怒りや悲しみ、不安といった
ネガティブな感情は、
私たちを苦しめることが多いです。
そしてときには、
その影響で日常生活に
支障をきたすこともあるでしょう。
けれども、ネガティブな感情は
人間としてごく自然なものであり、
必ずしも悪いものではありません。
大切なのは、
それらの感情を否定せず、
上手に向き合うことです。
この記事では、ネガティブ感情と
上手に付き合うためのヒントを
お話しします。
ネガティブな感情と適切に付き合い、
より豊かで充実した日々を
送ることができるでしょう。
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人間は、感情豊かな生き物です。
うれしい、楽しい、安心する、
満たされる、感謝する、誇らしい、
わくわくするといった
ポジティブな感情もあれば、
悲しい、イライラする、不安になる、
寂しい、悔しい、恥ずかしい、
虚しいなどの
ネガティブな感情もあります。
どのような感情も
人間にとって自然なものであり、
決して悪いものではありません。
けれども、多くの人は
ネガティブな感情を
「良くないもの」と思い込み、
「こんなことを考えてはいけない」
「早く忘れなくては」と、
つい否定してしまいがちです。
ところが、そうした対応こそが、
かえってネガティブな感情に
苦しむ原因になるのです。
感情は、
押さえ込もうとすればするほど
心の奥に蓄積し、思いがけないときに
望ましくない形で
あふれ出てしまうことがあるからです。
ポジティブ心理学者の
タル・ベン・シャハーによれば、
真の幸福に近づくためには、
逆説的ではありますが、
不快であってもネガティブな感情を
そのまま認めることが欠かせない
といいます。
ネガティブな感情がわいてきたときには、
まずはその存在を
素直に認めてあげましょう。
「今、私は不安を感じているんだね」
「悲しい気持ちになっているんだね」と、
心の中でそっと声をかけるように
意識してみるのもよいでしょう。
つらい気持ちを抱えている自分を、
そのまま受け入れてあげることが
大切なのです。
もし
「そんな自分を受け入れられない」
と感じるときがあっても、
その「受け入れられない」という思いさえも
否定せずに認めてあげましょう。
そうして感情を味わっていくうちに、
不思議なことに、その不快感も
少しずつやわらいでいくものです。
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どんな感情でも
受け入れることが大切だ
と分かっていても、
うまくできないときもあるでしょう。
特に、怒りの気持ちが強く
どうにもならないように感じることも
あるかもしれません。
そんなときは、心にたまった思いを
外に吐き出すことで、
気持ちが少し軽くなることがあります。
ここでおすすめしたいのは、
胸の奥にある思いを
紙に書き出す方法です。
紙とペンを用意して、
心の中にあることをすべて
吐き出すように書いてみましょう。
誰かに見せるものではないので、
遠慮はいりません。
何枚でも、気が済むまで
書き続けてください。
汚い言葉でも、ののしり言葉でも、
字が乱れてもかまいません。
大切なのは、心の中に
押し込めていた感情を
すべて外に出すことです。
書き終えたら、安全な場所で
紙を燃やしてみましょう。
燃えていく様子を眺めながら、
自分の中にあるネガティブな思いも
一緒に手放していくイメージを
してみてください。
すると、少しずつ
心が軽くなっていくのを
感じられるでしょう。
書き終わったあとは、
お気に入りの飲み物を用意して、
ゆったりとした時間を過ごしましょう。
そして、
重たい思いと真剣に向き合った自分に
「よく頑張ったね」と、
優しい言葉をかけて
労ってあげてください。
一度で効果を
感じられないこともありますが、
その場合は、少し時間をおいて
何度か繰り返してみましょう。
抱えている思いや感情の深さは
人それぞれですから、
心が軽くなるまでにかかる時間も
違って当然です。
ネガティブな気持ちを
完全に消そうとするのではなく、
「少しでも軽くなればそれでいい」
という気持ちで、
気楽に取り組んでみましょう。
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ネガティブな感情は、私たちに
さまざまなことを教えてくれる
大切なサインでもあります。
たとえば、怒りが
自分の大切にしているものが
踏みにじられたことを
知らせてくれることもあれば、
悲しみが失ったものの価値に
気づかせてくれることもあるでしょう。
不安もまた、
これから起こるかもしれない危険や
問題に備えるきっかけを
与えてくれることもあるのです。
このように、ネガティブな感情には、
意味や役割があることも
少なくありません。
一方で、あまり意味を持たず、
むしろ心を疲弊させてしまう
ネガティブ感情も存在します。
ポジティブ心理学者の
バーバラ・フレドリクソンは、
「不適切で不当な」ネガティブ感情がある
と指摘しています。
これは、心の健康や成長にとって
建設的ではなく、むしろ
有害になってしまう感情のことです。
たとえば、
自分のコンプレックスを気にしすぎて
落ち込みから抜け出せなくなったり、
過去の失敗を何度も思い返して
自己嫌悪に陥ったりすることがあります。
こうした感情は、自分を守るどころか、
かえって苦しめてしまう
「不適切で不当な」ネガティブ感情の一例
といえるでしょう。
このような感情の背景には、
しばしば「認知の歪み」が隠れています。
私たちは人生の中で
さまざまな価値観や信念を
形成していきますが、
その中には事実に基づかない
誤った認識が
含まれていることも多いです。
心理学では、
このような偏った考え方を
「認知の歪み」と呼びます。
認知の歪みの例としては、
「一度失敗したから、
自分は何をしてもダメだ」という極端な思い込みや、
「完璧でなければ価値がない」という白黒思考、
「そう感じるから、そうに違いない」
という根拠のない推測などがあります。
こうした歪んだ考え方が、
必要以上にネガティブな感情を増幅し
自分自身を苦しめている可能性があるのです。
もし、あなたがいつも同じようなことで
苦しい思いをしているのなら、
それが認知の歪みから生じていないか、
一度立ち止まって
見つめ直してみる価値があるでしょう。
認知の歪みについて
さらに詳しく知りたい方は、
別の記事で詳しく紹介していますので、
ぜひそちらもご覧ください。
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不適切で不当なネガティブ感情を
強める要因のひとつに、
「反芻(はんすう)」があります。
バーバラ・フレドリクソンによると、
反芻とは「ネガティブな思考や感情が
頭の中で何度も繰り返される状態」
を指します。
反芻しているとき、私たちは
「状況をもっと深く考えなくては」
「しっかり整理しなければ」と思いがちです。
しかし実際には、思考は
前向きな方向へ進んでいないことが
少なくありません。
問題をぐるぐると考え続けるうちに、
出口の見えないループにはまり込み、
気力や自信を少しずつ
失ってしまうでしょう。
この状態から抜け出すためには、
まず「今、自分は反芻している」
と気づくことが第一歩です。
そのうえで、
次のステップを試してみましょう。
最初に、
「いったん考えるのをやめよう」
と決意します。
「今は考えないでおこう」
と自分に言い聞かせ、
その思考を
一度わきに置いてみてください。
次に、散歩をする、音楽を聴く、
好きな香りを楽しむなど、
気分を切り替える行動をとりましょう。
こうすることで、頭を反芻のループから
少しずつ離すことができるでしょう。
そして心が落ち着いてきたら、
その思考を冷静に
見つめ直してみましょう。
嫌な感情を
引き起こしている思考に対して
反論を試みてみるのです。
そうすることで、
バランスの取れた視点を
取り戻せるかもしれません。
反論の具体的な方法については、
このあと詳しく紹介します。
さらに、反芻に陥りやすい人には
「ウォーリー・リダクション」
という方法も効果的です。
これは「心配する時間を
あらかじめ決めておく」というものです。
たとえば、夕方7時から15分だけを
「悩む時間」と決め、その時間にだけ
問題について考えます。
夜になってまた不安が浮かんできたら、
「そのことは、決めた時間に考えよう」
と心の中で切り替えてみるのです。
こうした工夫を続けることで、
頭の中で延々と考え続けるのを防ぎ、
心を休ませやすくなるでしょう。
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反芻思考から抜け出すためには、
意識して気分を
切り替えることが大切です。
ここでは、日常生活の中で
取り入れやすい方法を
いくつかご紹介しましょう。
まず、手軽で効果的なのは
「体を動かすこと」です。
軽く外を歩くだけでも
十分な効果があるでしょう。
外の空気を吸いながら歩いていると、
自然と気分が和らぎ、
頭の中のもやもやが少しずつ
晴れていくことが多いからです。
ストレッチやヨガ、ジョギングなど、
自分に合った運動を
取り入れてみるのもよいでしょう。
音楽を聴いたり、
好きな本を読んだりするのも
おすすめです。
さらに、創作活動に取り組むことも
気分転換にとても役立ちます。
絵を描く、料理をする、
ガーデニングを楽しむ、
手芸に没頭するなど、
手を使って何かを生み出す活動は、
ネガティブな思考から意識を離すのに
効果的です。
加えて、完成したときには
達成感や充実感も得られるでしょう。
また、信頼できる人との会話も
心を軽くしてくれるものです。
家族や友人と
他愛ない話をするだけでも、
気持ちがほっと和らぐでしょう。
ペットと過ごす時間も、
多くの人にとって
心を癒やす大切なひとときとなるでしょう。
さらに、
入浴時間をゆったりと取ったり、
好きな香りのアロマを
楽しんだりするなど、
五感を使ったリラクゼーションも有効です。
これらの方法は、
心と体の両方をリラックスさせ、
ストレスホルモンの分泌を
抑える働きがあることが
研究でも示されています。
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気分転換によって
気持ちが少し落ち着いてきたら、
自分を落ち込ませている思考に対して、
反論を試みてみましょう。
ここでは、
心理学で広く用いられている
「ABCDE理論」をご紹介します。
ABCDE理論は、
次の五つの要素から構成されています。
A(Activating Event)は
「嫌な感情を引き起こした出来事」
B(Belief)は
「そのときに考えたこと(思い込み)」
C(Consequence)は
「その結果として生じた感情や行動」
D(Dispute)は
「Bに対する反論」
E(Effect)は
「反論したことで得られた効果」
を指します。
具体的な例で見てみましょう。
たとえば、入社試験で不合格となり、
絶望的な気持ちに
なったとしましょう。
A(出来事)は「入社試験で落ちた」
B(思い込み)は
「自分は何をしてもダメな人間で、無能だ」
C(結果)は
「ひどく落ち込んで、
何もする気が起きない」という状態です。
ここで重要なのが、D(反論)です。
B(思い込み)に対して、
反論できないでしょうか?
たとえば――
「ちょっと待てよ、まだ一社しか
受けていないじゃないか。
本当にいつも失敗ばかり
しているのだろうか?
そんなことはないはずだ。
これまでにも成功した経験はあるし、
一度の失敗ですべてが決まるわけでもない」
このように、
不快な感情を引き起こした思考に対して、
本当にそれが正しいのかと問い、
反論を考えてみるのです。
すると、E(効果)として
「そうだよ、別の会社に
挑戦してみてもいいだろう」と、
前向きな気持ちに
切り替えられるかもしれません。
この方法のポイントは、
落ち込んでいる自分に対して、
信頼できる友人がやさしく諭すように、
客観的で理性的な視点を
意図的に与えることです。
極端な思い込みに
バランスの取れた見方を差し込むことで、
より現実的で建設的な認識に
近づけるでしょう。
認知の歪みを緩めるために
この作業を意識的に行うと、
自分のネガティブな思考パターンに
気づきやすくなります。
そして、反論を繰り返すうちに、
心を軽くしてくれる
新しい考え方へと
置き換える力が育っていくでしょう。
こうした練習を重ねていくことで、
より安定した心理状態を
保ちやすくなるはずです。
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この記事では、
ネガティブな感情との
上手な付き合い方について
お伝えしました。
ネガティブな感情は、決して
心地よいものではありませんが、
人間にとってごく自然なものです。
できることなら、
そうした気持ちを否定せずに、
「今、自分はこう感じているんだな」
と素直に認めてあげましょう。
ネガティブな感情も、
しっかり味わいながら受け止めることで、
少しずつその強さが
やわらいでいくこともあるからです。
怒りなどの感情が強く、
冷静に向き合うのが難しいときには、
胸の奥にたまった思いを紙に書き出し、
その紙を燃やしてみる方法もおすすめです。
ネガティブな感情は、ときに
私たちに大切な気づきを
与えてくれる場合もありますが、
中には役に立たない感情もあります。
それは「認知の歪み」から生まれた
ネガティブな感情です。
もし、同じようなつらい気持ちが
何度も繰り返し湧いてくるようなら、
それは「不当で不適切な感情」
かもしれません。
その場合、否定的な思考を繰り返す
「反芻(はんすう)」の状態に
陥っている可能性もあるでしょう。
反芻から抜け出すために大切なのは、
「今、自分は反芻している」と気づき、
いったんその思考を止める意識を
持つことです。
そのときに役立つのが、
気分を切り替える行動を取り入れること、
そして気持ちが落ち着いたタイミングで、
ネガティブな感情を生み出している考え方に
反論を試みてみることです。
その際に有効なのが、
今回ご紹介した「ABCDE理論」です。
もし、ネガティブな感情に
悩まされることが多いと感じているなら、
ぜひこの記事で紹介した方法を
参考にしてみてください。
すべてを実践する必要はありません。
「これならできそう」
と感じることだけでも
取り入れてみましょう。
ネガティブな感情と
うまく付き合いながら、
より心が穏やかで充実した日々を
過ごせるようになることを、
心から願っています。