「過去のひどい経験が
私の人生を台無しにした!」
と嘆いている人はいないでしょうか?
確かに、これまでの経験の積み重ねが
今の自分を形づくっているのは
事実でしょう。
しかし、たとえ大きな挫折や
深い傷を抱えていても、
今この瞬間から一歩踏み出せば、
自分の人生を
新たに築き直すことはできるのです。
この記事では、
「過去は未来を邪魔しない」
ということについて、
お伝えしていきます。
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「今の自分」は、これまでの人生で
積み重ねてきた経験によって
形づくられていると言えるでしょう。
子どもの頃に
家庭や学校で体験したこと、
周囲の人々や友人に言われた言葉、
そして成功や失敗の経験――
そうした一つひとつの出来事が影響し合って、
現在の自分ができあがっています。
これまでの出来事の記憶は
心の中に蓄積され、
その情報が無意識のうちに
「自分はこういう人間だ」
「こういう場面ではこう振る舞うべきだ」
といった信念や行動パターンを
形づくっているのです。
心理学では、このような信念や
行動パターンを生み出す心の枠組みを
「スキーマ」と呼びます。
また、「こうしなければならない」
「もっと頑張らなければいけない」
といった強いメッセージを
心の奥深くから発しているものを、
「ドライバー」と呼ぶこともあります。
これらのスキーマやドライバーは、
過去の体験を土台にしてつくられ、
私たちが気づかないうちに、
今の生き方や感じ方に
大きな影響を与えているのです。
とはいえ、過去の歴史が
今の自分を形づくっているからといって、
「だから未来も同じように決まってしまう」
というわけではありません。
むしろ、スキーマや
ドライバーという仕組みを理解し、
その存在に気づくことで、
自分の人生をもう一度、
主体的に創り直すことができるのです。
次のセクションでは、
こうしたスキーマやドライバーが、
どのように生まれ、
私たちをどのように縛っているのかを
見ていきましょう!
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人は日々の生活のなかで、
さまざまな経験を重ねながら、
「自分はこういう人間だ」
「こういう場面ではこう振る舞うべきだ」
といったパターンを、
無意識のうちに学習しています。
このようにして
「スキーマ」は形成されてゆきます。
スキーマは、自分の思考や行動、
感情の土台となる信念や思い込みを
生み出します。
そのため、
本人にはなかなか自覚しづらいものの、
強い影響力を持っているのです。
たとえば、子どもの頃に
「失敗すると怒られる」
という体験を繰り返した人は、
「失敗してはいけない」というスキーマを
持つようになるかもしれません。
すると、大人になってからも
新しいことに挑戦しようとするときに、
強い不安を感じてしり込みし、
結果として
チャンスを逃してしまうこともあるのです。
本人が気づいていなくても、
「失敗してはならない」
という過去からくる信念が、
行動の幅を狭めてしまっているのでしょう。
また、子どもの頃から
「他人には親切にしなければならない」
と繰り返し言われて育った人の例を
見てみましょう。
一見すると、
立派な教えのように思えますが、
「自分より他人を優先しなければいけない」
「自分の欲求は後回しにしてでも
他人を助けなければならない」
といった極端な思い込みへと
つながってしまうこともあります。
その結果、大人になってからも
人に頼まれると断れず、
必要以上に
自分を犠牲にしてしまう場合もあるのです。
「親切であるべき」といった
メッセージそのものは
悪いものではありませんが、
思い込みとして過度に根づいてしまうと、
かえって自分を苦しめる原因に
なってしまうでしょう。
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スキーマとともによく語られるのが、
「ドライバー」という概念です。
ドライバーとは、
心の中で自分を駆り立てるような、
強く命令的なメッセージのことを指します。
「頑張らなければならない」
「サボってはいけない」
「急がなければいけない」
といったものが、その典型です。
子どもの頃に、
親や教師からこのようなことを
繰り返し言われていた場合、
大人になってからも、
自分の心の中でそのメッセージが響き続け、
無意識のうちに
行動を突き動かされてしまうのです。
たとえば、「急がなければいけない」
というドライバーを持っている人は、
日常生活で常に焦りを感じやすく、
落ち着きを失ってしまう傾向があります。
また、「頑張らなければならない」
というドライバーを持っている人は、
ほんの少し休んだだけでも
「怠けているのでは」と感じ、
休んだ後に
罪悪感を覚えてしまうこともあるでしょう。
このようなドライバーは、
努力を後押しする力に
なることもありますが、
度がすぎると心や体をすり減らし、
健康を損ねる原因にもなりかねません。
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スキーマやドライバーに
振り回される原因は、多くの場合、
本人がそれらの存在に
「気づいていない」ことにあります。
長年にわたって
積み重ねられたメッセージが
思い込みに発展して、
自分にとってあまりにも
当たり前のものとなっており、
そこに疑問を持ちにくいのです。
しかし、
「なぜ疲れていても休めないのか?」
「どうして小さなミスでも
必要以上に落ち込んでしまうのか?」
といった疑問をきっかけに、
自分を縛っている思い込みに
目を向けてみると、意外にも
子どもの頃に繰り返し受けたメッセージが
深く影響していることに
気づけるでしょう。
このような「気づき」は、
過去に由来する思い込みの鎖を
ゆるめるための、
欠かせない第一歩となります。
もし、過去に形成された
スキーマやドライバーが、
自分を不必要に縛りつけ、
苦しめていることに気づいたなら、
それを少しずつゆるめていくことは可能です。
そのためには、まず
「この信念やドライバーは、
今の自分にとって
本当に必要なものなのか?」
改めて問い直してみるとよいでしょう。
私たちは、意識的な選択を通じて、
これまで当たり前のように
受け入れてきた思い込みを見直したり、
別の受け取り方に
書き換えたりすることができるのです。
もし、自分ひとりでは
思い込みやドライバーを
ゆるめるのが難しいと感じたときは、
専門家の助けを借りることも有効です。
カウンセリングや心理療法を通して、
「なぜ今も
そのメッセージに従ってしまうのか?」
「そのルールは
本当に自分にとって必要なのか?」
を客観的に見つめ直すことで、
過去に根ざした思い込みを少しずつ手放し、
新しい価値観を
受け入れていくことができるでしょう。
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私たちの未来を左右するのは、
過去ではなく、
「今、何を考え、何を選び、どう行動するか」
にあります。
たとえ苦い思い出や
挫折を経験していたとしても、
「今からこうしてみよう」と意志を持ち、
具体的な行動を積み重ねていくことが、
未来を形づくっていくのです。
フランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユは、
「未来は現在と同じ材料でできている」
と語りました。
ここでいう「材料」とは、
今の思考や選択、行動のことです。
たとえ過去に
痛みや苦い経験があっても、
今という時点で一歩を踏み出せば、
それが新しい未来をつくる
土台になるのです。
この言葉は、
過去を否定するものではありません。
むしろ、今の自分が
「過去をどう扱うか」によって、
未来は変えていけるのだ
ということを示しています。
たとえば、過去の失敗体験を
「自分には才能がない証拠」と捉えるのか、
それとも
「次のステップにつなげるための学び」
と受け止めるのかは、
自分の選択にかかっています。
そして、その選択に基づいた行動を
コツコツと積み重ねていくことで、
未来は少しずつ変わってくるのです。
子どもの頃に親から常に否定され、
自己肯定感を育てられなかった人でも、
大人になった今、
「あるがままの自分を認めてあげよう」と心に決め、
少しずつ自己受容のワークに
取り組んでいけば、
自己肯定感を高めることはできるのです。
小さな成功体験を重ね、
失敗に対しても必要以上に
自分を責めずにいられるようになると、
「自分はダメだ」と思い込んでいた過去の感覚が、
少しずつ緩んでいくでしょう。
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この記事では、
「過去は未来を邪魔しない」
という内容をお伝えしました。
私たちは
生まれ育った環境や
子どものころに受けたメッセージなど、
さまざまな要因を通じて
「今の自分」を形づくっています。
確かに、これは事実ですが、
それが「自分の未来を決めるもの」
になるわけではありません。
過去に形成された思い込みや
強迫的なルールがあることに気づいたなら、
必要に応じて
それをゆるめたり
書き換えたりすることは
十分可能だからです。
大切なのは、「過去には
こういう出来事があったけれど、
だからといって
未来まで縛られるわけではない」
ということです。
たとえ子どものころの体験が原因で、
不当な思い込みや
信念があったとしても、
その見方や行動を
少しづつ変えていくことはできます。
今の自分にとって
役に立たない思い込みや行動を見直し、
それらを少しずつ手放していくうちに、
過去の枠組みから解放された
新しい未来が見えてくるでしょう。
過去が
今の自分を形づくっているからこそ、
その過去をどう活かすかを決めるのは
「今の自分」です。
過去は確かに
私たちに多くの影響を与えますが、
未来を最終的に決めるのは、
今、自分がどう考え、何を選択し、
どう行動するかです。
そこにこそ、
過去にとらわれない生き方の鍵が
あると言えるでしょう。