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病気になる前の元の状態に戻りたいけれど、戻れない!

病気に罹って
普通の生活もままならなかった人が
回復期を経て元気になった時、
「病気になる前の元の状態に
戻れない!」と嘆くことがある。
特に回復、寛解に何年もかかる
大きな病気やメンタル疾患の場合、
この傾向が強い。

お医者さんは「もう大分良くなったでしょ」
と言うけれど、本人はちっともそう思えない。
「病気に罹る前、健康だった時には、
これもできたし、あれもできたし、
ここもこうだったし…」と昔のことを思い出す。
現在の自分の状態と、昔の記憶がかけ離れていれば、
納得いかないし、満足できないものだ。

今回は、
このような場合でも、
「病気になる前の元の状態に
戻ろうとしないほうがよいこと」を
私の身近にいる人の経験を見て
お話してみたい。

なぜ、病気になる前の元の状態に
戻ろうとしないほうがよいのかは
主に2つ理由がある。
最初の理由は「年齢」だ。
短期間で治るものなら問題ない。
でも、回復するのに
何年もかかるものならば、
病気をしている期間に自分も年を取る。
例えば、鬱病の場合には、寛解するまでに
5~6年かかってしまうこともしばしばだ。
5年前の自分と、5年後の自分とを比べれば
5歳は年を取ったことになる。
残念だが、その5年間には老化現象も起きる。

できるだけ、いつまでも若々しくいたい。
でも、現在の科学では、老化現象には
まだ打ち勝つことはできない。
なるべく老化が遅くなるよう努めても
年を取れば、それなりにガタが来る。

そういう点では、ある程度、諦めも必要だ。
病気が長年続く場合には、
自分の年齢をすっかり忘れてしまうが、
常に自分も年を重ねていることを
承知したほうがよいだろう。
病気に罹る5年前より、自分は5歳も年取った。
だから、たとえ回復しても、
前と同じようにならなくても、当然だ。

もう一つの理由は、
病気が起きた原因に関係する。
すべての病気には当てはまらないが、
「病気になることは、
今の自分の在り方に問題がある」
というメッセージの場合も多い。

例えば、心身共に疲れを感じているのに、
仕事が忙しいからと言い、
自分の身体からのメッセージを無視して、
無理に無理を重ねて、
終いには鬱病になってしまうケースがある。
もし、「疲れたな」という
身体からのサインに応えて、
きちんと休息していたならば、
鬱病発症も防げたことだろう。

お酒が大好きで、
毎晩大量にお酒を飲んでいれば、
そのうち肝臓を悪くするだろう。
アルコール性肝炎に罹って
入院することになれば、
一時的にお酒を止めるか控えるかで、
大分症状は治まるかもしれない。
運よく体調が改善されて「良かった」と思っても、
再びお酒を始めれば、また肝臓を悪くしてしまう。
お酒を飲み過ぎる生活習慣が、
その人を命に係わる病気に陥れる。
お酒の量を控えるか、禁酒しないのならば、
やはり同じように病気になってしまうのだ。

「病気になる前の元の状態に戻りたい」
と強く望む人の心のどこかには、
病気になる前と同じように
自分のやりたいようにしたい、
という願望が隠れている。
しかし、病気になる前に
自分がしていたことと全く同じことを
回復後にしたならば、
再び同じように病気になるだろう。

病気になる前の自分の在り方に
問題があったために病気になった。
でも、本人はそのことに気づいていない。
自分の生活習慣が良くなかったから、
自分の在り方に問題があったから、
病気という形で「在り方を変えがほうがよい」
というメッセージが降りてきた。
再び同じ過ちを犯さないよう、
自分の在り方を望ましい方向に変えることが
求められているのだ。

私の身近には
6年前に鬱病を発症した家族がいる。
その家族は未だに抗うつ剤を服用している。
彼の身体の状態は6年前に比べればかなり良く、
今ではほぼ寛解した状態だ。
生活も普通にできている。

そんな彼も、鬱病発症前と同じようには
戻れない身体になった。
一番顕著に見られるのは「睡眠」のこと。
病気になる前、彼は夜更かしが大好きで、
夜中の2時3時まで
起きていることがしばしばだった。
ある時には夜中まで仕事していたし、
時には真夜中に
パソコンゲームをしていることもあった。

しかし、鬱病発症以来、
寝ている時間が非常に長くなった。
寝ても寝てもまだ足りないのか?
と思うほど、寝ている時間が長い時もあった。
今では、大分睡眠時間も平均化されて、
理想的な睡眠時間に変わってきた。

昔のように夜更かしが簡単にできれば、
仕事やパーソナル面でも時間が沢山ある。
しかし、そういう生活習慣が
彼を病気にする原因になったので、
病気になる以前のように戻らないほうが
彼にとっては望ましいことだ。

病気になることにより、
自分の生活習慣や在り方を
無理矢理変えざるを得なかった。
自分の好きなようにできなくて、
残念に思う気持ちは分かるけれど、
この新しいやり方のほうが
心身の健康のためには役立つ。
だから、元のように戻らないほうがいい。

自分にとって不都合だったり、
望ましくないことだと感じても、
そうしなければならない状況になった時は、
「今のままでは問題があり、
やり方を変えたほうが、自分もラクになる」
と捉えたほうが賢明だ。
そして、それまでのやり方に
固執しないほうがよい。

ということで、今回は、
病気になる前の元の状態に
なぜ、戻らないほうがよいのかについて、
私が考えることをお話してみた。