私は東京で生まれ育った。20代半ばにニュージーランドに渡って以来、30年近くも、ずっとこの国に住んでいる。今では、人生の半分以上をニュージーランドで過ごしたことになる。日本とニュージーランドの異なる文化、生活習慣を経験する中、私にとって、なかなか慣れなかった「ニュージーランドのやり方」が幾つかある。今日は、それを紹介したい。
トイレのドアが、そのうちの一つだ。日本では、トイレのドアは通常閉められている。使用中であっても、誰も中にいない場合でも、原則として、トイレのドアは閉めるように、と親から教わった。そのため、ニュージーランドでホームステイをした時も、トイレ使用後、ドアは閉めておくようにした。
しかし、ある日、ホストファミリーから注意された。「トイレに行きたかったのに、ドアが閉まっていたから、ずっと我慢していたのよ。でも、中に誰もいないじゃない。トイレが終わったら、ドアは必ず全開しておいてね」と。
トイレのドアを全開する? 私はかなり驚いた。ドアが全開していたら、廊下を歩く時、トイレの便器が丸見えだ。そういうのって、下品な感じがすると思う。また、ドアを広く開けておけば、トイレの匂いが外に漏れてしまうこともある。
トイレが使用中か、そうでないかを確認するのに、日本では、ドアをノックする習慣がある。ノックして、人が中にいれば、その人もノックし返してくれる。そうすれば、使用中か否かが分かる。しかし、ホストファミリーに言わせれば、トイレのドアをノックすることは、「早くトイレから出ろ!」と急がせるような行為なので、失礼だとのこと。
トイレ使用後のドアの全開は、しばらく変な感じがした。でも、今では、すっかり慣れて、それが普通になった。
もう一つ、慣れなかったことは、皿洗いの仕方。日本では、洗剤を使って茶碗をゴシゴシ洗った後、お湯を流しながら、念入りに洗剤を落とすようにしていた。洗剤は身体に悪いので、洗剤が少しでも残らないようにと、流し湯しながら、食器を丁寧にリンスしていた。
典型的なニュージーランドの皿洗い方法(ディッシュウォッシャーを使わない場合)は、私にとっては、かなりショックだった。まず最初に、キッチンシンクに栓をして、お湯をいっぱい溜める。そして、その中に洗剤を垂らして、かき混ぜるのだ。洗剤の泡がたくさん立ったら、準備完了。
そのお湯の中で、食器類をブラシでゴシゴシ擦り、汚れが落ちたら、そのままラックに上げる。ラックに上がった食器類は、洗剤の泡がたくさんついているが、それでOK。その泡を布巾で拭いて、そのまま食器棚に戻すのだ。洗剤をお湯や水でリンスして、洗剤が残らないよう気を付けることは、一切ない。
「残留洗剤が人体に悪影響を与えるのでは?」 と心配した私は、ホストファミリーに質問してみた。ホストマザーは驚いた表情で、私にこう言った。「洗剤が有毒なの? そんな話、今まで聞いたことないわよ! たとえそんなことがあっても、布巾でちゃんと拭いているから、大丈夫。どこの家庭でも、皆、こうやって皿洗いをしているのよ。今までそれが原因で、病気になった人なんていないはず」と。
流し湯でリンスしないことは、最初のうち、私にとってはかなり抵抗があった。しかし、そのうち、なぜ流し湯をしないのか?その理由が分かった気がする。ニュージーランドは日本と同様、「水」には恵まれている国だ。しかし、多くの家庭では、お湯の量に制限がある。専用のタンクに水を溜め、そのタンクを電気で温めてお湯を作っている。タンクの中のお湯をすべて使い果たしてしまったら、再びお湯ができるまで、6時間ほどかかるそうだ。
そんな事情があるので、お湯を流しながら皿洗いしなかったり、10分以上のシャワーは禁止というルールがあるのだろう。
文化や生活習慣の違いで驚いたことはまだあるが、話が長くなりそうなので、今日はこのへんでお終いにする。続きは次回に。