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嫁いびり

ニュージーランドに移住してから、私は20年以上も日本に帰っていない。そんな長い間、全然里帰りしないのは、両親との険悪な人間関係があるからだ。以前は1年以上も日本の実家とご無沙汰状態のときもあったが、最近は大分変ってきて、年に3回くらいは電話やスカイプで両親と話をしている。

今では、私の両親も80歳を超えて「後期高齢者」の部類に入った。年齢を重ねて、父は大分ソフトになったようだ。以前は虚勢を張って偉そうにしていたが、最近は(電話やスカイプで話す限りでは)そのような様子もあまりない。

母は相変わらずで、今でもネガティブ言葉を連発して文句ばかり言っている。不思議なことにある時期を境に、私に対する非難はパッタリ止まった。それは、弟家族が両親と同居を始めた頃だ。でも、母は私を非難する代わりに、嫁いびりをするようになった。

「ご近所のお嫁さんは料理が上手で、美味しいパンまで焼いたのよ。それに比べて、あなたときたら…」といった感じだ。以前、私に対して嫌がらせをしたように、近くに住む家族のお嫁さんと義理の娘を比較して「あなたはどうしょうもない嫁」と言っているのだ。

母の中には非現実的な理想の嫁像があり、実際のお嫁さんが、母の頭の中で描く理想とは違うので、文句を言いたいのだ。母の期待に沿えない部分を減点法で差し引いてゆき、パーフェクトな嫁でないとからと言い、嫁を非難している。

こういう母の姿を見ると、私はとても不愉快な気分になる。

昔の私は、母からネガティブ言葉を連発されて、「自分は本当にダメな人間なんだ」と思い込んでしまった。小学校高学年のときから、成人した後も、ずっとずっと「ダメな子」「できない人」「近所のAちゃんと比べて、あなたはなってない」「人間のクズ」のように言われ続けてきた。子供の頃から大人になっても母から非難され続ければ、自分に自信が持てないのは当然だ。私の自己評価が低いのも、母から受けた悪影響が大きい、と私は信じている。

母の嫁いびりが始まってから、私は疑うようになった。「私がダメな子で、どうしょうもない人間のクズというよりも、母の欲求不満の捌け口に、私が使われていたのではないか?」と。

学校でも、職場でも虐めの対象になった私が気づいたことは、虐める人に共通する心理だ。虐める人は自分自身に劣等感があったり、精神的に満たされなくて不幸であるから虐めをするのだ。自分の近くにいる自分より立場の弱い人を見つけて、その人に自分自身の欲求不満をぶつけるのだ。

逆に、自分に自信があって、満たされている幸せな人は、決して他人のことを虐めることはしない。

虐めは学校、職場に限らず、家庭の中でも起きる。私の母が良い例だ。母は心のどこかで満たされていないのだろう。欲求不満があるから、自分より立場の弱い子供である私のことを虐めてきた。私のやる事なす事に文句を言い、ネチネチとネガティブ言葉で私のことを非難してきた。

そんな母に嫌気がさして、私は遠くの国へ移住してしまった。今では私も母の近くにいないので、母も文句を言う相手がいなくなったのだ。そのため、今度は同居してくれている嫁に対して、自分の欲求不満をぶつけるようになったと考えられる。義理の母という強い立場を利用して、嫁を非難して嫌がらせをするようになった。

昨年、日本の弟家族が私を尋ねてニュージーランドにやってきた。そのとき、弟から意外な話を聞いた。「お母さんとお母さんの兄さんって、父親が違うみたいだよ。本当は誰が父親かも分からないようなんだ」と。そう言えば、私は母側の祖父母には一度も会ったことがない。母から聞かされたのは「母の両親は母が子供の頃に病気や事故で亡くなった」ということだけだ。

「ああ、そういうことだったのか」と私は妙に納得した。そんな話、古今東西よくある話だろう。しかし、その当時の日本では「とんでもなくタブーなこと」で人様には言えることではなかったはずだ。おそらく母は幼少期にメンタル的にも大変苦労があったのだろう。母自身も自分の親から十分な愛情を受け取れなくて、大人になったときに未熟な母親になってしまったと考えられる。

自分自身が親からの愛情で満たされなければ、自分の子供の承認欲求を満たしてあげるのは難しい。実際の母の心の内は私の想像を超えるものだろう。母が子供のときから大きな苦労をして、親からの愛情に満たされることなく、寂しい思いを経験したことは想像できた。

今まで私は自分が子供の立場で、両親との親子関係を考えてきたが、このとき、母が子供のときにはどうだったか、ということを深く考えるようになった。母もそれなりに苦労があったのだ。だから、仕方なかったと許せる気持ちも出てきた。

でも、だからといって、母の嫁いびりや、昔私にしてきたことを正当化はできない。学校であれ、職場であれ、家庭内であれ、とにかく虐めはよくないことだが、家庭内での虐めは特に深刻だと思う。学校、職場を変えることはそんなに難しくなくても、家族内での人間関係から逃げるのは非常に難しい。また、親子関係で虐めが起きれば、それを代々引き継ぐリスクも大きい。

子供のときに親から虐められた人は、大人になったときに、自分の子供を虐めてしまうことが多い。子供のときに親からされて嫌だと思ったことを、今後は自分が親の立場で子供に対してやってしまう。それが繰り返されれば、親から満たして貰えなかった欲求不満を代々受け継いでしまうことになる。どこかで断ち切らなければ、家庭内での苦しみは永遠と続くことになる。