家庭でも職場でも、
相手の望ましくない行動を
指摘しなければならない場面は
あると思います。
そんなとき、
ストレートに欠点を指摘すると、
相手は防御的になり、
せっかくのアドバイスも
受け入れてもらえないでしょう。
この記事では、相手の心を開き、
建設的な変化を促す、
効果的な指摘方法について、
具体例を交えながら解説します。
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「サンドイッチ・フィードバック」とは、
伝えたい指摘を
肯定的な言葉で挟み込む
コミュニケーション手法です。
はじめに相手のよい点や強みを
認めて言葉にし、
次に改善してほしい点を
具体的に伝えます。
そのうえで建設的な提案を添え、
最後にもう一度、
その人のよい点を
強調して締めくくります。
この構造は、
指摘という少し苦みのある「フィリング」を、
肯定という柔らかな「パン」で包み込む、
まさにサンドイッチのようなイメージです。
この手法の本質は、
否定されたという思いを抱かせにくくし、
その人の成長を
そっと後押しする姿勢にあります。
人は誰でも、
認められたいという
基本的な欲求を持っています。
最初に肯定的な言葉をかけることで
心理的な壁が和らぎ、
その後の指摘も
受け止めやすくなるのです。
そして最後に
再び肯定することで、
「自分は信頼されている」
「成長できる可能性がある」という
前向きな印象を残すことができます。
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それでは、実際の場面で
どのようにこの手法を使うのか、
具体的な例を見ていきましょう。
新人社員のAさんは、
いつも熱心に仕事に取り組んでいますが、
報告書に誤字脱字が多いという
問題があります。
上司のBさんは、Aさんに
次のように伝えました。
「Aさん、
今月の営業報告書を読ませてもらったよ。
顧客のニーズを的確に捉えた分析は
本当に素晴らしいね。
君の観察力には感心させられるよ。
ただ、いくつか誤字や
表記の揺れが見られたんだ。
せっかくの良い内容が
読みづらくなってしまうのは
もったいない。
提出前に一度、
パソコンの校正機能を使って
チェックする習慣をつけてみては
どうかな?
君の分析力と注意深さが
組み合わされば、
完璧な報告書になると思うよ。
期待しているからね」
この例では、
まずAさんの分析力という強みを
具体的に褒めています。
次に、誤字脱字という改善点を
事実として伝え、
その影響を説明しています。
そして、具体的な解決策として
校正機能の活用を提案し、
最後にAさんの潜在能力を
信じているというメッセージで
締めくくっています。
もう一つの例を見てみましょう。
主婦のCさんは、夫のDさんに
家事の分担について
話したいと考えていました。
「あなたって、仕事で疲れているのに、
週末は子どもたちを
公園に連れて行ってくれて、
本当に良いパパだと思う。
子どもたちもすごく喜んでるわ。
ただ、最近、
平日の夕食後の片付けを
私一人でやることが多くて、
正直、少し疲れてしまっているの。
もし可能なら、週に2~3日でいいから、
食器を洗ってもらえたら
本当に助かるんだけど。
あなたが協力してくれると、
私も余裕ができて、
家族との時間をもっと楽しめると思うの。
いつも家族のために
頑張ってくれてありがとう」
この例では、まず
夫の育児への関わりを認めています。
次に、自分の困っている状況を
「Iメッセージ」で伝え、
具体的で実現可能な提案をしています。
そして、協力することで得られる
プラスの効果を示し、
最後に感謝の言葉で締めくくっています。
3つ目の例として、
学校での場面を考えてみましょう。
中学校の担任教師であるE先生は、
授業中に私語が多い生徒のFくんに
話しかけます。
「Fくん、この前の理科の実験、
君のアイデアのおかげで
クラス全体が盛り上がったよね。
君の発想力は本当に
クラスの宝だと思っているよ。
ただ、最近の授業中、
隣の席の友達とよく話しているのが
気になっているんだ。
君が話していると、
周りの子も集中できなくなってしまうし、
君自身も大事な説明を
聞き逃してしまうかもしれない。
もし話したいことがあったら、
授業の合間の休憩時間や放課後に
話すようにしてみないか?
Fくんの集中力と創造力が合わされば、
もっと素晴らしい成果が出せると
先生は信じているよ」
この例では、生徒の創造性という長所を
具体的なエピソードと共に認めています。
次に、私語という問題行動と
その影響を説明し、
代替行動を提案しています。
最後に、生徒の可能性への信頼を表明して、
前向きな気持ちで終わらせています。
4つ目の例として、ビジネスシーンでの
プレゼンテーションに関する
フィードバックを見てみましょう。
マネージャーのGさんは、
部下のHさんに次のように伝えます。
「Hさん、今日のプレゼン、
データの収集と分析が本当に緻密で、
根拠がしっかりしていたね。
あなたの準備の丁寧さは
いつも素晴らしいと思っています。
一点だけ気になったのは、
スライドの情報量が多くて、
聞き手が要点を
掴みにくかったかもしれない
ということなんだ。
次回は、一枚のスライドに
伝えたいメッセージを一つに絞って、
キーワードだけを大きく表示する方法を
試してみてはどうかな?
あなたの丁寧な準備と
わかりやすい伝え方が組み合わされば、
クライアントへの提案力は
さらに向上すると思うよ。
期待しているからね」
この例では、
準備の丁寧さという強みを認め、
スライドの情報過多という改善点を指摘し、
具体的な改善方法を提案し、
最後に期待を込めたメッセージで
締めくくっています。
いずれの例も、
「褒め言葉」(パン)
「指摘点」(フィリング)
「褒め言葉」(パン)
という構造になっていることを、
ご理解いただけたと思います。
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サンドイッチ・フィードバックが
効果的である理由は、
人間の心理メカニズムに
深く関係しています。
まず、心理学における「初頭効果」と
「親近効果」が作用します。
初頭効果とは、最初に受け取った情報が
強く印象に残る現象で、
親近効果とは、最後に受け取った情報が
記憶に残りやすい現象です。
サンドイッチ・フィードバックでは、
最初と最後をポジティブな内容にすることで、
相手の記憶に
良い印象を残すことができるのです。
さらに、この手法は
相手の自己防衛本能を
和らげる効果があります。
人は批判されると、
本能的に防御姿勢をとり、
相手の言葉を受け入れにくく
なるものです。
しかし、最初に
自分の良い点を認めてもらうことで、
「この人は自分を
否定しようとしているのではなく、
成長を願ってくれている」
と感じることができるでしょう。
心理的な安全性が
確保された状態であれば、
人は自分の欠点や改善点にも
向き合う余裕が生まれるのです。
また、サンドイッチ・フィードバックは、
相手に具体的な行動変容の道筋を示す
という点でも優れています。
単に「これがダメ」と指摘するだけでは、
相手は「どうすればいいのか」が
わからないかもしれません。
建設的な提案を含めることで、
相手は次にどう行動すればよいかが
明確になり、
実際に改善に取り組みやすくなるでしょう。
そして、最後の肯定的な言葉が、
「やってみよう」という動機づけを
強化してくれるのです。
この手法のもう一つの重要な効果は、
人間関係そのものを強化することです。
批判だけの指摘は
関係を悪化させることが多いですが、
サンドイッチ・フィードバックは
「あなたを大切に思っている」
というメッセージが
伝わりやすいのです。
相手は「この人は自分の味方だ」と感じ、
信頼関係が深まるでしょう。
信頼関係が築かれていれば、
今後のコミュニケーションもスムーズになり、
より率直な対話が可能になるのです。
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サンドイッチ・フィードバックを
効果的に行うためには、
いくつかの重要なポイントを
押さえておく必要があります。
まず最も重要なのは、
最初の肯定的な言葉が
心から出た本物であることです。
形式的なお世辞や、
とってつけたような褒め言葉は
相手に見透かされてしまうからです。
相手の具体的な行動や成果、
性格の良い面を日頃から観察し、
心から認められる点を
見つけておくとよいでしょう。
それから、「いつも」「本当に」
といった言葉を添えることで、
その評価が一時的なものではなく、
継続的な観察に基づいていることを
伝えられます。
次に、指摘する内容は
具体的で事実に基づいたもの
である必要があります。
「あなたはいつも遅い」
といった曖昧で感情的な表現ではなく、
「今週の会議に2回、10分遅れて到着したね」
というように、具体的な事実を伝えます。
また、
相手の人格を否定するのではなく、
あくまでも行動や結果に
焦点を当てることが大切です。
「あなたは無責任だ」ではなく、
「締め切りが守られなかったことで、
チームに影響が出てしまった」
という表現を心がけましょう。
提案する改善策は、十分実現可能で
具体的なものでなければなりません。
理想論や抽象的なアドバイスではなく、
「明日から実践できる」レベルの
具体性が必要なのです。
また、
可能であれば複数の選択肢を提示し、
相手に選ばせるとよいでしょう。
そうすることで、
相手の主体性を
尊重することもできます。
「こうしなさい」という命令ではなく、
「こういう方法もあるけれど、どう思う?」
という対話的なアプローチが効果的です。
タイミングもとても重要な要素です。
相手が疲れていたり、
感情的になっていたりする時には、
どんなに丁寧なフィードバックも
受け入れられにくいものです。
相手が落ち着いている時、
プライバシーが確保された場所で、
十分な時間を取って
話すことが理想的です。
また、問題が起きてから
あまり時間が経ちすぎていないうちに、
記憶が新鮮なうちに
フィードバックを行うことも
効果を高めます。
そして、フィードバックの後には、
相手の反応を聞く姿勢も
忘れてはなりません。
一方的に話すのではなく、
「どう思う?」
「何か困っていることはある?」と
相手の意見や感情を尋ねることで、
対話が生まれるでしょう。
相手が自分の状況や考えを
説明する機会を持つことで、
より深い理解と納得が生まれ、
実際の行動変容に
つながりやすくなるでしょう。
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この記事では、相手の心を開き、
前向きな変化を促すための
効果的な指摘方法として、
「サンドイッチ・フィードバック」
という手法をご紹介しました。
この手法は、職場や家庭、学校など、
さまざまな人間関係の場面で活かせる、
汎用性の高い
コミュニケーションの工夫です。
身につけることで、
言いにくい指摘であっても
相手の成長につなげやすくなり、
同時に信頼関係を
育てていくことができるでしょう。
はじめのうちは
意識して取り入れる必要が
あるかもしれませんが、
使い続けていくうちに、
自然とこの流れで
話せるようになるでしょう。
大切なのは、テクニックとして
形だけをなぞることではなく、
相手の成長を心から願う姿勢です。
その誠実な思いがあってこそ、
言葉は自然に相手の心に届き、
前向きな変化を
生み出していくでしょう。
今日から、あなたも
この手法を意識して
使ってみてはいかがでしょうか?
きっと、周囲との関係に
穏やかな変化が
感じられるはずです。