「なぜかこの人とは
会話がうまく進まない」
と感じたことはありませんか?
もしかすると、
情報の受け取り方や
処理の仕方に違いがあり、
それがスムーズなコミュニケーションを
妨げているのかもしれません。
この記事では、
NLP(神経言語プログラミング)の
「VAKモデル」を紹介し、
相手との信頼関係を築きやすくするための
ヒントをお伝えします。
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私たちは日常生活の中で、
さまざまな体験を
視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった
五感を通して行っています。
NLPでは、これらの五感を
「代表システム」と呼び、
視覚(Visual)、聴覚(Auditory)、
体感覚(Kinesthetic)の3つに分類します。
触覚・嗅覚・味覚は
体感覚(Kinesthetic)に含まれます。
これらの頭文字をとって
「VAK」と呼ぶのです。
視覚は、物の形や色、動き、
空間の奥行きなど、
目から得られる情報を捉える感覚です。
聴覚は、音や声といった
耳から入る情報を
処理する感覚を指します。
体感覚は、
肌で感じる触覚だけでなく、
味覚や嗅覚も含め、
身体の内外で感じるあらゆる感覚を指します。
味覚や嗅覚が体感覚にまとめられるのは、
これらが自分の内的な状態を把握したり、
過去の記憶を呼び起こしたりする際に、
重要な役割を果たすためです。
興味深いのは、誰もが
この3つの感覚を持っているのに、
どの感覚をよく使うかは
人によって違うという点です。
NLPでは、無意識のうちに
最もよく使っている感覚を
「優位感覚」と呼んでいます。
ある人は
目で見た情報を中心に捉え、
別の人は耳からの印象を頼りにし、
また別の人は身体で感じる感覚を
よく使います。
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私たちは
体験したことを整理するとき、
無意識のうちにVAKを使っています。
体験をVAKを通して記憶に蓄え、
後で誰かに話すときも、
そのときの感覚をたどりながら
思い出して語っているのです。
たとえば、
「週末に友人と美術館へ行った」
という体験を考えてみましょう。
視覚が優位な人は、
展示されていた絵画の色彩や構図、
美術館の建物のデザインなど、
目にした光景を中心に心に焼きつけます。
聴覚が優位な人は、
友人との会話や館内に流れていた音楽、
自分の感想の声など、
耳からの情報を軸に思い出として残します。
体感覚が優位な人は、
歩いたときの足の疲れや、
作品を見て感じた感動、空間の雰囲気など、
身体を通して感じた印象を
記憶していくのです。
後日、友人から
「週末は何をしたの?」と聞かれたとき、
それぞれの優位感覚によって
思い出し方も変わります。
視覚優位の人は
美術館の光景が映像のように浮かび、
聴覚優位の人は
会話が音としてよみがえり、
体感覚優位の人は
作品を見たときの感動が
身体感覚として再びよみがえるでしょう。
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視覚優位な人は、
頭の中でイメージを描くのが得意です。
話を聞きながら、その内容を
映像のように思い浮かべるため、
相手の話を理解するスピードが
速い傾向にあります。
頭の中で
次々と映像が切り替わるため、
話すテンポも自然と速くなり、
話題が飛びやすかったり、
意見が変わりやすかったりすることも
よくあります。
たとえば、相手から
「先週、京都に行ってきた」と聞くと、
京都の街並みや寺社の風景が
頭の中に浮かび上がるでしょう。
さらに「嵐山の竹林を歩いて、
その後金閣寺を見た」と続けば、
頭の中の映像が
次々に切り替わっていくのです。
視覚優位な人は
物事の見た目や外観を
大切にする傾向があり、
第一印象で判断することも
少なくありません。
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聴覚優位な人は、
音や言葉に敏感に反応します。
人の話をじっくりと聞き、
筋道の通った論理的な話し方を
する傾向があります。
頭の中で自問自答することが多く、
独り言が多いのも特徴です。
文章の誤字や脱字にすぐ気づき、
文法の誤りにも敏感です。
そのため、メールを受け取ったときに
相手のメッセージの中で
誤った漢字などを見つけると、
気になって仕方がないのです。
伝言を頼まれたときには、
聞いた言葉をそのまま正確に
再現して伝えることができます。
また、読んだ文章を頭の中で
音として再生しながら理解するため、
書かれた言葉も
聴覚情報として処理されています。
聴覚優位な人は、
周囲の雑音に影響を受けやすく、
集中するためには
静かな環境を好む傾向があります。
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体感覚優位な人は、
身体的感覚を通して
物事の理解を深めます。
一度「腑に落ちる」と、
その理解は深く揺るぎないものとなり、
物事の本質をとらえる力に優れています。
ひとつのことを
じっくり味わうことを好み、
話すテンポはゆっくりです。
感じたことを言葉にするのが苦手で、
早口で矢継ぎ早に話されると、
理解が追いつかないこともあるでしょう。
体感覚優位な人が
「温泉旅行に行ってきた」と聞くと、
温泉に浸かったときの温かさや心地よさが
身体感覚としてよみがえります。
また、「犬を飼い始めた」という話を聞けば、
犬を撫でたときの毛並みの柔らかさや
温もりを感じ取るかもしれません。
その場の空気や雰囲気を
敏感に察知するタイプでもあり、
何か違和感を覚えると、
それを解消しようとする傾向もあります。
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相手の優位感覚を知る
手がかりのひとつが
「プロセス・ワード」です。
これは、会話の中で相手が
どんな言葉を使っているかに注目し、
その人のVAKの傾向を探る方法です。
視覚優位な人は、「明るい未来」「視野が広い」
「ピントが合う」「白黒つける」
「目の前が開ける」「青ざめる」
「真っ赤な嘘」「話に花が咲く」
「白い目で見る」といった、
視覚に関連する表現をよく使います。
聴覚優位な人は、「波長が合う」
「耳に入る」「ささやく」「声を大にして言う」
「ハッとする」「ドキドキする」「耳を疑う」
「風がそよそよ」「カチンとくる」
「ケラケラ笑う」「ブツブツ言う」
「ペラペラ話す」など、
音や声、擬音語に関わる言葉を
好む傾向があります。
体感覚優位な人は、「腑に落ちる」
「肩の荷が下りる」「胸が張り裂ける」
「気が重い」「息を呑む」「肝を冷やす」
「手のひらを返す」「揚げ足を取る」
「しっぽを掴む」「板挟みになる」
「頭に血が上る」といった、
身体感覚を表す言葉を多く使うのが特徴です。
相手がどのような言葉を選んで
話しているかを注意深く聞くことで、
その人の優位感覚を推測できるのです。
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人は考えごとをしているときや
記憶を呼び起こすとき、
無意識のうちに視線を動かしています。
この目の動きによって、その人が
VAKのどの感覚に
アクセスしているのかを読み取るモデルを
NLPでは
「アイ・アクセシング・キュー」と呼びます。
たとえば、
目が上を向いているときは、
映像を思い浮かべながら
視覚的に情報を処理している状態です。
さらに、右上を見ているときは、
これまでに見たことのない
新しいイメージを
頭の中でつくり出しており、
左上を見ているときは、
過去に実際に見たもの──
たとえば誰かの服装や風景──
を思い出そうとしています。
目が横を向いているときは、
聴覚にアクセスして
音や声を思い出しているときです。
右方向に目を向けている場合は、
まだ聞いたことのない音や
新しいフレーズを思い描いており、
左方向に目を向けているときは、
以前聞いた音や音楽などを
思い出している状態です。
一方で、目が下を向いているときは、
より内面的な領域にアクセスしています。
右下を見ているときは、
身体の感覚や感情に意識が向いており、
たとえば今感じているソファーの座り心地や
体の緊張などを確かめています。
左下を向いているときは、
自分の中で考えを整理したり、
内的な対話をしているときです。
カウントを取るような場面でも、
この方向に視線が向きやすくなります。
ただし、これらの傾向は
右利きの人の場合であり、
左利きの人では
左右が反対になる点に注意が必要です。
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VAKモデルを理解することは、
円滑なコミュニケーションに役立ちます。
なぜなら、
自分と相手の優位感覚が分かれば、
相手に伝わりやすい言葉や話し方を
意識して選べるようになるからです。
大切なのは、
相手の優位感覚に合わせて、
自分のコミュニケーションスタイルを
柔軟に調整することです。
たとえば、自分が視覚優位で
話すテンポが速いタイプだとしても、
相手が体感覚優位で
じっくり考えるタイプなら、
意識的に話すスピードを落とすことが大切です。
会話のテンポを
相手の理解のリズムに合わせることで、
安心感が生まれ、
相手も無理なく話しやすくなるでしょう。
また、相手の優位感覚を理解していれば、
会話の中で
不要な不安を抱くことも減ります。
たとえば、体感覚優位の人は、
内面で丁寧に感じ取りながら
答えを導き出すため、
返答までに時間がかかることが多いです。
言語化が得意ではないため
「言いたいことはあるけれど、
うまく言葉にできない」と
感じているかもしれません。
こうした特徴を知っていれば、
相手がなかなか
自分の言ったことに応えてくれなくても
「何か悪いことを言ってしまったのでは」
と不安に思うこともないでしょう。
落ち着いて相手の言葉を待ちながら、
もし相手のもどかしそうな様子を感じ取れたなら、
「もしかして、こういうこと?」と
こちらから言葉を添えることで、
相手も自分の思いを
より伝えやすくなるでしょう。
プロセス・ワードを活用することで、
相手の優位感覚に響く言葉選びが
できるようになります。
視覚優位の人には
「明確なビジョンを描く」
「明るい展望が見える」
といった視覚的な表現を使い、
聴覚優位の人には「話し合いを重ねる」
「意見に耳を傾ける」といった
聴覚的な表現を選ぶのです。
体感覚優位の人には
「じっくりと感じ取る」
「しっくりくる解決策」といった
感覚的な言葉を用いることで、
相手の心に響くメッセージを
伝えられるようになるでしょう。
このように言葉選びを変えるだけで、
会話がスムーズになり、
意図が伝わりやすくなります。
結果として、
コミュニケーションも円滑になり、
信頼関係を築きやすくなるでしょう。
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プレゼンテーションや講演など、
さまざまなタイプの人が集まる場面では、
VAKの3つすべてを
組み合わせることが効果的です。
視覚優位の人のためには、
グラフや図表、写真を多用した
視覚的に分かりやすい資料を用意します。
聴覚優位の人のためには、
誤字脱字のない正確な文章と
論理的な構成を心がけます。
体感覚優位の人のためには、
重要なポイントをゆっくりと丁寧に説明し、
時折間を取ることで、
内容を消化する時間を与えます。
このように複数のアプローチを
組み合わせることで、
幅広い聴衆に対して効果的に
情報を届けることができるでしょう。
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この記事では、
NLP(神経言語プログラミング)の
「VAKモデル」を通して、
相手との信頼関係を深める方法を
お伝えしました。
VAKモデルとは、人が情報を
「視覚」「聴覚」「体感覚」という
三つの感覚を通して受け取り、
処理しているという考え方です。
人によってどの感覚をよく使うか、
「優位感覚」が異なることを理解することで、
相手に伝わりやすいコミュニケーションを
取れるようになるでしょう。
記事の中では、まずそれぞれの
優位感覚の特徴を見てきました。
視覚優位の人はイメージで考え、
話のテンポが速い傾向があります。
聴覚優位の人は言葉や音に敏感で、
論理的に話すのが得意です。
体感覚優位の人は
感情や感覚を通して深く理解し、
じっくりと考えるタイプです。
また、相手の使う「プロセス・ワード」や
目の動きなどから優位感覚を読み取る方法、
そしてそれを踏まえて
信頼関係を築くコミュニケーションの工夫
についてもご紹介しました。
VAKモデルは、
人それぞれの情報処理の違いを理解し、
相手に合わせたコミュニケーションを
実現するための強力なツールです。
自分の優位感覚を知ることは
自己理解につながり、
相手の優位感覚を知ることは
相互理解を深めます。
日々のコミュニケーションの中で、
相手の使う言葉や目の動きに注意を払い、
それに応じて
自分の言葉選びや話し方を調整することで、
より円滑なコミュニケーションが
可能になるでしょう。
ぜひ、身近な人との会話の中で
「相手はどんな感覚で
世界を見ているのだろう?」
と意識してみてください。
きっと、これまで以上に
心が通い合う瞬間が
増えていくでしょう。