今回の話は、
問題を解決しようとする際、
問題解決のための行動が
逆効果になってしまう場合がある
という内容です。
特に人間関係の問題において、
問題の原因と思われる点を特定し、
それを解決することで
状況を好転させようとするアプローチが、
逆に事態を悪化させたり、
問題を長期化させることさえあるのです。
この記事では、
なぜそのような状況が生じるのか?
その理由を考え、
それではどのようなアプローチを取れば
問題解決につながる可能性があるのかを
探ってみたいと思います。
====
たとえば、
こんなケースがあります。
中学生の息子と彼の母親との間で、
しばしば喧嘩が起こります。
母親から見ると、
息子はちっとも勉強せず、
学業成績も良くありません。
母親は、この状況を問題視し、
息子にもっと勉強してほしい!
と願っています。
そして、
「勉強しなさい!」と促すのです。
母親は、
息子が勉強をしないから注意を促し、
それが喧嘩へと発展すると考えます。
つまり、息子が勉強しないことが
喧嘩の原因だと思っているのです。
しかし、息子の立場からは、
母親がしつこく
「勉強しなさい!勉強しなさい!」
と繰り返し言うせいで、
かえって勉強への意欲を
失ってしまいます。
母親の執拗な促しに対して、
「黙れ!」と叫びたくなるのです。
息子にとっては、
母親のしつこい促しが
勉強への意欲を削ぎ、
勉強に取り組まない原因であり、
さらには母親への反発にもつながる
と感じています。
つまり、母親のしつこい促しが
喧嘩の原因だと考えているのです。
この状況では、母親も息子も、
喧嘩の原因が
相手にあると見ています。
母親は息子が勉強しないほど、
より強く勉強を促そうとするでしょう。
一方で、息子は母親からの促しを
より頻繁に受けるほど、
勉強への抵抗感が増し、
反発心が強まることでしょう。
====
別の事例を見てみましょう。
仕事の後、毎晩居酒屋へ行き
夜遅くまで帰宅しない夫と、
そのことに不満を持つ妻のケースです。
夫はこう主張します。
「妻がいつも文句を言うから、
家でリラックスすることができない!
だから、居酒屋で時間を過ごし、
遅くまで帰宅しないのだ!」と。
夫の立場では、遅く帰宅する理由は、
妻の文句が原因であるとし、
自分が悪いとは思っていません。
一方、妻は夫の言い分に反論します。
「夫が毎晩お酒を飲み、
遅くまで帰らないため、
私が注意せざるを得ない!
家計に余裕があるわけでもないのに……
私が文句を言うのは当然だ!」と言います。
妻は、夫が夜遅く飲んで帰る習慣を
改めないことが
問題の根底にあると見ており、
喧嘩の原因は夫にあると確信しています。
しかし、夫は、問題の原因は
妻がうるさく文句を言うことにあり、
妻が変わらなければ
問題は解決しないと考えます。
このケースも前述のケースと同様に
お互いが相手が問題の原因だ
と捉えているわけです。
夫の行動を変えようとして、
妻がよりうるさく文句を言えば、
夫の居酒屋へ行く習慣は
より強化されるでしょう。
====
どちらの事例でも、
問題の根源を特定して、
その原因となる人物の行動を
正そうとしても、
問題が解決されるどころか、
状況をさらに悪化させたり、
問題の解決を遠ざけてしまうことも
少なくありません。
その主な理由は、一方の視点からは
もう一方が問題を引き起こしているように
見えるものの、より客観的な視点で考えると、
原因とされる事柄が結果の一部であり、
またその結果が原因となっているためです。
これは、ニワトリが先か卵が先か
という問題に似ています。
この世に最初に現れたのが
ニワトリなのか卵なのかを
明確にすることは困難です。
言い換えれば、
片方だけを原因として
指摘することはできません。
息子と母親の事例、夫と妻の事例も同様で、
一方だけを原因と見ることはできず、
双方が互いに原因であり
結果でもあると考えるべきです。
両方の事例で、問題は
両者の相互作用の中で
生じていると言えます。
このような状況においては、
原因を特定して取り除く、
または問題を引き起こす人物の
行動を改善させるようなアプローチが
効果を発揮しないことも、
不思議ではないでしょう。
====
立場が強い側が、
立場が弱い側に対して、
問題を解決するために
何らかの対策を施す場合もあるでしょう。
たとえば、
勉強をしない息子と
それを問題視する母親の事例では、
親である母親が権威を持っており、
息子に勉強を促すために
お小遣いを与えないとか、
おやつを与えないなどの罰を課して、
勉強を強制することがあるかもしれません。
罰を受ける子どもにとっては、
これは非常に苦痛なことであり、
渋々ながらも勉強机に向かい、
勉強をしているふりを
するようになるかもしれません。
この場合、一見、
問題が解決したかのように見えますが、
実際は本当に勉強をしているわけではなく、
単に見せかけだけの行為であり、
実質的には何の進歩もありません。
結果として、
息子は勉強をさらに嫌うようになり、
成績が改善するどころか、
もっと落ちる可能性も高まります。
また、親への反感や反抗的な態度を
強めることも考えられます。
これにより、
親子関係はさらに悪化する恐れが
あるでしょう。
このように、
相手を無理やり変えようとする試みや、
非難、文句の言い合い、説教、
罰による脅しといったコントロール手法は、
長期的に見て効果がないどころか、
問題をさらに複雑にし、
解決を遠のかせることが
少なくありません。
====
お互いが
問題の原因でも結果でもある場合、
立場の強い側が外圧をかけて
相手を変えようとしても、
望む結果が得られないことも多いです。
それよりも、
まったく別のアプローチを試すことで、
状況が好転する場合があります。
それは、関係者の一方が
自発的に変化を起こすことです。
たとえば、勉強をしない息子と
そのことで悩む母親の事例では、
これまで息子に勉強させることに
必死になっていた母親ですが、
母親は自分の意識を切り替えて、
自分がやりたいことは何だろう?と考え、
興味があることを見つけ、
そのことを自分自身が
勉強するようになったら、どうでしょう?
それにより、今までの悪循環のループが
絶たれて、代わりに別の循環が
起こり始める可能性もあるでしょう。
母親が自分の勉強に没頭することで
楽しさを見出すようになれば、
息子に対しての焦点が以前ほど当たらず、
息子が勉強しないことも
さほど気にならなくなるでしょう。
すると、息子に対して
おおらかな気持ちで
接することができるでしょう。
結果的に、
息子の母親に対する反発心も薄れ、
息子ものびのびとしてきます。
すごく楽しそうに勉強に励んでいる
母親の姿を見れば、息子も、
「勉強って、そんなに楽しいんだ?」
と思い、自分も勉強してみよう
という気持ちになるかもしれません。
そこから、
息子自らも勉強に取り組むようになり、
新たな好循環が始まることも
考えられるでしょう。
これはただの一例ですが、
問題を抱える関係者の一方が
今までとは異なる行動を取ることで、
それまであった悪循環を断ち切り、
別の循環を始めることも
可能になるのです。
もちろん、変化を起こせば
必ず状況が改善されるとは限りませんが、
意外にも状況が好転する場合も
少なくないのです。
====
今回は、問題解決を目指して
取り組んでいる行動が、
かえって問題を深刻化させたり、
その解決を遠のかせることがある
という話をしました。
特に、問題に関わる両方の当事者が
原因とも結果ともなっている状況では、
このような事態に陥りがちです。
そうした場合、今までの方法を見直し、
異なるアプローチを
試みる価値があるでしょう。
自分自身の行動パターンを
変えることで、今までの負のサイクルを
断ち切ることができるかもしれません。
ケースバイケースなので、
どのような行動の変化が望ましいのか?
一概には言えませんが、
試行錯誤しながら、自ら小さな変化を
起こしていってもよいでしょう。
今までの状況が改善され、
より心穏やかに生活できることを
お祈りしています。