大丈夫だよ、なんとかなるさ精神の楽観的なニュージーランド人

ニュージーランドに長年住んで、
感じたことの一つは、
楽観的な人が多いことだ。
物事が思うようにいかなくても、
「まあ、大丈夫でしょう。
なんとかなるよ」
と気軽に構えている人たちが多い。
「上手く行かなかったら、どうしよう」
と心配したり、くよくよ悩む人の姿は、
あまり見られないことだ。

ニュージーランドで
よく使われる言葉で、
ニュージーランド人の楽観的な姿を
描く表現がある。
それは、She’ll be rightというもの。
直訳すれば、「彼女は大丈夫だろう」となるが、
この場合、主語のSheというのは、
「彼女」の意味ではなく、
心配や気がかりの対象物すべてを指す。
Sheは時には、今の状況だったり、
問題を抱える人だったり、
思うように行かないイベントだったり、
すべてのことが対象物のSheになり得る。

この表現は、もともと
何か状況が思わしくない時に、
「まあ、あまり心配しなくても、
大丈夫。どうにかなるよ」
という感じに使われていた。
でも、最近では、
良くない意味合いにも使用される。
あまり慎重に考えることなく、
十分な準備することなしに、
「まあ、大丈夫だよ。
すべてが上手く行くよ。
だから、やっちゃおう」という感じで、
向こう見ずに前に進んでしまう場合にも
言われる言葉になった。

この楽観的な姿勢は、
良い点もあれば、悪い点もある。
何か新しいことに挑戦する時、
未知の世界に入る時、
その世界がどんなものだか分からず、
恐怖を感じる人は多い。
でも、楽観的な姿勢のお陰で、
「まあ、大丈夫だよ。
どうにか上手く行くよ」と言い、
尻込みすることなく、チャレンジができる。

自分が知らないことでも、躊躇せずに、
どんどん新しいことに挑戦してゆけば、
それなりの成長も見込まれる。
慎重になりすぎれば、
なかなかできないことでも、
She’ll be rightの精神があれば、
未知の世界にもラクに飛び込んで行ける。
この点は、本当に素晴らしい。

でも、楽観的なあまり、
慎重に計画を練ることなく、
十分なリスクマネージメントもなしで、
危険に対して気を緩めていれば、
大怪我して大変なことにもなり得る。
ちょっとした怪我ならば、
さほど問題ではないが、
怪我の程度が大きければ、
何カ月も療養しなければ
治らない状態にもなり得る。

子供たちが小さな頃、
近所のママ友たちと、
子供たちを公園に連れて行った時のことだ。
ニュージーランドの滑り台は、
日本のものに比べれば、かなり長くて、
高いところまで登って行く必要がある。
大人が見ても、小さな子供が
こんなに高くまで登っていくの?
とビックリするほどの高さだ。

日本人のママ友とは、
「ちょっと高すぎるよ。
危ないから、止めておいた方が無難だ」
と意見の一致があった。
でも、ニュージーランド人のママ友は、
私達とは全く違った姿勢だ。
「大丈夫だよ。皆、楽しそうに
滑っているじゃない。
やらせてあげようよ」
と全く心配する様子はなかった。

人数的には
ニュージーランド人の方が多くて、
皆が「なんでそんなに心配なの?
大丈夫に決まっているでしょ!」と言うので、
私は負けてしまった。
結局、私も子供たちに
長くて高い滑り台で遊ばせることになった。
でも、本音を言えば、近くで見ていて、
大分ヒヤヒヤしていたのだ。

小さな頃から、
こんなに長くて高い滑り台で
遊んでいるからだろうか?
ニュージーランドには、
大人になってからも、
怪我などを恐れず、
大胆なことをする人たちが沢山いる。

日曜大工が大流行のこの国では、
多くの家庭が家のペンキ塗りを自分たちでやっている。
高い場所をペンキで塗る際、
はしごを使うのが一般的だが、
この時、はしごが多少グラついていても、
あまり気にしないで、「大丈夫でしょ」と言い、
気軽にはしごに登ってしまう。
何も起きなければ、ラッキーだが、
はしごがずれて、転落事故を起こすケースもある。
こんな場合、完治するまで
何カ月もかかるような
大怪我をする人もいるのだ。

大怪我の可能性が考えられるのなら、
もっと慎重になればよいのでは?
と日本人の感覚では思うが、
ニュージーランド人は
あまりにも楽観的なので、
She’ll be rightと言い、
躊躇うことなく、やってしまう人も多い。

なぜ、ニュージーランド人は、
そんなに楽観的なのだろうか?

おそらく、遺伝子的なものもあるのだろう。
幸せホルモンと呼ばれる
セロトニンという神経伝達物質が
脳内に多ければ、不安を感じにくく、
あまり心配しないそうだ。
セロトニンの分泌量を左右する遺伝子があり、
日本人の場合は、セロトニンの分泌量が
少ない傾向にあるそうだ。
そのため、日本人は不安を感じやすく、
心配性の人たちが多いとのことだ。
日本人が様々な場面で慎重になり、
リスクマネージメントをしっかりするのは
遺伝的要素によるものらしい。

私達日本人とは違って、
ニュージーランド人は遺伝的に
セロトニンが多い人たちなのだろうか?
彼らの楽観的な姿を見ていると、
そんな気がしてならない。

また、ニュージーランドには、
事故により怪我した場合、
治療費や生活費の援助をしてくれる
ACCという制度がある。
このお陰も大きいだろう。
ニュージーランド国内で起きた事故ならば、
たとえ外国籍の人でも、
ACCが治療費を支払ってくれるそうだ。

ペンキ塗りで、はしごから転落して怪我しても、
病院で受ける治療の費用も、
働けなくなった期間失う賃金の大部分も
ACCが負担してくれるから、
安心だという気持ちになるのだろう。
事故の場合は、
政府が全面的に面倒見てくれるこの国では、
あまり慎重になる必要がないのかもしれない。

私の夫はニュージーランド人で、
彼も典型的なキィーウィー。
She’ll be right精神の持ち主だ。
そんな楽観的な夫と、
心配が多く慎重すぎる私との間には、
時々、意見の相違が起きる。
でも、お互い正反対の姿勢なので、
最終的には、私達2人の中間を取って、
ある意味、バランスが取れている。
そう考えれば、理想的なのかもしれない。

ということで、
今回は、ニュージーランド人の
楽観的な姿勢、She’ll be right精神について、
お話してみた。