この記事では、
苦手な相手との距離を無理なく取って、
日常のストレスを軽減するためのヒントを
お伝えします。
心理学の視点から、
自分の心を守るためには
どのような点に注意すればよいのかを
掘り下げていきます。
相手との関係を悪化させることなく、
自分の領域に不当に踏み込まれたくない
と望む場合に活かせる、
実践的な内容です。
====
人間関係において
「苦手だな」と感じることは、
誰にでもあるでしょう。
私たち人間は
価値観や考え方も違いますし、
相性の問題もあるため、すべての人と
うまく付き合えるわけではありません。
相手の言動次第で、
拒否反応が生まれることもあります。
パーソナルな関係であれば、
嫌なら会わないという選択肢もありますが、
職場の先輩や上司の場合はそうはいきません。
自分から関わりを減らすのが難しい相手ほど、
「気まずくはなりたくないけれど、
相手からの侵入も避けたい」
と感じることでしょう。
そこで役立つのが、
「心理的な距離を取る」という考え方です。
「心理的な距離を取る」とは、
自分の心の領域に
相手が踏み込んでくるのを防ぐと同時に、
自分も相手の領域に
必要以上に入り込まないと決め、
相手との間に
はっきりとした境界線を引くことです。
そうすることで、
相手の言動に振り回されることなく、
心の平穏を保ちやすくなるでしょう。
ここで大切なのは、この距離の取り方を
誤解しないことです。
「心理的な距離を取る」とは、
相手を無下に扱ったり、
冷たい態度を取ったりすることでは
ありません。
自分の生活や心を守るために、
「これ以上踏み込まず、
これ以上踏み込まれない」
という境界線を心の中に設けることで、
無駄な時間や労力を使わず、
必要なエネルギーを温存し、
健全な人間関係を維持することが目的です。
そのためには、
挨拶や業務連絡などの
基本的なマナーはきちんと守りつつ、
プライベートな質問や
不当な要求には
上手に断ることが重要です。
無理に相手を遠ざけるのではなく、
必要以上に近づかないよう意識して、
自分にとって心地よいスペースを
確保することがポイントとなります。
これによって、
精神的な負担も軽減されるでしょう。
====
心理的な距離を取るために
最も効果的な方法の一つは、
「断る力」を身につけることです。
「断る力」とは文字通り、
受けたくない誘いや要求に対して
「ノー」と伝える勇気とスキルを
持つことを指します。
もちろん仕事の場面では
断れない場合もありますが、
パーソナルな領域においては、
嫌なことははっきりと
嫌だと意思表示をしてもよいでしょう。
相手が苦手な場合ほど
断りにくく感じ、
相手を不機嫌にさせないようにと
遠慮してしまうかもしれません。
しかしそれでは、
自分の意向を上手に伝えることができず、
ストレスをいつまでも
抱え続けることになります。
断ることに不安を感じるのは、
「相手を不機嫌にしてしまうかもしれない」
という心配があるためです。
しかし、相手がどう感じるかまでは
自分の責任ではありません。
自分自身の感情には責任がありますが、
相手の感情まで背負う必要はないのです。
ただし、断る際に
丁寧な言いかたや表現を
心がけることはとても大切です。
その上で、
言うべきことははっきりと伝え、
気乗りしないことは
受け入れないほうが賢明でしょう。
たとえば、「プライベートな助言は
負担に感じるので控えてください」
「お誘いはありがたいのですが、
今日はお断りさせてください」など、
自分の希望や気持ちを
率直に伝える勇気を持つことが、
自分を守る第一歩になります。
====
苦手な人と距離を保つために
役立つ方法として、
「ディス・ペーシング」という手法があります。
たとえば、あなたが
職場の先輩や上司から気に入られ、
お気に入りの後輩として
扱われているとしましょう。
しかし、
あなた自身にとってはそれが負担で、
避けたくても何度も声をかけられ、
困っているという状況です。
このような場合、
もしあなたが相手の話に賛同したり、
興味があるような態度を
取ってしまっているとしたら、
今後はもう少しクールな姿勢を
取ってみてもよいでしょう。
笑顔で相づちを打ちすぎると、
相手は「この人は
自分の話を聞きたがっている」と感じ、
ますます誘いやアドバイスが
増えてしまうからです。
ここで役立つのが、
「ディス・ペーシング」です。
ディス・ペーシングとは、
「ペーシングの逆をすること」。
ペーシングとは、
意識的に相手の話すスピードや声のトーン、
表情などを似せる方法で、
これによって相手は安心感や好意を感じ、
あなたとさらに話をしたい
と感じるようになるでしょう。
そのため、
良好な関係を深めたいときには
とても効果的です。
しかし、この方法を
苦手な相手に使ってしまうと、
相手からさらに好意を抱かれ、
苦痛が増す場合もあるのです。
そこで、
距離を置きたい相手に対しては、
ペーシングとは逆のことを
意識的に行うのです。
たとえば、相手が
明るく前のめりになって話しているときには、
あなたは少し引いた姿勢をとる、
また相手が
高いトーンで話しているときには、
あなたは落ち着いたトーンを維持するなど、
「あえて合わせない」態度を取るのです。
そうすることで相手は、
「この人はあまり興味がないようだ」と感じ、
話したいという意欲が
徐々に薄れていくでしょう。
また会話の中でも、
「そうですね」「わかります」などの
共感的な反応を控え、
「そうなのでしょうか」
「そういう考えもあるんですね」など、
どこかクールな反応を
返すこともポイントです。
ただし、
あまりに露骨なディス・ペーシングは
相手との関係を
悪化させる危険があります。
相手との関係や
そのときの状況を考慮しながら、
あくまでもさりげなく行うのが理想的です。
相手に気づかれにくい
ディス・ペーシングのスキルを
身につけることで、
自然と相手があなたに近づく頻度も
少なくなっていくでしょう。
====
接客業のように、
お客さんに対して
笑顔で対応する必要がある場面では、
ディス・ペーシングが
適切でない場合があります。
相手に合わせることが
求められる状況で、
自分の心を守るには
どのような方法があるでしょうか?
そんなときに役立つのが、
「心のバリア」を意識する方法です。
ここで一つの
イメージワークを試してみましょう。
透明な壁が
自分の周りを覆っていると、
頭の中で思い浮かべてください。
そして、そのイメージを持ったまま
相手の話を聞きます。
たとえ相手の口調がどれほどきつくても、
その壁をすり抜けて
自分の心に届くことはないと
強くイメージしてみるのです。
想像力が豊かな人なら、
この「心のバリア」によって、
相手から受けるストレスを
軽減できるでしょう。
もしそれが難しければ、
「知性的な分析」をすることで
自分の感情を
クールダウンさせる手法もあります。
相手の言動にイラッとした場合、
感情に振り回される前に
「この人は不満を吐き出す場所を
探しているのだろう」
「怒りの裏に悲しみがあるかもしれない」など、
相手を一歩引いた視点で眺めてみるのです。
心理学には、
「知性化」という防衛機制があります。
これは感情を切り離し、
論理的・知的に物事を分析することで、
不安やストレスなどのネガティブな感情に
襲われるのを防ぐ方法です。
相手の言動を少しクールな目で分析し、
「これはある種のアピールだな」
「怒りの奥にある傷つきを
表現しているだけなのかも」と捉えると、
嫌な感情に襲われにくくなり、
心を守れるようになるでしょう。
====
これまで
「よい人でいなければならない」
「相手の期待を裏切ってはいけない」
といった思い込みを
抱えながら生きてきた人にとって、
心理的な距離を取るのは
難しく感じられることが
あるかもしれません。
しかし、その思いを
緩めることは可能です。
大切なのは、自分自身に対して、
「よい人でなくてもよいんだよ」
「相手をがっかりさせてもよいんだよ」
「自分の気持ちを優先してよいんだよ」
といった許可の言葉を、
やさしく語りかけてあげることです。
この試みは、一度や二度で
すぐに効果が現れるものではありませんが、
意識的に繰り返していくうちに、
少しずつ心を縛っていた思い込みを
緩めることができます。
「相手をがっかりさせてはいけない」
「よい人でいなければならない」
という気持ちは、
一見すると立派に思えますが、
結局は自分自身を苦しめる原因に
なってしまいます。
その結果、気づかぬうちに
自分から不満のオーラを
放出してしまうことも珍しくありません。
それよりも、自分を優先し、
自分の心を満たしてあげれば、
自然と心が軽くなり、
周囲にもよい影響を
与えることができるでしょう。
長い目で見れば、
そちらのほうがずっとよいはずです。
「相手の期待を裏切ってはいけない」
「相手を不機嫌にさせてはいけない」
という思い込みを手放すのは、
一朝一夕には難しいかもしれません。
それでも、
「自分の気持ちを優先してもよい」
「自分自身を守ってもよい」
といった言葉がけを続けることで、
やがてその感覚を
自然と受け入れられるようになるでしょう。
すると、苦手な相手とも
無理なく心地よい距離を保つことができ、
より幸せな気持ちで
毎日を過ごせるようになるでしょう。
====
この記事では、
苦手な相手との距離を無理なく取り、
日常のストレスを軽減するための考え方や
具体的な対処法についてお伝えしました。
心穏やかに過ごすためには、
苦手な相手との間に境界線を引き、
心理的な距離を取ることが大切です。
そのために役立つのが、
「断る力」を身につけることや、
ディス・ペーシングや
心のバリアを活用する方法です。
さらに、
「よい人でいなければならない」
という思い込みを手放すことで、
自分の気持ちを大切にしながら
他者と関わることが
できるようになるでしょう。
これらをすべて一度に
実践する必要はありません。
まずは、自分にとって
取り入れやすいと感じるものを一つ選び、
それを実践してみてください。
たとえ一つのことでも、
続けていくうちに、
自分の感じ方や周囲との関係が
少しずつ変わってくるでしょう。
一つの方法が身についたら、
次にできることをまた一つ選び、
それを実践しながら
自分のペースで
積み重ねていくとよいでしょう。
最初は勇気が要るかもしれませんが、
少しずつでも行動を続けていくことで、
確かな変化を感じられるようになるはずです。
「自分を守ってよい」ということを忘れずに、
あなた自身が心地よいと感じる距離感を
築いていってください。
今までよりも穏やかな心で、
より快適な日常を過ごせることを
願っています。