、
健康的な成長過程の一部
と言えるでしょう。
しかし、成長するにつれて
さまざまな失敗や挫折を経験し、
「現実とのギャップ」に
直面するようになります。
そして、「自分は万能ではない」
という事実を受け入れることで、
「等身大の自分」を
認められるようになっていきます。
思いどおりにならない現実を知り、
その痛みを通して学ぶこと。
そのプロセスの中で
万能感を手放すことが、
大人としての成熟へと
つながるのです。
万能感を手放すことは、
ある意味、精神的に大人になるための
通過儀礼とも考えられます。
ところが、
多くの心理学者や社会学者が
指摘しているように、
現代の日本では
年齢を重ねても万能感を手放せず、
子どものころの幻想を抱えたまま
生きてしまう人が少なくありません。
では、なぜ「万能感」を
手放したほうがよいのでしょうか?
その理由のひとつに、
「変えられるものと
変えられないものの区別」があります。
万能感を抱えたままだと、
「自分には他者や環境を
コントロールできる力がある」と思い込み、
「思いどおりにならない現実」を
認めることができません。
その結果、イライラしたり、
他人を責めたり、
ストレスを増大させたり
してしまうのです。
こうした状態が続けば、
自分自身を疲弊させるだけでなく、
周囲との人間関係にも
悪影響を及ぼすでしょう。
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万能感の背後には、
「魔術的思考(magical thinking)」と呼ばれる
子ども特有の思考パターンがあります。
たとえば、小さいころに
「私が外に出たら雨がやんだ。
だから私には
雨を止ませる力があるんだ!」
と思い込むことがあります。
こうした考え方は
幼少期によく見られるもので、
微笑ましい例と言えるでしょう。
しかし、
大人になっても同じように
「自分には絶大な力がある」
と信じ込みすぎると、
現実との衝突を招きやすくなります。
「オレは絶対に億万長者になる」
「私はすべての夢を叶えられる」
といった強い信念も、
努力の裏付けがないまま
過度に強調されると、
魔術的思考による万能感
となってしまうのです。
本人は
自信に満ちているかもしれませんが、
それが幻想にすぎなければ、
壁にぶつかった瞬間に絶望したり、
他人や環境を責めたりすることも
少なくありません。
また、逆の方向で
魔術的思考が働くこともあります。
「自分がネガティブに考えたせいで、
悪い現実を引き寄せてしまった」
と不安にとらわれるケースです。
「悪いことを想像してしまったから、
きっと何か良くないことが起こる」
と思い込むのも、
魔術的思考の一種といえます。
実際には、
自分の考えだけでは
変えられないことが多いにもかかわらず、
万能感を手放せないために
「すべては自分のせいだ」
と抱え込みすぎてしまい、
結果として
自らを苦しめてしまうのです。
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私たちが望む人生を
実現しようとするとき、
「コントロールできないこと」に執着しても
成果は得られません。
たとえば、
「過去や他人は変えられない」
という考え方があります。
過去をどれだけ悔やんでも
やり直すことはできませんし、
他人を強引に変えようとしても
限界があります。
変えられるのは
自分と未来だけなのです。
だからこそ、
自分に影響を及ぼせることに
エネルギーを注ぐほうが、
はるかに建設的だと言えるでしょう。
ところが、
万能感を手放せない人は、
「自分の力で
他者をコントロールできる」
という幻想を捨てきれません。
そのため、
相手を責めたり非難したりしながら、
相手を自分の思いどおりに変えよう
とすることがあります。
そして、うまくいかないと
苛立ちを募らせるのです。
これは、
他人を支配しようとする行為に
ほかなりません。
自分では変えられない
他人の領域に踏み込んで空回りし、
自分も相手も傷つけてしまうことは
珍しくありません。
子育ての場面でも、
「子どもをコントロールできる」という
万能幻想に縛られてしまうケースがあります。
子どもの成績や進路に過剰に執着し、
「なんとしても一流大学へ」
「なんとしても結果を出させたい」
と強く願うことで、
親にも子どもにも
大きなストレスが生じるのです。
つまり、万能感を持ったままだと、
「どこまでが自分の影響範囲なのか」
を正しく見極めることができません。
そして、
自分ではどうにもできないことに関与し、
時間やエネルギーを無駄にするだけでなく、
自分自身や周囲を
苦しめることになるのです。
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心理学では、
物事を切り分けて区別する働きを「父性」、
一方で、包み込むように融合する働きを
「母性」と呼ぶことがあります。
「魔術的思考」や「万能感」を手放すためには、
成長の過程で「父性的な力」、
つまり「区別する力」を
身につけることが欠かせません。
自分の影響がおよぶ範囲と
およばない範囲を明確にし、
さらには自分の欲求や気持ちと
他人のそれを区別する。
こうした「境界線を引く力」があってこそ、
幻想を捨てて
現実を直視することが可能になるのです。
しかし、現代の日本社会は
母性的な要素に偏っていると言われ、
父性的な「区別する力」を
育みにくいとも指摘されています。
共感や優しさ、調和が重視される一方で、
物事を峻別する「父性」が
育ちにくい傾向があるのです。
もちろん、母性的な側面を
否定する必要はありません。
むしろ、父性と母性の両方を
バランスよく育むことが理想的です。
ただ、母性的な要素が強くなりすぎると、
他者との境界線があいまいになり、
「自分が変えられるもの」と
「変えられないもの」の区別が
できにくくなってしまいます。
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「万能感」を手放すことは、
「自分には能力がない」
と思うことではありません。
むしろ、「幻想としての自分」を捨てることで、
現実の自分が持つ力や才能に気づき、
それを地道に育んでいく姿勢に近いのです。
そこで重要になるのが、
「有能感」というキーワードです。
「有能感」とは、
「経験にもとづく自信」のこと。
たとえば、
勉強や仕事でコツコツと努力を積み重ね、
できなかったことが
できるようになったとき、
「ああ、自分にも
成果を出せる力があるんだ」
と感じる瞬間があるでしょう。
そうした体験から生まれるのが、
「等身大の自分」に根ざした有能感です。
この自信は、
浮ついたものではなく、
安定したものとなります。
一方で、「万能感」は
誇大的な自己イメージにしがみつくため、
思いどおりにならない現実にぶつかると、
もろく崩れやすい特徴があります。
「本当の自分はもっとできるはずだ」
と信じていても、
それに見合う行動を積み重ねなければ
成果は得られないでしょう。
結果として、挫折感を深めたり、
他人や環境のせいにしたりする悪循環に
陥ってしまうのです。
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では、どうすれば「万能感」を手放し、
「有能感」を育てることができるのでしょうか?
その鍵となるのが「自己受容」です。
多くの人は、
「大きな結果を出せなければ、
誰にも認められないのではないか」
と不安を抱えています。
「すごい自分でなければ価値がない」
という思い込みは、
子どものころの親子関係の中で
培われたものかもしれません。
そのため、
自分の価値を証明しようと、
賞賛を求め、
超人的な結果を
追い求めようとすることがあります。
しかし、
思うような成果が得られなければ、
無価値感に苛まれ、
不幸を感じてしまうことも
少なくありません。
自己受容を深めていくと、
「すごい結果を出せなくても、
自分には価値がある」
「ありのままの自分でも愛される」
という安心感が、少しずつ育っていきます。
すると、
無理に自分を飾り立てる必要がなくなり、
他人の評価に振り回されにくくなります。
感情的にブレることが減り、
地道な努力を積み重ねながら
「変えられること」に集中し、
前向きに進んでいけるのです。
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「自分にできることは何か」を見極め、
その範囲で努力を積み重ねていくと、
等身大の自分に合った成功体験を
得ることができます。
小さなことでも積み重ねていけば、
「以前の自分よりもうまくやれている」
と感じる瞬間が訪れるでしょう。
こうして得られる有能感は、
「変えられないもの」にしがみつく万能感よりも
はるかに堅実で、
長く持続するエネルギーになります。
自己受容による安心感があれば、
成果が出たときは素直に喜び、
期待どおりにいかなかったときも
「今回はこうだったか」と受けとめ、
次へと進むことができます。
そうした地道な積み重ねこそが、
本質的な意味での「力」を
育んでいくのです。
私たちは誰もが「何かを成し遂げたい」
「自分の可能性を発揮したい」と願うものです。
しかし、そのときに
浮ついた「万能感」に頼るのではなく、
地に足のついた「有能感」を育てながら
一歩一歩進んでいくことこそが、
確かな道といえるでしょう。
「どんなときも自分の価値は変わらない」
という安心感を土台に
成長を重ねていけば、
失敗にくじけることなく、
やがて大きな花を咲かせることも
十分可能でしょう。
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この記事では、
万能感から有能感へ
シフトすることをテーマに
お話ししました。
子どものころに抱いた
「自分は何でもできる」という万能感は、
幼い私たちに安心感を与えてくれる幻想でした。
しかし、大人になった今こそ、
その幻想を手放し、
「等身大の自分」に立ち返るときがきています。
変えられないものに固執せず、
変えられることに目を向け、
コツコツと努力を重ねていく。
その積み重ねが「有能感」を育み、
揺るぎない自信へと
つながっていくでしょう。
「すごい結果を出さなければ価値がない」
という思い込みを手放すことは、
自分の可能性を狭めることではありません。
むしろ、幻想を捨てることで、
本来の自分らしさが輝きを増し、
自然体のまま成長していく道が
開けるでしょう。
自己受容を土台に、
「あなたらしい力」を発揮しながら、
人生を存分に楽しんでいきましょう!
幻想から目覚め、
現実的な力を身につけた先には、
確かな「有能感」とともに広がる、
希望に満ちた未来が待っているはずです。