疲れていても休めない!
完璧にできない自分を許せない!
シンドクても弱音を吐けない!
なぜなら、心の中で
自分を駆り立てている声が
そうさせるからです。
このような心の声を
「ドライバー」と呼びます。
この記事では、
ドライバーの正体と
その背景にあるものを明らかにし、
ドライバーを緩め
自分らしく幸せに生きるための
ヒントを探ります。
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私たちが日常の中で
たびたび感じる
「もっと頑張らなければ!」
「完璧でなければいけない!」
「感情を出してはいけない!」
といった内なる声は、
心理学の世界では
「ドライバー」と呼ばれています。
ドライバーとは、
幼い頃に親や教師から
「もっと頑張りなさい!」
「間違えないように気をつけなさい!」
「弱音を吐いてはいけません!」
といった言葉を、教育の一環として
受け取ったことに由来します。
こうした言葉は
「今のままでは足りない。
もっと○○でなければならない」
という形で心の奥に深く刻まれ、
大人になった今も
無意識のうちに
私たちを突き動かしているのです。
これは交流分析における概念で、
自分自身に課している
「〜すべき」という
内的な命令として働きます。
子どもにとって、
親から認められ、愛されることは
生きるために欠かせないものでした。
そのため、
親の言うことに従うことは、
自分自身を守るための
大切な手段でもあったのです。
ドライバーは一見、
やる気や責任感を
高めてくれるように
見えるかもしれません。
しかし過度に自分を追い込み、
心の自由を奪う要因にも
なりかねないでしょう。
大人になった今も
その影響から抜け出せず、
本来の自分らしさを見失い、
必要以上のストレスや疲れを
抱えてしまうことも
少なくないからです。
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IT企業で働く田中さん(32歳)は、
毎日終電まで残業し、
週末も自宅で仕事をしている状態です。
体調を崩しても休めないのは、
「もっと頑張らなければ」という思いに
常に追い立てられているからです。
友人から「たまには休んで
リフレッシュしたら?」
と声をかけられても、
田中さんは休むことに
罪悪感を覚えてしまいます。
彼の中には「気を抜くことは罪であり、
許されない」という感覚があるからです。
田中さんを無意識に
突き動かしているのは、
「一生懸命やれ」というドライバーです。
子どもの頃から「努力しなさい」
「怠けてはいけません」
「今のままで満足してはいけません」
といったメッセージを
繰り返し受け取ってきた結果、
いつの間にか
自分を休ませることができず、
楽しむことさえ
許せなくなってしまったのです。
このドライバーを持つ人は、
どんな場面でも力が入り、
気ままに楽しむことが
できない傾向にあります。
目標を達成しても満足する間もなく、
「もっと頑張らなきゃ」
「まだまだやれるはず」
と自分を追い立ててしまうのです。
たとえ今の会社が自分に合わず、
つらいと感じていても
「逃げてはいけない」
「もっと頑張らなければ」
と心の声に追い立てられ、
転職を視野に入れることができません。
一生懸命働くことで
経済的な安定を得たとしても、
心にゆとりを持ち、
人生を味わうことができない——
それが、このドライバーに
縛られている人の特徴です。
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会計士の佐藤さん(28歳)は、
どんなによい仕事をしても
「これで十分」と思うことができません。
同僚から高く評価されても、
自分では「まだまだ不十分だ」
と感じてしまいます。
プレゼンテーションの準備にも
必要以上に時間をかけ、
常に完璧を求め続けています。
佐藤さんを無意識に支配しているのは、
「完全であれ」というドライバーです。
幼い頃から
「きちんとやりなさい」
「ミスをしてはいけません」
「失敗は恥ずかしいことです」
といったメッセージを
繰り返し受け取った結果、
完璧であろうとする意識が
心に深く根づいたのです。
このドライバーが強い人は、
どれだけ努力しても満足感を得られず、
いつも「まだ足りない」と感じています。
うまくいっても
反省点ばかりに目が向き、
心から達成感を味わえないのです。
他人に対しても
同じように完璧を求めるため、
厳しい評価を下しがちで、
人間関係に摩擦が生じることも
しばしばあります。
また、
新しいことを始めるときにも
「まだ準備が整っていない」と感じ、
なかなか一歩を踏み出せません。
完璧主義は、一見すると
質の高い成果を生み出す
原動力のように見えますが、
実際には、創造性や行動力を奪う
要因になりがちです。
さらに、
完璧にできない自分を
責めてしまう傾向もあり、
心身に大きな負担をかけることも
少なくありません。
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営業マンの山田さん(35歳)は、
どんな困難に直面しても
感情を表に出すことがありません。
恋人との別れで深く傷ついても、
友人たちには
「全然平気だよ」と強がります。
会議で意見が対立したときも、
感情を見せず、
理論で相手をねじ伏せようとします。
山田さんを
無意識に突き動かしているのは、
「強くあれ」というドライバーです。
子どもの頃から
「弱音を吐くな」「泣くな」
「いつも強くあれ」
といったメッセージを繰り返し受け取り、
弱さを見せることを許されずに
育ってきました。
このドライバーを持つ人は、
自分の感情を素直に表現できません。
悲しみや不安、怒りといった
自然な感情を心の奥に押し込み、
その代わりに「正しさ」や「理屈」で
自分を守ろうとするのです。
しかし、
感情を抑え続けることで、
他者と深くつながることが難しくなり、
孤独感を抱えやすくなります。
さらに、
自分の感情を感じることさえ
禁じているため、本当は
何を求めているのかが分からなくなり、
人生の方向性を
見失ってしまうこともあるのです。
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保育士の鈴木さん(26歳)は、
同僚からの誘いや頼み事を
断ることができません。
休日に苦手な先輩から
映画に誘われても、
「忙しい」「お金がない」といった曖昧な理由で
断ろうとしますが、
結局は断り切れずに参加してしまいます。
職場でも、
本来は自分の担当ではない仕事を頼まれても
「いいですよ」と引き受け、
自分の昼休みを犠牲にすることも
あるのです。
内心では
「もっと自分の時間を大切にしたい」
と思っているのに、
それを表現できません。
鈴木さんを支配しているのは、
「相手を喜ばせろ」というドライバーです。
子どもの頃から
「他人を不機嫌にしてはいけません」
「自分は我慢しても、相手を喜ばせなさい」
といったメッセージを受け取り、
自分のニーズより
相手のニーズを優先するようになりました。
このドライバーを持つ人は、
自分の欲求を後回しにして
我慢することが多いため、
人間関係で大きなストレスを抱えがちです。
はっきりと「ノー」と言えないため、
本当は嫌なのに無理に参加したり、
苦手な人との関係を断ち切れずに
悩み続けてしまうのです。
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商社に勤める高橋さん(40歳)は、
無駄な時間を過ごすことが
大嫌いです。
車の運転中は渋滞にイライラし、
待ち合わせでは
相手のわずかな遅刻にも
腹を立てます。
妻が日常の出来事を話していても、
「結論は何?」「で、何が言いたいの?」
と話を急がせてしまうのです。
家族で遊園地に行ったときも、
効率的にアトラクションを回るプランを
立てましたが、子どもたちが
同じ乗り物に何度も乗りたがると
「時間がもったいない」
とイライラしてしまいました。
その結果、子どもたちから
「お父さんといると楽しくない」
と言われてしまったのです。
高橋さんを支配しているのは、
「急げ」というドライバーです。
子どもの頃から「急ぎなさい」
「早くしなさい」といったメッセージを
受け取り続けた結果、
常に時間に追われる感覚から
抜け出せなくなってしまったのでしょう。
このドライバーを持つ人は、
「今この瞬間」を楽しむことができません。
常に「次にやることは何か」が頭にあり、
目の前の美しい景色や
大切な人との時間を
心から味わえないのです。
心臓病の専門医
フリードマンとローゼンマンが発見した
「タイプA性格」の人々は、
まさにこの「急げ」のドライバーを
強く持っています。
彼らは仕事で高い成果を上げますが、
ストレスを溜めやすく、
心疾患のリスクが
通常の2倍に高まることも
知られているのです。
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ここまで
5つのドライバーについて
見てきましたが、
これらを悪者扱いする必要はありません。
なぜなら、ドライバーは
子どもの頃に自分を守るために身につけた、
ある種の「生きるための知恵」
だったからです。
「今まで
自分を守ってくれてありがとう」——
そう言って、ずっと頑張ってきた自分を、
まずはねぎらってあげましょう。
また、ドライバーには
良い側面もあります。
たとえば、一生懸命努力することで
大きな成果を生み出し、
完璧を目指すことで質の高い仕事ができ、
強さを持つことで困難を乗り越えられます。
相手を思いやることで
良好な人間関係を築き、
効率を求める姿勢は
生産性を高めてくれるでしょう。
問題なのは、こうしたドライバーに
「過剰に」突き動かされてしまうことです。
バランスを失えば、
自分を必要以上に追い込み、
本来の自分らしさを見失い、
意図しない生き方に
流されてしまうこともあるでしょう
大切なのは、
自分の中にあるドライバーに気づき、
それに振り回されすぎないよう
注意することです。
気づき、そして
少しずつ緩めていくことで、
自分らしく、バランスの取れた生活を
送りやすくなるでしょう。
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ドライバーを緩めるための
最初のステップは、
自分がどのようなドライバーを
持っているのかを自覚することです。
「なぜ私は、休むことに
罪悪感を覚えるのだろう?」
「なぜ完璧でないと
気がすまないのだろう?」
「なぜ素直な感情を
表に出せないのだろう?」
「なぜ断ることが
できないのだろう?」
「なぜ常に
時間に追われているように
感じるのだろう?」
自問自答することで、
自分のドライバーが
どのように形成されたのか、
その背景が
見えてくるかもしれません。
多くの人は
複数のドライバーを持っています。
「一生懸命やれ」と
「完全であれ」を同時に持つ人、
「強くあれ」と「急げ」を併せ持つ人など、
さまざまな組み合わせがあるのです。
また、今回紹介したもの以外にも
多くのドライバーが存在します。
気づくだけでも、その影響力は
少しずつ弱まり始めるでしょう。
ドライバーに気づけたなら、
次のステップは、
ドライバーに動かされてきた自分を
ねぎらってあげることです。
これも、
とても大切なプロセスです。
「一生懸命頑張ってきたんだね」
「完璧を目指して努力してきたんだね」
「強く生きようとしてきたんだね」
「相手を思いやって我慢してきたんだね」
「効率を求めて走り続けてきたんだね」
このように、これまでの自分の生き方を
否定するのではなく、
ねぎらいの気持ちをもって
受け入れることが大切です。
ドライバーは、
幼い頃に親から愛され、
認められるために
必要だった生存戦略でした。
それは自分を守るための
知恵でもあったのです。
そのことを理解し、
「よく頑張ってきたね」
と自分に声をかけてあげてください。
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自分のドライバーを受け入れたら、
次は心の許可証(アロワー)を
自分に与えてあげましょう。
これは、
ドライバーとは正反対の許可を
与えることで
バランスを取り戻す方法です。
「一生懸命やれ」のドライバーには、
「楽しんでもいいんだよ」
「適度に力を抜いてもいいんだよ」
という許可を自分に与えてあげます。
「完全であれ」のドライバーには、
「不完全でもいいんだよ」
「失敗してもいいんだよ」
「今の自分で十分価値があるんだよ」と。
「強くあれ」のドライバーには、
「弱さを見せてもいいんだよ」
「助けを求めてもいいんだよ」と。
「相手を喜ばせろ」のドライバーには、
「自分の気持ちを優先してもいいんだよ」
「嫌ならノーと言ってもいいんだよ」
「自分を大切にしてもいいんだよ」と。
そして、「急げ」のドライバーには、
「ゆっくりしてもいいんだよ」
「今この瞬間を味わってもいいんだよ」
「非効率でもいいんだよ」という許可を
自分自身に与えてあげましょう。
大切なのは、これらの許可を
「〜しなければならない」
という新しい義務にしないことです。
「楽しまなければならない」
「感情を出さなければならない」では、
それもまた自分を
縛ることになってしまうからです。
「〜してもいいし、しなくてもいい」という、
ゆるやかで柔軟な姿勢で
自分に許可を与えることが
ポイントです。
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ドライバーを緩める作業は、
一朝一夕に
進むものではありません。
長い年月をかけて身についた
思考や行動のパターンを変えるには、
時間と忍耐が必要だからです。
もし
「今、『完全であれ』のドライバーが
働いているな」と気づけたなら、
意識して「不完全でもいいんだよ」
と自分に言ってあげましょう。
最初はその言葉が
しっくりこないかもしれません。
それも自然なことです。
それでも繰り返し
自分に許しを与えていけば、
少しずつ心に馴染み、
受け入れられるように
なっていくでしょう。
ドライバーから解放されると、
本来の自分らしさが
再び息を吹き返します。
「一生懸命やれ」から解放されれば、
仕事と遊びのバランスが整い、
人生を楽しめるようになるでしょう。
「完全であれ」から解放されれば、
失敗を恐れずに新しいことへ挑戦でき、
自分の可能性も広がるでしょう。
「強くあれ」から解放されれば、
感情を素直に表現できるようになり、
他者との深いつながりを
築きやすくなるでしょう。
「相手を喜ばせろ」から解放されれば、
自分の気持ちを大切にしながら、
相手と対等で健全な関係を
育んでいけることでしょう。
そして「急げ」から解放されれば、
今この瞬間をじっくり味わえ、
人生そのものが
豊かに感じられるでしょう。
ドライバーを緩めることは、
よりバランスの取れた生活を可能にし、
人生の質そのものを
高めてくれるのです。
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この記事では、「ドライバー」とは何か、
その正体と背景、そして
ドライバーから少しずつ
自由になっていくための方法について
お伝えしました。
私たちの心の奥には、
「もっと頑張らなければ」
「完璧でいなければ」
「感情を出してはいけない」といった、
無意識のうちに
自分を追い立てる声が潜んでいます。
これらの声——ドライバーは、
子どもの頃に身につけた
大切な生きる術であり、
長い間私たちを守ってくれていた存在です。
しかし大人になった今、
それが行きすぎることで、
自分らしさを失い、
心の疲れを生んでしまうことも
少なくありません。
もし生きづらさを感じているなら、
まずは自分の心と向き合い、
自分の中にドライバーがないかどうか
探ってみてください。
ドライバーに
気づくことができたなら、
「よく頑張ってきたね」と自分を労い、
今後は「もうそうしなくてもいいんだよ」
と優しく許可を与えてあげましょう。
ドライバーと向き合い、
無理のない範囲で
小さな許可を自分自身に
与え続けることができれば、
やがてバランスを取り戻せるでしょう。
そしてそれは、自分らしく、
より豊かな人生を生きることへと
つながっていくでしょう。
今から、
ほんの少しでもかまいません。
自分自身に
許可を与えてあげましょう。
その小さな一歩が、
あなたをもっと軽やかで
心地よい生き方へと
導いてくれるはずです。