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幼少期の不足を埋める:心の器を強くする守りの方法

今回のテーマは
「心の安全基地を強化すること」です。

子どもの頃、
親に存分に甘えられた人は、
心の安全基地がしっかりと築かれ、
心理的な自立も
スムーズに進む傾向があります。

反対に、
そうした体験が不足していた場合、
心の器が脆くなり、
心理的自立が遅れがちになることも
少なくありません。

では、そのような人が
どうすれば心の安全基地を
築けるのでしょうか? 

この記事では、その問いへの答えを
探ってみたいと思います。

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発達心理学から見る子どもの「甘え」と自立

発達心理学の研究では、
「子どもの頃に
親に存分に甘えられた子どもほど、
心理的に自立しやすい」
という結果が示されています。

逆説的に感じるかもしれませんが、
子どもの健全な発達と成長のためには、
親が子どもの甘えを
受けとめることが不可欠なのです。

一方で、「しっかりして!」
「早く自立してちょうだい!」
といったメッセージばかりを伝えると、
子どもは甘えたい気持ちを
抑え込むことになります。

その結果、心理的自立が遅れ、
成長のプロセスに
支障をきたす可能性が高まります。

聞き分けのよい子に
育ったように見えても、
内面では自立へのブレーキがかかり、
思春期以降に対人関係で緊張が増したり、
ストレスへの適応が難しくなったり、
精神的な不安定さを
抱えることが多くなるでしょう。

つまり、子どもが親に
十分甘えられる環境があるからこそ、
健全な自立が育まれるのです。

反対に、
早期から自立を求められると、
心理的な自立が難しくなり、
後々の人間関係やメンタルヘルスに
悪影響を与えてしまうでしょう。

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「甘えを受けとめる」と「甘やかす」の違い

自立した子どもを育てるためには、
幼い頃から子どもの甘えを
受けとめることが重要です。

ただし、ここで
留意すべき点があります。

それは、「甘えを受けとめること」と
「甘やかすこと」は
全く異なるということです。

「甘えを受けとめる」とは、
子どもの感情や気持ちをそのまま受け入れ、
その思いに寄り添うことを指します。

一方、「甘やかす」とは、
子どもの欲求を無条件に満たし、
欲しがるものを何でも与えることです。

ルソーが『エミール』で述べたように、
「甘やかし」は子どもを不幸にする
最も確実な方法とされています。

発達心理学の観点からも、
過度な甘やかしは子どもの成長を妨げ、
不利に働くと考えられます。

たとえば、子どもが
「このおもちゃが欲しい!
友だちがみんな持っていて、
ないと仲間に入れてもらえないんだ」
と訴えたとします。

この場面で、親がただ
「わかった、買ってあげるよ」と
簡単に応じてしまうのは
甘やかしになるでしょう。

一方で、
「そのおもちゃが欲しいんだね」
「友だちと一緒に遊びたいんだね」と、
その気持ちに共感し寄り添うことが、
「甘えを受けとめる」ということです。

たとえそのおもちゃを
買ってあげられないとしても、
それは問題ではありません。

大切なのは、どのような状況でも
子どもの感情に共感し、
寄り添うことです。

「欲しかったのに
買ってもらえなくて残念だよね」
「がっかりしちゃうよね」といった言葉で、
子どもの失望感を受け入れます。

仮に、子どもが怒りを示した場合も、
「買ってもらえなくて腹が立つんだね。
それは当然だよね」と、
その怒りに寄り添うことで、
子どもは自分の感情が受け入れられたと感じ、
安心できるのです。

このように、
子どもの感情を否定せず、
どんな気持ちであっても
受けとめて寄り添うことが、
「甘えを受けとめる」ということです。

別の言葉で言い換えれば、
これは「子どもを受容する姿勢」
と言えるでしょう。

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「受容的な親」の内在化と子どもの成長

子どもが親に甘えを受けとめてもらい、
自分の気持ちを
受容される経験を重ねることで、
心の中に「受容的な親」のイメージが
根付いていきます。

これを「親の内在化」と呼びます。

内在化が進むと、
親がそばにいなくても
子どもは安心して外の世界に踏み出し、
積極的に行動できるようになります。

子どもの心の中に
確固たる安全基地が
築かれているためです。

親の内在化が進むまでには、
一連のプロセスを
繰り返し経験することが不可欠です。

最初は、
親がそばで見守りながら
甘えを受けとめてくれることで、
子どもの心に安心感が育まれます。

その結果、
子どもは外の世界への興味を持ち、
探検しようとする気になります。

探検の途中で不安を感じたとき、
子どもは一旦親のもとに戻り、
再び甘えを受け止めてもらうことで
安心感を取り戻します。

そして、その安心感を胸に、
また外の世界に飛び出していくのです。

この一連のサイクルは
以下のように進行します:
1.甘えを受けとめてもらう
2. 安心感が育まれる
3. 外の世界を探検したくなり、探検する
4.不安になって親のもとに戻る
5. 再び甘えを受けとめてもらう
6. さらに安心感が深まり、再び探検に出る

このようなプロセスを繰り返しながら、
子どもは少しずつ
行動範囲を広げていくのです。

繰り返される経験を通じて、
子どもは心理的に自立し、
最終的には
親がそばにいなくても
安心して行動できるようになります。

この状態こそ、
「親の内在化」が完成した
と言えるのです。

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親の内在化ができなかった場合でも大丈夫

理想的には、子どもの頃に
十分甘えられた経験を持ち、
親の内在化が達成されていることが
望ましいです。

しかし、現実には、
親の内在化がうまくできずに
大人になった人も数多くいます。

それは、幼少期に
親に十分甘えることが
できなかったからでしょう。

その結果、自己受容が難しくなり、
心の器が脆く、心の安全基地も
不安定なことが考えられます。

それでも、大人になってからでも、
心の自立を促す方法はあります。

親の内在化が不十分な場合、
代わりに「守り」となるものを
多角的に取り入れ、
それらを内在化することで
心の安全基地を築いていけるのです。

これから紹介する「守り」を通じて、
自分を支えながら
徐々に心を強くしていくことで、
心の自立と自己受容を
進めていけるでしょう。

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自己受容の重要性とその深い境地

自己受容とは、自分をありのままに
受け入れることです。

その究極の境地は、どんな条件もつけず、
自分を無条件に受け容れることです。

たとえ他人から認められなくても、
人間関係がうまくいかなくても、
仕事で成果を出せなくても、
そのままの自分を肯定できる状態が、
深い自己受容の境地です。

こうした自己受容の境地に至った人は、
心の中に確固たる安全基地を持つため、
外的な守りに頼る必要が少なくなります。

悲しみ、怖れ、孤独感といった感情も、
心の中で抱えて感じるだけの
「器」が備わっているため、
怒りにすり替えて
他人を責める必要もなくなります。

また、肩書きや実績、ブランド品などで
自分を飾ることも必要ありません。

プライベートな空間がなくても、
自然と心を守ることができるのです。

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「守り」を取り入れるための具体的な方法

心の安全基地を強化し、
心理的な自立を促すためには、
さまざまな「守り」を
自分の生活に取り入れることが
役立ちます。

これらの守りを内在化することで、
自己受容と心の自立が促され、
心の強さが育まれてゆくでしょう。

まず、幅広い人に効果的な守りとなる
4つの方法をご紹介しましょう。

1. 安定した生活リズムを整える:
規則正しい生活習慣は、
心に安心感と安定感をもたらします。

たとえば、決まった時間に起きる、
食事をとる、睡眠を確保するといった
シンプルなリズムが、
心を支える基盤となります。

2. 適切な境界線を引く:
特に親、配偶者、家族との間に
境界線を引き、
適切な距離感を保つことは、
自分の心を守るうえで重要です。

相手と距離を取りつつも
つながりを維持することで、
健全な関係性を
築くことができるでしょう。

3. 他者との心理的な距離を取る:
必要以上に他人の感情に
巻き込まれないことが、
自分の感情の安定につながります。

他人の問題を
引き受け過ぎないことで、
心の余裕を保つことが大切です。

4. 一人になれる空間や時間を持つ:
自分だけの時間や空間を確保することで、
心を整理し、リフレッシュする機会を
得られるでしょう。

これは、日々のストレスを解消し、
心を整えるための重要な手段です。

「守り」の方法は
これだけではありません。

人それぞれ効果的な守り方は
異なります。

たとえば、以下のような例も
参考にしてください。

-好きな音楽を聴く:
音楽の力で心を癒し、
安心感を得られる人もいます。

-肩書きや業績を得る:
仕事や成果によって
心の安定を感じる場合もあります。

-ブランド品やお化粧:
外見にこだわることで自信を持ち、
心の安定を保つ人もいます。

-尊敬するメンターや座右の書を持つ:
困難なときの指針として、
心の支えとなる存在を
見つけることも有効です。

-スピリチュアルや宗教:
精神的なよりどころを持つことで、
心の落ち着きを得る人もいます。

-縁起を担ぐ:
縁起に頼ることで
心の安心を得る方法もあります。

このように、
「守り」となる存在や行動は
人によってさまざまです。

大切なのは、
それが自分にとって心を支え、
守ってくれるものであることです。

自分にとって有効な「守り」を見つけ、
それを日常に取り入れることで、
心の強さと安定感を
育てていきましょう。

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「守り」を取り入れるときの注意点

心を守るための「守り」を取り入れる際には、
いくつかの重要なポイントに
気をつける必要があります。

まず最初に、
不健康な守りに注意することです。

どんなに心を守るための行動であっても、
方法を誤ると「不健康な守り」
になってしまうリスクがあります。

たとえば、
悲しみや無力感を抱えきれずに
怒りに変換し、
それを他者にぶつけることは、
健全な守りとは言えません。

また、「躁的防衛」による
一時的な高揚感に頼るのも危険です。

アルコールやギャンブルへの依存が
その一例です。

これまでそのような不健康な守りに
頼ってきた人は、
それを一気にやめるのは
難しいかもしれません。

しかし、その場合でも
「これは守りなんだ」と自覚しながら、
徐々に新たな健康的な守りを
取り入れていくことで、
不健康な守りの依存度を
下げていくことが理想的です。

また、一つの守りに
依存しすぎないことも重要です。

たとえば、
ブランド品を持っていないと
不安になるあまり、
お金を使いすぎてしまう場合、
それは不健全な依存と言えます。

複数の守りを組み合わせ、
バランスを取ることで、
依存から抜け出す手助けになるでしょう。

自分に合った守りを
見つけることも大切です。

自分に合わない守りを
無理に取り入れても、
十分な効果は期待できないからです。

たとえば、音楽に興味のない人が
音楽に頼ろうとしても、
それが心の支えにはならないでしょう。

同様に、縁起かつぎを
信じない人にとっては、
縁起を担ぐ行為は
心の安定をもたらさないでしょう。

自分の性格や興味に合った守りを
見つけることが、
心の安全を確保するためには
大切なのです。

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おわりに

この記事では、
「心の安全基地を強化すること」
についてお話ししました。

子どもを心理的に自立させるためには、
幼少期に甘えを受けとめてあげることが
重要であると説明しました。

また、甘えを受けとめることと
甘やかすことの違いを強調し、
健全な甘えがもたらす
心理的効果についても触れました。

理想的には、
子どもが親からたくさん受容され、
親の内在化が進むことで、
心の中に安全基地が確立され、
心理的な自立を果たすことです。

しかし、現実には、
幼少期にそのような経験を
十分に持てなかった人も多いでしょう。

そのような場合、
大人になってから
自分自身で「守り」を見つけ、
それを取り入れ内在化することで、
心の器を丈夫にし、
安全基地を構築していくことも可能です。

多くの人にとって
効果的な守りの方法として、
以下の4つを紹介しました。

1.生活の中に安定したリズムを取り入れる
2. 他者との間に境界線を引く
3. 他者との心理的な距離を保つ
4. 一人になれる空間と時間を確保する

そのほか、音楽、ブランド品、お化粧、
肩書や業績、宗教やスピリチュアル、
縁起かつぎ、師匠や座右の書なども
心の守りとなり得ます。

人それぞれに合った守りは異なるため、
自分に適した守りを
見つけることが大切です。

また、不健康な守りに依存せず、
健康的な守りに移行することも
重要なポイントです。

一つの守りに偏らず、複数の守りを持ち、
バランスを取ることで
心の安定が促進されるでしょう。

「守りの内在化」は、
自己受容と心理的自立に
欠かせないプロセスです。

たとえ子どもの頃に
親に甘えることができなかったとしても、
大人になった今、
自分で守りを取り入れることで、
心の安全基地を築いてゆきましょう!