パーマストン・ノースはニュージーランド北島、
マナワツ地方にある地方都市。
北島南端に位置する首都ウェリントンより、
140キロほど北上した場所にある。
人口は約8.5万人で
国内では8番目に大きな都市だ。
ハッキリ言って、特別何かがあるわけでもなく
イマイチぱっとしない都市だと思う。
でも、パーマストン・ノースは
私にとっては特別な場所だ。
その理由は、
私がニュージーランドで初めて住んだ所、
3年間の大学留学中に私をお世話してくれた
ホストファミリーが住む都市、
また、私が夫と出会った場所でもあるからだ。
私にとって、パーマストン・ノースは
ニュージーランドの「ふる里」とも言える。
ホストファーザーは数年前に他界したけれど、
ホストマザーは健在なので、
私たち家族は、ホストマザーを尋ねて、
年末年始には、必ず、パーマストン・ノースへ行く。
昨日もちょっとだけホスト宅へ遊びに行ってきた。
私がパーマストン・ノースに住んでいたのは、
25年以上も前のこと。
でも、毎回、この地を訪れて思うことは、
昔とあまり変わっていないということだ。
特に、私が住んでいた郊外の住宅地には、
全く同じ家が、そのままの状態でまだある。
一番大きな変化は
物価が高くなったことだ。
(これはパーマストン・ノースに限らず、
ニュージーランド全体で言えることだが)
私が学生の頃には、
大きなティーポットに入ったお茶が1ドル。
大きなケーキのスライスが1ドル。
フィッシュ・アンド・チップスのお魚が1ドル。
チップスの1スクープが1ドル。
スーパーマーケットに行って、
トローリーいっぱいに買い物をしても、
せいぜい150ドルくらいだった。
ところが、今では
小さなポットに入ったお茶が3ドル50セント。
ケーキは一切れ5~6ドルくらい。
フィッシュ・アンド・チップスのお魚は3ドル80セント。
チップスも1スクープで4ドルだ。
昔と同じような感覚でスーパーで買い物をすれば、
400ドルを超えてしまうこともしばしばある。
昔は賃金の低いニュージーランドでも、
食料品はかなり安かったので、
生活しやすい国だった。
でも、今では物価は日本よりも高くて、
経済的に厳しいと感じる人も多数いる。
もう一つの変化は、
パーマストン・ノースのダウンタウンより
少し離れた場所に新興の住宅地が幾つかできたこと。
また、ショッピングセンターがリノベーションされて、
ちょっとお洒落な感じのお店が増えたことだ。
昔あった地味で質素で社員食堂風のカフェは
すっかり姿を消してしまった。
レトロな感じのお店が大好きの私にとっては
残念なことだと言える。
ダウンタウンから郊外へ行くバスは、
私の学生時代には1時間に1本だったが、
今では45分に1本の頻度で来るようだ。
また、昔は週末にはバスは運航していなかったが、
今では土日もバスが走っている。
昔のマイクロバスから、今では普通の大型バスに
切り替わった。
ホストマザーに会って、毎回感心することは、
「元気な人だな」ということ。
もう80代になるのに、スゴク元気でピンピンしている。
50代の私が「ああ、年取ったな」と
身体の衰えを感じて、悲しくなることが
恥ずかしいと思えるほど、
彼女は気持ち的に明るく、ポジティブで、前向きだ。
ホストマザーは私の日本の実の両親よりも、
ちょっとだけ年上だ。
でも、人生をどう捉えるかが全く違う。
私の日本の両親は「苦労は美徳」と考えて、
「苦労は買ってでもせよ」というタイプ。
人生は辛くて苦しいことが沢山あるけれど、
それを克服することに意味がある
という風に考えるようだ。
それに対して、ホストマザーは
「人生は楽しむもの。この世の中は
喜びに溢れていて、とても楽しい所」
という風に感じているようだ。
同じ人間なのに、
まるで全く別の星に住んでいるようだ。
お互い全く異なる波動を発していて、
「家庭内の雰囲気もスゴク違うな」
と学生時代に感じていた。
私のホストファミリー宅では、
「誰でもウェルカムだよ」といった開放感と、
心の重荷がなくなるような解放感が両方あり、
私はとても良い環境で
学生時代を送れたと感謝している。
こういう言い方をすれば、
日本の両親があまり良くなくて、
ニュージーランドのホストファミリーが
素晴らしいという響きになってしまうが、
そういうことを言いたいのではない。
私の日本の実の両親宅と、
ニュージーランドのホストファミリーとは、
あまりにも違いがあることは確かだ。
おそらく、この違いは生まれ育った環境が
全く違ったからだと考える。
日本の両親は子供の頃に戦争を経験しているので、
大変厳しい環境下で子供時代を過ごした。
それに対して、私のニュージーランドのホストは、
そんなことはなかった。
その違いは大きいだろう。
私のホストマザーはほとんど料理ができないが、
そのことをちっとも気にしていない。
私の日本の実家では「女性は料理ができるべき」
みたいな信念があるので、
ホストファミリー宅では、私はとても驚いた。
日本で正しいと思われることでも、
国が変われば、価値観は全く違う
ということを学べて、視野が広くなったと思う。
私のホストマザーとファーザーは
両方とも再婚だ。
それぞれ子供を持っているが、
自分達の共通の子供はいない。
そのため、私とは血の繋がりはなくても、
私のことを娘だと思ってくれている。
私の子供たちが生まれた時にも、
ホストマザーとファーザーは、
自分たちがディファクト(事実上の)
おばあちゃん、おじいちゃんになってあげる
と優しいオファーを下さった。
だから、私にとって、彼らは
ニュージーランドの両親と言ってもよい。
私のニュージーランドの両親は旅行が大好きだ。
若い頃には、毎年、世界中を旅していた。
今でも、ホストマザーは実の娘や孫たちと一緒に
海外旅行を楽しんでいる。
数年前には、シンガポール、タイ、
オーストラリアへも行ってきた。
昔のように歩くことができないから、
現地で車いすを借りることもあるそうだ。
普通に考えれば、車いすを借りるようなら、
海外旅行へ行こうなんて気にならないだろう。
でも、私のホストマザーは違う。
どんなに年を取っても、まだ見ぬ世界を
体験して、楽しみたいと思っている。
今は新型コロナの影響で、
海外へ行くことはできないが、
近い将来、以前のように国際間の
移動が自由になった時には、
再び海外旅行をするつもりでいるらしい。
年をとっても好奇心旺盛で、
ハツラツとした気持ちでいるホストマザーを見ると、
「この人、本当にスゴイ人だな」
と感心するばかりだ。
今回のパーマストンノース訪問も、
私にとって、とても楽しいひと時となった。