ニュージーランドで私が見た人種差別

昔はニュージーランドでも、
アジア人に対して、
風当たりが相当強かったらしい。
特に、現在60代、70代の人たちが
小学校、中学校へ通ったころは、
アジア人は超マイノリティーで、
アジア人であるというだけで、
学校でからかわれたり、
馬鹿にされたりしたらしい。

でも、現在は、昔とは大分違う。
2018年の国勢調査によれば、
自分がアジア系だと回答した人は
人口の1割以上だった。
アジア系移民の数が増えたことや、
アジア人(特に中国人)は勉強熱心で、
学校でもトップクラスの成績を修めることで、
馬鹿にされるどころか、敬われることが多い。

私はニュージーランドに来て30年になる。
私個人は、自分が日本人だからといって、
人種差別で嫌な経験をしたことはほとんどない。

以前、小銭を払ってバスに乗っていた頃、
釣銭を貰うのを忘れた時、
バスの運転手さんに
「ヘイ、そこの中国人の女性、
おつりを忘れているよ!」
と大きな声で叫ばれたことがあった。
「チャイニーズ」と呼ばれて、
あまり良い気分はしなかったが、
ニュージーランド人にとっては、
日本人と中国人の区別はつかないようなので、
まあ、仕方ないと思った。

自分自身が人種差別の被害に遭わなくても、
目の前で人種差別を目撃したことはあった。
私が大学留学中、
パーマストン・ノースの移民局での話だ。
私の留学期間は3年間だったが、
1年ごとにビザ更新をする必要があり、
移民局には幾度か足を運ぶ必要があった。

移民局での待ち時間は非常に長い。
待合室でも窓口の近くに座れば、
ビザ申請者と移民局職員との会話を
聞くことも可能だ。
盗み聞きすると言うよりも、
自然と聞こえてきてしまうし、
職員の応対する姿もはっきり見える。
自分の番が来るまで、
何もすることなく、ぼーっとしていたら、
ある職員の応対が目についた。

2人の白人女性がビザを切らせてしまい、
どうしたらよいのか、相談していた。
うっかりしてビザの期限を忘れて、
もう数週間経ってしまったとのこと。
悪気はなかったようだが、
厳密に言えば、この2人は不法滞在
ということになる。
でも、その2人に対して、
移民局職員はとても親切に応対している。
「忘れてしまっただけだから、
まあ、仕方ないですね」と言って、
今後どうすればよいのか
丁寧に説明していた。

それはまあいいにしても、
その2人が用を済ませて、
次の人の番になった時、
この職員の態度の変わりようはスゴかった。
次の人は中国人の若い男性。
ビザの更新時期をきちんと守って
更新のために移民局に来た人だ。
不法滞在しているわけでもないのに、
この職員の応対の仕方が
180度ガラリと変わって、
スゴクつっけんどうな失礼な態度だった。

前の2人はイギリスのパスポート。
でも、次の男性は中国のパスポート。
おそらく、それだけで差別をしているのだろう。
イギリス人なら不法滞在しても、
「悪気がないから、まあ仕方なかった」
と許して貰い、親切にその後の手続き方法を
教えて貰える。
でも、中国パスポートの場合は、
期限切れになる前に、きちんと手続きしているのに、
つっけんどうに横柄な態度で扱われている。
同じ人間が、短期間のうちに、
コロッと態度を変えて、
まるで別人のように振舞うのを見て、
私はかなりショックを受けた。

ニュージーランドの原住民はマオリ族。
現在、人口の大多数を占めるのは、
イギリス(United Kingdom)
からの移民の人たちだ。
彼らは、同じ移民でも、自分達が一番最初に来たから
偉いと思っているらしい。
ニュージーランドではUK出身者は
かなり優遇される傾向にある。
ニュージーランドで生活していると、
イギリスからの移民は大切にされ、
ちょっとした「特権階級」のように
振舞っている人たちもいる。
特に年齢が上の人たちに
そのような傾向がある
と私には感じられる。

昔、出会ったイギリス人は
自分がイギリス人だから偉い
というオーラを出していた。
ニュージーランド人に対して、
ちょっと上から目線という印象を受けた。
また、私の義理の母は、
彼女自身はニュージーランド生まれだが、
祖先がUK出身なので、
UKのことをHomeと呼んでいた。
年齢的にもうリタイアした人の中には
イギリス崇拝の精神が強い人も沢山いる。

実は、私は、日本人であるために得をした
ということがある。
ウェリントンでフラットを探していた時だ。
当時の私はまだ独身で車を持っていなかった。
街中で仕事をしており、バス通勤をしていた。
職場からそんなに遠くなく、
バス停もすぐ近くにあり、
買い物も便利なところを探していた。

色々な物件を見ているうちに、
一つ良いものを見つけたが、
その物件はかなりの人気だ。
10人くらいの人が、
そこに住みたいと希望していた。
バス停もショッピングセンターも近く、
とても便利な場所だ。
セントラルヒーティングもあり、
部屋も小奇麗でとても良い感じだった。
しかも、家賃はお手頃だ。

多くの希望者が出たので、
大家さんは入居希望者全員に面接をして、
その中から1名選ぶことにした。
もちろん、私もその面接に呼ばれて
大家さんと会って話をしてきた。
1つのユニットに10人の応募者。
こんなに倍率が高くては、
私にはムリだろうと思った。

でも、なぜか、私がそのフラットに
入居できることになったのだ。
大家さん曰く
「日本人は綺麗好きで、
きちんとしているから」とのこと。
その大家さんはギリシャ系の人だが、
どうも、この人は「日本人は綺麗好き。
しかも、きちんとしている人が多い」
という良い思い込みがあったようだ。

実際、日本人すべてが
綺麗好きできちんとしているか?
と言えば、大きな疑問があるし、
私自身はそうではないと思っている。
だけど、私が日本人だったから、
ラッキーなことに、立地条件の良い、
価格的にもお手頃なフラットを
手に入れることができたのだ。

現在私の住んでいる場所は
海外からの移民が多く住む地域だ。
子供たちが通った小中学校では
学生の3分の1は移民の子供たちだった。
コスモポリタン的な雰囲気で、
インターナショナルスクールのような感じだ。
そんなわけで、日本人であっても、
自分が外国人として、ここに住んでいる
という自覚もあまりなく、
とても居心地がよいというのが、私の感想。

現在のニュージーランドは人種差別の点では
かなりマイルドだと感じている。
外国人の私にとっても、
ラクな気持ちで生活できる良い環境だと思う。

今回は、30年間ニュージーランドに住んだ私が
この国で見た人種差別について
お話してみた。